22 機関銃の弾が当たらないほどに優秀な諜報員
そのように、考えに浸っていると、
「ん? どうか、したの?」
と、フロリストこと、花園静華が聞いてきた。
「ぽ、よ?」
パク・ソユンが、首を傾げて反応する。
まあ、何故お前が不思議そうな顔をするのか、というところだが、
「ああ? もしかして……? ここから逃げることを、もしくはアナタの御友人、お仲間が来ることを、考えてたりしてました?」
「ぽよ」
「まあ……、今、ここから出るのはちょっと、無理かもしれないわ」
「ぽよ」
「コラ。いいかげん、ちゃんと『ぽよ』以外で答えなさい」
「うん。無理ぽよー」
「……」
と、花園静華は推察して聞くも、ぽよぽよ答えるだけで会話を進展させてくれないパク・ソユンに沈黙する。
「まあ、とは言え、いちおう答えてあげないと、話が進まないから、仕方ないから答えるけどさ? ダムって言ったからには、山奥なんでしょ?」
パク・ソユンが、答えながら聞く。
「ええ。さすがのアナタでも、簡単に下山するのは、無理かもしれないわ。まあ、スキーで、降りれるのかもしれないけど」
「まあ、別に、逃げようとは思ってないんだけど」
「え? じゃあ、このままデートしたいってことね♪ うれしいわ、ソユン」
「はぁ、私は、絶対嬉しくないんだけど」
***
――ザッ、ザッ……
雪に、降り立った。
――ヒュ、オォォー……!!
と、吹雪くダムの堤防の上、
「う、うわぁぁん! ふ、吹雪が!」
ドン・ヨンファが、吹雪に心折れるように叫び、
「ああ”!? うわぁぁん、じゃねえってんだよ! うるせぇんだよ、タコ!」
と、キム・テヤンが怒鳴る。
まあ、お前の声も、充分にうるさいというところだが。
「まったく、よぅ! こんなとこにドライブってか、デートってか、センスなさすぎだろがッ! このフロリストってヤツは、よぅ!」
「まあ、もしかすると、ダムの中はけっこういい感じかもしれないじゃないか」
「おいおい、真面目に答えてくれるなよ」
と、答えながら丸サングラスが雪塗れになるカン・ロウンに、キム・テヤンが勘弁してくれよと言う。
「ったく、あのタヌキも、よぅ……、俺たちを落とすだけ落としていきやがってよ」
「確かに、潜入まで、手伝ってほしかったけど、仕方ないな」
と、カン・ロウンはキム・テヤンに同意しながらも、妖狐がついて来てまではくれないことを諦める。
そのまま、続けて、
「まあ、“葛葉”や魔界植物の偵察によって、内部の様子はある程度分かる、か――」
と、カン・ロウンは、タブレットで確認する。
確かに、“葛葉”の蔓葉が巻き付いており、ダムの内部の3次元マップが表示されていた。
「いちおう、遠隔で、サポートもしてくれるようだけどよ」
キム・テヤンが、そう言うと、
「罠とかは、無いんだよね?」
と、ドン・ヨンファが、心配するように聞いてきた。
「知るかよ! まあ……、“ある”もんだって考えて、潜入すべきだろう」
キム・テヤンが答える。
その流れで、
「とりあえず、分かれて潜入するか」
と、キム・テヤンが切り出した。
「分かれて――、だって?」
ドン・ヨンファが、聞き返す。
「固まって行っても、仕方ねぇだろ」
「そうだな。万一、罠にかかった時を考えたり、フロリストを追撃するの際にも、二手に分かれておいたほうがいいだろう」
「あっ、そっかぁ」
と、三人は話しながら、二手に、2・1で分かれる流れになる。
「で? どう別れるか?」
カン・ロウンが、聞くと、
「ああ”? んなもん、俺が単独で、ロウンとヨンファのふたりで別れるしかないんじゃねぇか」
「え? ひとりで大丈夫かい? テヤン」
「あぁ”ん? 子供のおつかいみたいに聞きやがって、てめぇに言われたくねぇってんだよ!」
と、キム・テヤンが、鬱陶しそうにドン・ヨンファに言う。
その横から、
「まあ、テヤンに関しては大丈夫だろう。いちおう、007と同じく、元情報部だからな。潜入は、御手のものだろう。バンジージャンプからの、ダムの、秘密基地に潜入したり――、バイクから、崖からセスナに飛び乗って脱出したり――」
「けっ……、んなこと、できっかよ」
キム・テヤンは舌打ちしつつ、昔見た映画が頭に過ぎる。
その傍らで、
「あれって、何で、機関銃の弾が当たんないんだろうね?」
「さあ、優秀過ぎて機関銃の弾も当たらないんじゃないか。あるいは、機関銃の弾が当たらないほどに優秀な諜報員なのか」
「え? どっちもいっしょじゃないか、ロウン」
「ああ”! うるせぇってんだよ、タコ! 何余計なことごちゃごちゃ言ってんだよ!」
と、カン・ロウンと話すドン・ヨンファに、キム・テヤンが鬱陶しがって怒鳴る。
まあ、これは無理もない。
本題に戻って、
「まあ、とは言え……、気をつけてな、テヤン」
「ああ。いちおう、タヌキの妖具も使わせてもらう」
と、用心するよう心配するカン・ロウンに、キム・テヤンが答える。
そうして、準備を整えて、
「さて。――では、潜入しようか。我らが、ピーチ姫を助けに行かないとな」
「え? “アレ”が、ピーチ姫?」
「けっ、あんなもん、ピーチ姫じゃねぇだろが。どうせ、ケロッとしてやがんだろうが」
と、決めるように言ったカン・ロウンに、ドン・ヨンファとキム・テヤンのふたりが返す。
そんなに心配していない様子だが、裏を返せば、パク・ソユンのことを信頼しているということなのだろう。
まあ、もう少し、まともに心配しろという話だが。




