23 ナチュラル女キラー
(2)
パク・ソユンと、フロリストこと花園静華は、まだダムの中を歩いていた。
パク・ソユンが、囚われの身のピーチ姫であるとすると、この花園静華は、たぶんに、クッパに該当するであろう。
だが、その容姿や雰囲気はというと、『ベルサイユのばら』のオスカル氏であったり、宝塚のような美麗さ、あるいは百合モノの御姉さまのようなものを感じさせ、残念ながらクッパとはほど遠い。
――カツ……、カツ……
と、足音の反響するコンクリートの回廊。
そこには、まるで華道の一輪挿しの展示のように、さまざまな花と結晶華が、一定の間隔で飾られていた。
「……」
パク・ソユンは、チラリ……と見る。
中には、ギンピギンピであったりフッ化水素もしくはフッ化物の結晶華なども、あるのだろうか、と――
まあ、それはさておき、
「てか、さ?」
「ん――?」
と、パク・ソユンは、花園静華に話しかける。
「アンタって、女なのよね? 半生、サイボーグがどうのって言ってたけど、」
「まあ、そうねぇ……?」
花園静華は、考えるように、顎に指を当てて天井を仰ぐ仕草をしながら、
「――でも? それが、どうしたの?」
「いや、別に……」
と、パク・ソユンは一呼吸、間を置きつつ、
「――けど、そんな感じでさ? 今まで、女の子たちを“堕として”、作品にしてきたんだよね? どんな感じで、堕としのかな――? って、気になってさ」
「堕としたって……、もう、ひどい言いかたね」
と、花園静華が、わざとらしい表情をしてみせる。
「まあ、相手の女が、レズビアンかバイの類だったのか知らないけど、さ? 話しているうちに誘惑して、作品になるように、“教唆”した――」
「教唆て、」
と、パク・ソユンは仮定まじりに話しながらも、思う。
この、女の姿でありながらも、どこか男にも勝る、何かプレイボーイ的な魅力を感じる花園静華という女、もしくは“半生サイボーグと称するナニカ”――
同性の女であっても、惚れたり、心酔したように心を奪われる者がいるのも無理もないかもしれない。
そのように、思考をめぐらせていると、
「う~ん……? 教唆は、してないけど……、何ていうのかしら? お話しているうちに……、皆、作品になりたくなっちゃうみたいなの」
と、花園静華が答えてきた。
「はぁ、何よ? その、ナチュラル女キラー的な、」
「ナチュラル女キラーて……。でも、まあ、何て言うのかしらね? 私のとって、女性とデートをして作品にさせていただくのに、どこかプレイボーイみたいな愉しみを感じているのは、否定できないわ」
「ぽよ」
と、パク・ソユンの相づちを挟みつつ、
「……でも、同時にね? 何か、別れの時の、切ない喪失感というのも、あるわ」
「はぁ、」
と、話し終えた花園静華だが、その目は優しくも、どこか虚無を含んだように見えていた。
その花園静華に、パク・ソユンが、
「切ない、喪失感――」
「……」
「それがあるなら、何で? 作品になんかするわけ?」
と、聞いた。
「そうね……」
フロリスト、花園静華は、半ば遠い目をしつつ、
「“それ”こそが、私にとっても、矛盾を感じるところ――」
「……」
「私の欲を満たすことができるけど、それと引き換えに、女の子の命を奪うことになる――」
「……」
と、パク・ソユンは沈黙しながら、
「その……、女の子たちは、自ら作品にしてほしいと、アンタに頼むんだよね?」
と、改めて問う。
「ええ……。そうよ」
花園静華は、ゆっくりと頷く。
「私が、そういうふうに仕向けているというのも否定しないけれど、ね……。結局は、皆、作品になることを望む」
「……」
と、パク・ソユンは沈黙して、一呼吸置きながら、
「それは、どうして?」
「さ、あ……?」
…………
と、両者の間に、ひとときの沈黙が漂った。
そうしながらも、
「どうして、なのかしらね……?」
と、花園静華が、再び口を開いた。
「何か、心に闇を抱えていたり、さ? 自殺願望があるとかってわけじゃ、ないんでしょ」
「ええ。……まあ、多かれ少なかれ、心に闇の無い人は珍しいけれど、“そういった類による動機”ではないわ」
「じゃあ? どういう動機で、作品になることを望むんだろね? この、花と、結晶華と――、何か、関係が、あるわけ?」
と、パク・ソユンが、再び問う。
「う~ん? そうねぇ……?」
再び、考える仕草をする花園静華に、
「その、関係がありそうで関係があるとか……、関係がありそうで関係ないかもしれないとか、関係なさそ―「それ、長くなりそう? ソユン?」
「ぽよ」
「いや、『ぽよ』じゃなくて」
と、花園静華はパク・ソユンにつっこみつつ、
「まあ、そうね……、半々って、言っておこうかしら」
「はぁ、」
と、答えた花園静華に、パク・ソユンは気の抜けた相づちをした。




