24 常人であれば到底やらない、良くも悪くもイカレたエクストリーマーのする所業
いっぽう、場面は変わりて。
ちょうど、終電が過ぎるころ、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、Gホテルの部屋に戻っていた。
香る湯けむりとともに、ふたりは風呂から出てくるなり、
「ビール、ビール、ぽよ」
と、ガウンを羽織ったパク・ソユンが、先に冷蔵庫の前に行ったドン・ヨンファに言った。
ビールをくれ、との意味なのだろう。
「え? ビール?」
「ぽよ。ビール、ビール、冷えてるぽよ?」
「何だよ、冷えてるかって? 冷えてないビールなんて、渡すはずないだろ」
と、言いながら、ドン・ヨンファはビール瓶を取り出す。
「てか? どんだけ飲むの? 酒を?」
「だから、お酒は絶対やめたって言ってるぽよ。これは、麦のスポドリ、ぽよ」
「……」
ーーー
※『黄色の壁』より
***
「――ったく! なんであんな潜入しないといけねぇんだってだよ! このタヌキが!」
と、場面は変わって、ダムの内部にて
インカムに向かって、勢いよく憤ったのは、キム・テヤンだった。
『フハハ、よいではないか? まるで、007のようなことができて』
「よくねぇってんだよ……、ポンコツダヌキ」
返答して嗤う妖狐に、キム・テヤンが「やれやれ」と呆れる。
すなわち、振り返ること――
吹雪の中の、夜のダム。
――ヒュォォ……!!
と、風を切る音の聞こえる中、
「……」
と、キム・テヤンは意識を集中しつつ、端に足をかける。
常人であれば到底やらない、良くも悪くもイカレたエクストリーマーのする所業。
次の瞬間、
――ス、タンッ――!
と、あろうことか!
キム・テヤンはその一端から、飛び降りたのだ!
――ヒューッ――!!
と、勢いを増しながらも、キム・テヤンは冷静にして身体を制御し、水面にダイブするように格好をキメる。
そのうちに、
――ス、トン……
と、降下スピードは減衰し、ピ、タッ……と静止した。
つまり、キム・テヤンの足にはバンジージャンプ用のロープが付けられていた。
また、それは妖具による特殊な仕様もあり――、風に揺られたり、堤防に叩きつけられることもなく、精度高くも狙いの場所へと降下しきった。
しかし、それをし終わったのち、
「ふぅ……」
と、一服したそうに息を吐くキム・テヤンに、
『あっ、すまん』
と、無線から、何かうっかりしたような妖狐の声がした。
「ああ”? 何だよ? 今の『あっ、』って、」
『こんなことしんくても、普通に入れた』
「はぁぁ!?」
と、思わぬ妖狐の答えに、キム・テヤンは大きな声を上げた。
――というのが、事の経緯である。
まあ、結論からいうと、バンジージャンプなどする必要はなかったという。
『まあ、そうカリカリするな。せっかくの人生だ、一度くらい良いではないか? タダで、007みたいなバンジージャンプができたと思えば』
「何だよ、タダでって? アレで金払えってんのかよ? このドラえもん野郎」
呑気に言う妖狐に、キム・テヤンが顔をしかめる。
しかめつつも、
『さて? ボサッとしている暇は無かろう? さっさと先を急ぐぞ』
「けっ、お前のせいだろがい。真面目にやれってんだよ。てか? お前は、何をやってんだよ?」
『ああ? 私か?』
聞き返す妖狐だが、そこにフォーカスするに、ダムから少し離れた天然の温泉地であり、
『近くに、いい温泉があってな? ちょっと、そこに浸かっていてな』
「ああ”? 何が温泉だってんだよ、ふざけやがって、」
と、場面は戻って、キム・テヤンは呆れながらも諦める。
そういうわけで、キム・テヤンは狭い通路を進んでいく。
普段はチジミ屋のオヤジに扮しているものの、その身のこなしは、さすが元情報部の所属というべきか――?
俊敏にして隠密、なおかつ、不測の事態にはすぐに反応できる動作で確実に歩を進めていく。
だが、その時、
「ん――?」
キム・テヤンは何か、第六感の混じった違和感というべきものを感じるや、
「――ッ!」
と、超反応で咄嗟に回避動作をとる!
――ピィィン――!!
と、狭くも足元にはワイヤーのブービートラップが――!
それを回避するも、
「ちっ! やっぱし罠か!」
と、トラップは二重三重にも用意されており、慎重かつ精密なステップと身のこなしで回避する。
しかし、最後に回避しきったと思った刹那、
「――ッ!? しまった!」
と、キム・テヤンは“それ”に触れたことに気がつく。
そして、
「(――ッ! ダメか!!)」
と、ダメージを負うことを覚悟した。
次の瞬間、
――スッ――、コォォン――!
「あッ――!? 痛ッ!?」
と、軽い金属音を響かせ、頭上に振ってきたのは、オールドジャパニーズ・スタイルの小道具――
すなわち、金盥であった。
「は――?」
キム・テヤンは、目を点にしてポカンとしながら、
「どうゆうことだ……?」
と、一呼吸おいて、険しい顔をした。
すると、また無線から、
『ああ? すまん、今の罠な? 全部、私だ』
「ああ”!? ふざけてんじゃ、ねぇぞ! このポンコツダヌキ!」
『いや、ちょっと、貴様にイタズ――、いや、貴様を試したいと思ってな』
「今、イタズラって言おうとしただろうが! ――ったく! しょうもねぇことしやがって!」
『まあ、そういきり立つな。何も、罠らしい罠が無くて暇するよりも、よかろう?』
「いい分けねぇだろが! だからタヌキって言われんだよ! てめぇは、よぅ! こんの、ポンコツダヌキ!」
と、キム・テヤンは憤怒した。
まあ、無理もない。
ドラえもんの長編映画で例えるなら、何も起きないパートが続く時に、『つまらないから』という理由だけで、ドラえもんが自分たち自身に危害が加わりうる秘密道具をこっそり用いてハプニングを自演するという、サイコまがいなことをするようなものである。




