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07 【冷たい結晶華】  作者: 非常口どん八
第四章 ダムにて

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20 アナタは、『結婚しよう』って、人生にとって最も重大な決断のひとつを突き付けられた時も、『ぽよ』って答えるの? アナタは?



          (3)



 そうして、

 ――ス、タッ……!

 と、軍用ヘリからは颯爽と、黒のアサシンドレスに友禅を羽織ったタヌキこと、妖狐の神楽坂文が降り立った。

 それを見るなり、キム・テヤンが、

「だぁーッ! うっせぇな! このタヌキ! 時間を考えやがれってんだよ、しかも、こんな町の中の中で。こち亀じゃねぇんだぞ!」

「「中の中で?」」

 と、傍らでカン・ロウンとドン・ヨンファが首を傾げていると、

「まったく、貴様たちが望むから、カジュアルに軍用ヘリを持ってきたやったというに、」

 と、妖狐が、「やれやれ」との身振りで言った

「しかし、すごいタイミングで、持ってきてくれましたね。タヌ、キさん」

 カン・ロウンが言う。

「おい、訂正しようとしてるが、全然訂正できてないが」

 妖狐は、タヌキ呼ばわりにつっこむも、もはや諦めているので、それ以上追求しない。

「軍用ヘリがどうだとか話していた、すぐその後に持って来るとはな……、まるで、話を聞いていたというか、予知でもしていたのか?」

 キム・テヤンが聞く。

 まあ、ノートパソコンと、妖狐の“葛葉”をつなげてあるので、会話は聞いていたのだろう。

「ふむ。まあ、あんな場所に短時間でアクセスするのに何が必要か考えたら、そうなろうな」

「というか、軍用ヘリはいいけどよ? そもそも、お前の妖力で四人とも、『何処でもドア』のようにいけねぇのかよ?」

「おい、人を、ドラえもんみたいなナニカと勘違いしておるのか――? と、いつも言っておるだろ」

「いや、ドラえもんみてぇなナニカだろうが、おめぇはよぉ」

「ごめん、僕も、そう思ってたよ」

「……」

 妖狐は、チーンと沈黙する。

 少し、間を挟みつつ、

「まあ……、行けなくはないが、そのようなことをすると、フルで妖力を使うことになるからな」

「え? ダメなのかい」

「ダメに決まっとるだろう、そこまでの妖力を使ったら、私は枯れてしまうがい。鬼畜か? 貴様たち」

「あっ……、ごめん」

 と、ドン・ヨンファだけが、いちおう謝る。

「それに、妖力でドラえもんみたいに、おおよそ何でもできるとはいえ、貴様たちの、“人間の範囲内”を超えたことをするわけにはいかないのだ。私のいる、異世界の界隈的には」

「はぁ、」

 妖狐が補足するに、何やら、神っぽい方々界隈の事情があるとのこと。

 何でもあり、というわけにはいかないようにできているらしい。

 また、キム・テヤンが聞く。

「それで、よぅ? その、ヘリの操縦は、お前がするのか? タヌキ」

「――に、決まっておるだろう。貴様たちが操縦したら、飲酒運転になるだろうが。いい加減にしろ」

「あっ……? そっかぁ、」

 と、ドン・ヨンファが、ハッとする。

 というよりも、そこまで気をつかってくれる妖狐であるのに、ドラえもんだのタヌキ呼ばわりだの、まあまあ酷い扱いである。

 この三人、いやパク・ソユンふくめて四人も、けっこうクズなのかもしれない。

 それはさておき、

「とりあえず、だ。そういうわけで、さっさと出るぞ」

 と、妖狐が、三人に出発を促した。

「ああ、」

 カン・ロウンが、返事をする。

 その横から、

「分かったけど、よぅ? 出るはいいけど、それなりの装備はあんのか? タヌキ? 雪山の、ダムに潜入するとか、007見てぇなことするんだからよ」

「心配するな。“それ”も、用意している」

 と、聞いたキム・テヤンに、妖狐は答えた。

 そういうわけで、タヌキ――ではなく、妖狐の神楽坂文と、カン・ロウンたち人間三人は、軍用ヘリに乗り込む。

 そのまま

 ――ギュィ、ィイイン……、ババ、バババ!!!

 と、プロペラの轟音とともに、雪の降る街中、ヘリは上昇する。

 そうして、妖狐の操縦で、山のほうへと向かって行った。


     ***     


 少し、時間を前後して。

 場面は再び、まるでピーチ姫のように捕らえられたパク・ソユンのいる、ダムの内部へと変わる。

 自分をさらった犯人こと、フロリストの花園静華とともにティータイムを送るという、謎のシチュエーション。

 飲みかけの、ローズヒップティーを横にしながら、

「そう言えば、さ? ソユンは? 彼氏とか、いるの?」

 と、花園静華が聞いた。

 まるで、百合モノで揺さぶりをかけてくる御姉さまのような目で。

「ぽよ」

 パクソユンが、八ッ橋を咥えながら反応する。

「……」

 花園静華が、ニコリとした御姉さまの目で沈黙する。

 多くの者が、このパク・ソユンの「ぽよ」で沈黙してしまうが、このフロリストも例外ではなかった。

 間を置いて、

「彼、は――? あの、黄色のスーツの……、何て言うのかしら? キノコヘアーの方は? 彼氏じゃないの?」

 と、花園静華は、ドン・ヨンファについて聞いてきた。

「さあ、どうなんだろね? 昨夜、エッチしたけど」

 パク・ソユンが、ジトッ……とした、眠たそうなガチャピンのような目で、感心なさそうに答えつつ、

「ふぁ~……、あっ……」

 と、欠伸をした。

 ベタな恋愛モノだと、「そ、そんなっ、彼氏だなんて」などとテンパったり、あるいは「は? 彼氏なわけないじゃない」などと、ツンツンした反応をするところだろうが、たぶんに、本当に関心がないのだろう。

 そんな、動じることのないパク・ソユンの様子を見て、

「てか? エッチって、さ? ソユン、絶対、すっごいマグロでしょ?」

 と、花園静華が聞いてきた。 

 まあ、その直感は当たっているのだが。

「ぽよ」

 と、またパク・ソユンが、「ぽよ」だけで答える。

「……」

 再び、花園静華が涼しい御姉さまの表情で、チーンと沈黙しつつ、

「ごめん。その『ぽよ』、どっちの『ぽよ』か分かんない」

「だから? どっち――、とは?」

「いや、『イエス』か『ノー』でしょ。アナタは、『結婚しよう』って、人生にとって最も重大な決断のひとつを突き付けられた時も、『ぽよ』って答えるの? アナタは?」

「何、その? なんか、若干、デジャブのする問いは、」

 と、パク・ソユンは、どこかで似たようなやり取りしたなと思いながら言う。

 まあ、お前が全部『ぽよ』で答えるから悪いのだろうが、という話だが。

 それはさておき、

「まあ、私は結婚ってのは、特に、人生で過大視していないんだよね。子供をつくるには、若干、もうちょい早かったほうがいいんだろうし」

「ふー、ん……」

「ああ、ちなみに、兄妹が結婚しているからパク家は安泰よ」

 と、パク・ソユンは、そこが重要だとビシッとキメるように言う。

「何ていうのかしら? 結婚ていうのは、単なる共同体の、維持のため程度のものってこと?」

「まあ、そなんじゃない? たぶん、そっちのほうが、本来スタンダードだったんだろうし……。あと、結局、人間ってのは寂しさに弱いからさ? 恋愛も、結婚も、友だちをつくるのも、そのための方便のひとつなんだろねって、極端なこといえばだけど」

「……」

 と、フロリストは、静かに聞く。

「まあ、そうすると……、アイツと、アイツら一緒にいるってことは、私も、それなりに寂しさには抗っていない人間なのかもね」

「……」

 と、そこで、会話は切れる。

 空になったカップは、乾いてきて、

「ちょっと……、散歩にでも、行きましょうか?」

「はぁ、」

 と、パク・ソユンは気だるそうな相槌をしつつ、花園静華にエスコートされるようにして、ソファーから立ち上がった。

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