21 もしかすると、『ぽよ』は、量子コンピュータのような可能性を秘めた返事――、なのかもしれない……
(1)
――カッツ――、カッツ……
と、足音を響かせながら、調査ダムの中を散歩する。
パク・ソユンと、フロリストこと花園静華のふたり。
ダムの監査廊や、機械室を見て回ったり、まるで金毘羅山を巡るかのごとく、急傾斜の階段を上ったり下りたり。
ただ、それらは、調査している事件の犯人にエスコートされるという、何とも奇妙な構図である。
「へぇ……、ダムの中って、こんなんなってたんだ」
パク・ソユンが言い、
「ん? 知らなかったかしら?」
と、フロリストこと花園静華が受ける。
「はぁ? 知ってる人間のほうが少ないでしょ。関連職種の人間だったり、土木、ダムマニアでもない限り」
「あら? アナタは、てっきり、そんなでも趣味ありそうかなと思ってたけど、」
「ぽよ」
「……」
と、相変わらずの『ぽよ』に、花園静華は沈黙しつつ、
「だから、どっちなのかしら? その、『ぽよ』は、」
「うん。だから、ダム・土木マニアのような、そんな趣味が“ある”かもしれないし、無いかもしれない……。もしかすると、『ぽよ』は、量子コンピュータのような可能性を秘めた返事――、なのかもしれない……」
「はぁ、」
と、パク・ソユンの意味不明な発言に、花園静華は間の抜けた相づちをしつつ、
「まあ、いいけど……、そう言えば? アナタの部屋に、カラーコーンがあったけど……? “アレ”は、どうしたの?」
と、思い出した。
「ん? “アレ”の、こと?」
パク・ソユンが。聞き返す。
「ええ。あの、蔓バラと、鋸の、オブジェといっしょに置いてあった」
「ああ……? アレねぇ……? アレ、よく覚えてないんだけど、さ? 何か、朝起きてたら、アレ、聳え立ってたんだよね? アレ」
と、パク・ソユンは答える。
まあ、まるでラテン系の言語に出てきそうな感じで、何回『アレ』を使うのかという話だが……
それはさておき、
「ああ? お酒を飲んだくれて、どこかから持って帰ったのね」
と、花園静華が理解しつつ、
「だから、皆に言ってんだけどさ、お酒は絶対やめ―「―れてないよね?」
と、いつもの、タバコを吸いながら禁煙会見をする俳優のように言おうとしたパク・ソユンに言葉をかぶせ、遮って言わせないようにする。
「ぽよ」
「何かしら? もしかして、タバコを吸いながら会見する禁煙会見をする俳優の、ネタかしら?」
「ぽよ」
「……」
と、まさかの連続で『ぽよ』で返すパク・ソユンに、花園静華が微笑ながらも、チーン……と沈黙する。
そのように、いったん、散歩の足を止める。
コンクリートの回廊の、ひんやりとした空気、
外は、マイナス何度か――?
そうした、想像が過りながらも、
「そう言えば、さ?」
「ん?」
と、パク・ソユンが、花園静華に聞く。
「何で? 散歩なんか、すんの?」
改めての問いに、
「いいじゃない。散歩をするのは、頭の中や、気持ちを整理するのに良いって、よく言うじゃない」
「はぁ、」
「ちなみに、もし、散歩している間に、“作品”にしてほしくなりましたら……、いつでも、仰ってくださいね♪」
と、花園静華が丁寧な御姉さまのように、ニコリとして言うも、
「うん。やだぽよ」
と、パク・ソユンは返す。
「あら? まだダメなの?」
「はぁ、何? アンタは、私を作品にしたいわけ?」
「もう、だから、静華って呼んでよぉ、ソユン~」
「うん。絶対やだぽよ」
「もう」
花園静華が、わざとらしく、残念そうに拗ねて見せる。
そんな様子を、
「……」
と、パク・ソユンはチラリと観察しつつ、考える。
犯人のフロリスト、花園静華だが、今のところ、自分に危害を加えてくる様子はない、か――?
むしろ、今までのケースでも、女の子たちを無理やり作品にしたわけではなさそうでもある。
とは言え、そう簡単に、戦って勝てそうな感じもしない。
先ほど見積もったように、これまでに対峙してきた敵(?)、犯人の中では、一番の強敵のように思われる。
なので、下手に戦闘を仕掛けるよりも、とりあえず、“あいつら”が来るまで、時間稼ぎをしたいとは思う。
それか、もし聞けるのであれば、このフロリストから“有用そうな情報”を引き出せないだろうか。
まあ、二回目の“とは言え”、ここは? いったい、どこなのだろうか?
まあ、ダムとは言ってたが、どのダムなのか?
戦闘機に乗せられた時からの記憶がないので、時間的な感覚から逆算はできない
が、おおそよ、国内ということにしておいてほしい。
間違っても、国境を超えるのは勘弁してほしい。
すると、じゃあ、あいつらは、どうやってここまで来るのだろうか?
まさか、同じように航空機か、何か、全天候型のヘリか?
ただ、あいつらも酒を飲んでるし、そこは飲酒運転というか操縦を心配しておきたい。




