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冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第一章 発端、展示会場にて
2/28

2 そうよ。アナタは国の命運を賭けた交渉のときも、『YESか? NOか?』、『ぽよ』って、アナタは答えるの?




「私の夢ではないッ!」

「――!?」

 一喝する綾羅木定祐に、上市理可は驚く。

「私だけの夢でなく、これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の来たるシンギュラリティに向け、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セッ○ス産業の夢を、先ほど君は壊したのだ! カンチョーを、口に垂らしてな! ゆめゆめ忘れるな!」

「うわー、気持ちわるー! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!」


   ーーー


※『シン屋根裏の散歩者』より







          (2)



 冬――

 雪の降る12月の、韓国はソウル。

 東大門にある、アルミ板の銀白色の、近未来感あふれる曲線で構成される展示会場にて、


「う、ぃ~」


 と、気の抜けた挨拶とともに現れたのは、白のもこもこ、かつガーリーな衣装で登場したのは、パク・ソユンだった。

 整った美貌かつプロポーションで、グロ映画にちなんだ『SAW』との芸名のDJ兼モデル。

 そんなパク・ソユンに、

「おう、おはよう、ソユン」

「何? また、二日酔いでもしてるの?」

 と、彼女の事務所の仲間が声をかけてきた。

 そのうちの、男のほうは、まるで水泳ゴーグルのようなサングラスが特徴的である。

「は? 二日酔い? いや、私は、お酒は絶対やめたって、ぽよ」

「え?」

「何、それ? その、お酒は絶対やめたって?」

 ふたりは、キョトンとした顔をして、

「「てか、ぽよ――!?」」

 と、ここで声をそろえてつっこんだ。

「ぽよ」

 頷くパク・ソユンに、

「……」

「……」

 と、ふたりは口をポカンとさせる。

「いや、さぁ? この前から、時々、語尾に『ぽよ』がつくようになっちゃって、さ、ぽよ」 

「はぁ、」

「いや、何なのよ? その、『ぽよ』って、」

「ああ、今日の“設定”は低いから、安心してよ」

「何だよ? 設定て」

 と、ゴーグルサングラスはつっこむも、それ以上は聞く気が失せた。

 そんなふうに、「やれやれ」とふたりが見るパク・ソユンの姿――

 ジトッとした、少し眠そうな目で、髪もサッといそごしらえにセットしただけなのだろう、少し寝癖まじりなのが分かる。

 先日は、この会場で――、装花と美容・ファッション、様々なアートのコラボしたイベント会場で、ファッション・ショーの装いをして、美麗かつ“カワイイ”佇まいでDJをしていたとは、とても思えなかった。

「てか? お酒は絶対やめたって、絶対やめてないだろ? ソユン?」

 また、ゴーグル・サングラス男が言うと、

「そうよ アナタがお酒なんて、やめれるわけないじゃない」

「ぽよ」

「「……」」

 と、パク・ソユンの『ぽよ』の返答に、ふたりは絶句しつつ、

「「ごめん。その『ぽよ』、どっちの『ぽよ』なのか分からない……」

「どっちの『ぽよ』とは?」

「どっちのって、YESかNOだよ」

「そうよ。アナタは国家の命運を賭けた交渉のときも、『YESか? NOか?』、『ぽよ』って、アナタは答えるの?」

「いや、何ぽよ? その例え」

「てか? ついこの前だって、酔っぱらって部屋にカラーコーン持って帰ったりしてたじゃないか?」

「ん? ああ……」

 と、パク・ソユンは合点する。

 高級マンションのラグジュアリーな部屋にある、白いアート壁の前に佇む“錆びたチェーンソーと蔓バラ”というオブジェ。

 そこに、赤いカラーコーンがふたつ加わったという、何ともいえない光景。

 そんな赤いカラーコーンを、百人中百人が美女と認める美麗なモデル兼DJであるパク・ソユンが、「……」と、ジトッ……とした目で淡々と自宅に持ち帰るというシュールさである。

 そのように話していると、


 ――ツカ、ツカッ……


 と、革靴の音を響かせて、男が近づいてきた。

 キノコヘアの、黄色スーツの男。

 ただ、その黄色のスーツはというと、普通のスーツではない。

 寒い朝に車のフロントガラスやボディにできる霜降り模様、いわゆる霜華やジャックフロストなどと呼ばれる模様の加工が施された高級スーツ。

 しかも、大きな点線のチェック模様が、まるでGUCCIがクレヨンしんちゃんに出てくる組長――、否、園長先生にインスピレーションを受けたスーツを思わせる。

 男は中規模財閥の一族で、趣味程度に実業家やビジネスを嗜む、ドン・ヨンファだった。

 すると、

「あら? おはようございます。ご機嫌いかがですか? ドン・ヨンファ会長」

「――!?」

 と、まるで瞬間移動のように、不意打ち的に眼前に現れたパク・ソユンに、ドン・ヨンファはビクン――! と驚いた。

「(何よ? そんな、驚かなくても)」

 近づいて、小声で言うパク・ソユンに、

「(い、いや……、その……、君が、このイベントにいることは知ってたんだけどね、こんな公の場で、急に合うとね)」

 と、まだ動揺が残りながらも、ドン・ヨンファは答える。

 すなわち、ふたりはSPY探偵団なる、サークルみたいな集まりの仲間であるのだが、場所も場所であり、いちおうフォーマルに振舞うべき心の準備をしていたところの不意打ちであった

 そうしながらも、

「で? また、眠そうな目をしてるね、ソユン。お酒でも、飲んだのかい?」

 と、普段のモードに戻して、ドン・ヨンファが聞く。

「だから、お酒はぜった「――ああ、飲んだんだね」

 と、タバコを吸いながら禁煙会見に臨む大物俳優のように「絶対やめた」と云わんとするパク・ソユンを遮って、ドン・ヨンファが言う。

「ぽよ」

「いや、また『ぽよ』かよ……。どっちか分かんないんだって、その、『ぽよ』」

 と、ドン・ヨンファがやれやれとつっこむも、

「まあ、いいじゃん。もう、私の仕事は昨日で終わったし、今日は個人的に見に来ているようなもんだし」

「まあ、確かに」

 と、それを半ばスルーして、パク・ソユンが先の問いに答えた。

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