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07 【冷たい結晶華】  作者: 非常口どん八
第一章 発端、展示会場にて

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3 ちょ、こんなところでチェーンソー召還するなって




 続けざま、

「う、うわぁ”ぁ”ん!!!!! そ、そ、そッ、ソユンーーッ!!!!!」

 と、顎が外れかねない勢いで、恐怖に叫ぶドン・ヨンファが、ガバァッ! とパク・ソユンに抱きついてきた。

 また同時に、

 ――ジョビ、ジョバー!!

 っと、ドン・ヨンファの下半身のほうから、液体がドバーッ! と流れだした。

「ん? アンタ? 漏らした? ちょっと、離れてくれない?」

「いッ、いやいやいや!? それどころじゃないって!!! ソユン!!!」

「は? 大きい方、漏らしたわけ? ウンコを?」

「ち、ちち、違うって!! いや、あっちを見なよ!!」

 と、のほほんとして汚いものを見る顔で話すパク・ソユンに、ドン・ヨンファが必死で訴え、指をさす。


   ーーー


※『トランス島奇譚』より






 そのまま、続けて、

「で? アンタは、何で? ここに、いるわけ?」

「ああ、僕も、ビジネスと、趣味をかねて来ていてね。僕が、芸術関係の事業も扱っているのは、知っているだろ」

「ぽよ」

「……」

 と、パク・ソユンの『ぽよ』に、ドン・ヨンファは調子を狂わせながらも、

「まあ、いいや……。とりあえず、せっかくだから、会場を見て回ろうよ。まだ、イベントが始まる前だけど」

「ぽよ」

「……」

 と、先ほどと同じ『ぽよ』に、

(ああ……、もう、いいや、こいつ……)

 と、ドン・ヨンファは諦めた。

 

 そうして、ふたりは、会場内を散策していく。

 様々な装花と、アートが展示されていた。

 用いられている花の中には、桜や、チューリップといった季節外れのものもあり、

「あれ? 桜? さすがに、早くない?」

 と、パク・ソユンが気づく。

 桜を中心に用いた、フラワーアレンジメント作品――

 コンクリートブロック、それも割れたブロックをまるで金継ぎするかのように、黄緑色や桜色、白色、そして少しの金色といった種石や砂利が浮き出る、いわゆる左官でいうところの洗い出し加工されたアーティスティックなブロックを積み上げたものを土台とし、宝飾やブランド類とともに、インスタレーション作品のように桜などの花々が彩っていた。

 その中で、モデルやインフルエンサーたちが、撮影でもするのだろう。

 それはさておき、

「まあ、冬桜、とかじゃないかな?」

 ドン・ヨンファが、答える。

「ああ、冬桜ね」

「うん。それか、何か特殊な保存技術を用いたもの、かな……? 僕の関わっている事業でも、フラワーアレンジメントの、流通や保存事業を扱っているからね」

「はぁ、」

 と、パク・ソユンが相づちした。


 そのまま、しばらく見て回る。

 スワロフスキーのように、輝くガラスアートのシャンデリアと、フラワーアートのコラボ。

 まるで、ファッションブランドの店舗ショーウィンドのようなフラワーアレンジメントなど――

 確かに、それらは、ファッションやアート、各分野の業界人やインフルエンサーや、そのファンや顧客たちにとっても、それなりに来る価値のあるイベントには違いない。

 そのようにして、会場を回っていたところ、


「――あら? 会長じゃないけ?」


「ん?」

「ぽよ?」

 と、ふたりは突然に、背後からかけられた声に反応した。

 振り向いて見るに、そこには、職人の作務衣に黒のコート姿の、左官偽能アーティストを名乗る中年男こと、る・美祢八の姿があった。

「あれ? 美祢八?」

 ドン・ヨンファが、その姿を確認し、軽く驚いた。

「……」

 いっぽう、パク・ソユンも、この美祢八とは面識があるのだが、特に何も反応はしなかった。

 すると、美祢八がパク・ソユンを指して、

「あっ、ぽよのおばちゃんだ」

「は? 何よ、おばちゃんって? 首落とすわよ」

 とここで、

 ――ジャ、キッ――

 と、パク・ソユンはイラッとし、異能力でもってチェーン・ソーを出しかけるも、

「(ちょっ!? こんなところでチェーンソー召還するなって、ソユン!)」

 と、ドン・ヨンファが声をおさえながらも、間一髪制止した。


 そのように、一触即発しないかハラハラしながらも、

「まあ、『ぽよ』って言っても、さ? いまは、設定低めだから、あまり『ぽよ』が出てこないかも」

「はぁ、逆を言えば、すくない頻度でも、『ぽよ』が語尾に出てくることやねか」

 と、美祢八がつっこんだ。

 また、ドン・ヨンファが、

「それで? 美祢八も、このイベントに?」

「おうよ。ちょっと、招待されての」

「はぁ、アンタの左官と、フラワーアートって、何か関係があるわけ?」

 と、パク・ソユンが聞いて、

「まあ、あるっちゃ、あるかのう……? 和室の、床の間なんか、花や活け花を飾るべき場所やし、のう。壁とも、充分、親和性のある分野っちゃ、分野やろう。まあ、その他、左官的な表現に、何らかのインスピレーションを得れるかもしれんし」

「まあ、確かに」

「ちなみに、これ、いちおう俺が手がけたやつやっちゃ」

 と、美祢八は指してみせる。

 そこにあったのは、オブジェと装華――

 灰色のセメント地に、赤や桜色や、金色の細かい砂利・種石を浮き出させた、先ほど見た洗い出しと、さらには剣山などで粗く引っ搔いて落とした、“かき落とし”仕上げという、そのまんまの仕上げ。

 それらオブジェと装華の、形と色と、調和とカオスが織り成すアートである。

「これは、あれかい?」

「ああ、洗い出しと、かき落としを少し組み合わせたんやっちゃ」

 美祢八は答えつつ、

「で、こっちは、富山ガラスとかなんか言っとるやつ」

「富山、ガラス?」

「おうよ。近代的なガラスアートを、何か格好つけて富山ガラスって、ブランドにしようとしとんやっちゃ」

 と、その、富山ガラスなるアートを見せる。

 そこにあったのは、まるで雪のような質感で、かつ多層的なガラスの柱と、金属製のパイプが、まるでパイプオルガンのように並びつつ、それらを滴れるように彩る装華。

 ここも、背景にして写真でも撮れば、なかなか映える写真が撮れるかもしれない。


 そうして、会場を回りつつ、そろそろイベントが始まらんとしていた。

 各分野の関係者や招待された客、一般客が入り始め、人も多くなってくると予想される。

 その時、


 ――ザワ、ザワ……


 と、中央とは外れた、とある一角が、ざわついていた。

「ん? 何け?」

 まず、気づいたのは美祢八だった。

「ん? どうかしたのかい? 美祢八」 

「ぽよ?」

 と、遅ればせに、ドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりも反応し、

「いや、何か、ざわついてないけ? あっち」

「ああ、確かに」

「……」

 と、違和感が強まる。

「何か、あったんだろうな。ちょっと、行ってみっけ」

「ああ」

「ぽよ」

 三人は、ざわつくほうへと向かう。

 そうして、野次馬の合間をぬって近づくと、


「ッ――!」

「むぅ?」


 と、美祢八とドン・ヨンファが同時に驚愕し、

「は? 何、これ――?」

 と、パク・ソユンも続いて顔をしかめた。

 そこに、あったのは、“遺体”――

 しかし、“それ”は、とても美しいものだった。


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