表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/203

17-1 悪役令嬢アンジェリークの悪夢

[今度、僕の婚約者のアンジェリークの誕生パーティーがあるんだ。生徒会のメンバーを招待して彼女をお祝いしようと思う。よかったらリリアンも一緒に行かないか?]


 これは、夢だ。

 繰り返し見た──あるいはかつて体験した、遠い日の夢。


 臨場感を味わいたくて、祥子は乙女ゲームをプレイする時はイヤホンをする。一人暮らしなので何の気兼ねもない筈なのだが、これは実家暮らしの頃からの癖かもしれない。


「んー……婚約者って、階段落としてきた人でしょ……それの誕生日パーティーかあ……」


 逆に独り言は大きくなった。スマホ画面の下部に表示された選択肢は、「行きます」「遠慮します」の二つだ。


「いや……普通は行かないでしょ、あんなに嫌われてるのに……でもフェリ様は光属性陽の者のいい子だから、仲良くして欲しかったとか言いそうだなあ……よし」


 行きます、の選択肢を人差し指でタップ。画面上の攻略対象フェリクス)が嬉しそうに頬を染める絵面に変わった。


[良かった、ありがとう。これを機に君たち二人が親交を深めてくれると嬉しいよ]


「ああ~~~いい……イケボすぎる……」


 画面を切り替えて、SNSにハッシュタグ入りで投稿。「婚約者の誕生日イベント進捗ちゅう #セレネ・フェアウェル #フェリクス #フェリ様 #スパダリ美味しいです」。


「え、嫌われてるのにプレゼントを用意しないといけないの? 手袋。お菓子。ぬいぐるみ。……お菓子にしとくか、消え物がいいよね。これも好感度に影響するかな?]


 ゲーム画面上部に現れては消える通知バー。[@lilyco_okashi いいとこ~][@yutoyutoyuto 初見の悲鳴が聞きたい][@minase_merodia shocolaさんの実況が聞けると聞いて][@lilyco_okashi このイベントのスチルshocolaちゃん絶対好き]


[……なるほど。一緒に買いに行くのね。なるほどね。嬉しいイベだけど、これ婚約者側からは絶許案件だよなあ。……あああああフェリ様ハニカミいただきました! ああああああ」


(……これは、祥子の記憶……)


 ゲーム内の誕生日パーティー当日、主人公リリアン)は一人だけ生徒会で追加の業務を頼まれる。急いで済ませればパーティーには間に合う。引き受けるか否か。引き受けて、書庫に荷物を運び入れる主人公リリアン)。何故か持ち出し禁止書類が紛れていて、地下の鍵がかかる書庫に戻しに行く。


「ああーもうー絶対フラグでしょー! ほらー!」


[押しても引いても扉が開かない。鍵をかけられてしまったようだ]

[悪く思わないでくれよ……俺は彼女に命令されただけなんだ]


「もー悪く思うに決まってるでしょ! 誰だよお前! 命令したのは流れ的にアンジェリークでしょ、自分で呼んどいて後から嫌がらせとかマジないわ!」


(初めてのプレイで、先がまだ分からなかった時だわ……)


[どれくらい時間が経っただろう……]

[……寒くなって来た……心細い……]


 薄暗い書庫の画像に表示されるナレーションの文字。そこに被せるように響く、余裕のない声。


[……リリアン……いたら返事をしてくれ……リリアン……!]


「きったーきたきたきたきたフェリ様来たああああああ」


[……誰か来た……! 扉を叩こう……!]

[ああ……! ここにいたのか、リリアン……! 時間になっても来ないし、他の生徒会の生徒に聞いたら書庫に向かったと言っていて……まさかとは思ったが、嫌な胸騒ぎがして……来てみて良かった……!]


 切ない顔をした攻略対象フェリクス)が、力の限り主人公リリアン)を抱き締めるスチルが表示される。


[こんなに震えて、まるで氷のようじゃないか……さあ、ひとまずこれを羽織って]

[リリアン……君に何かあったらと思うと、僕はこの胸が張り裂けそうだった……はっきりと分かったんだ、僕はリリアン、君のことを愛してしまっている……!]

[誰かに閉じ込められたって? まさか……]

[アンジェリークの今までの態度も目に余るものがあったが、こんな卑劣な事をするような輩だとは思わなかった……もしそれが事実だとしたら、僕はもう、彼女への愛情も親愛も、何もかも枯れ果ててしまうだろう]

[何より、僕はこの熱い想いを消すことなど出来ない……君を愛することを止めることが出来ないんだ、リリアン……!]

[君が無事で良かった……!]


「ぎゃああああああ、うぎゃああああああああああ、録音! 録音しとけばよかった!」


 場面が変わり、パーティー会場でドレスアップした悪役令嬢アンジェリーク)が映る。


[フェリクス様……遅いですわね……あっ]


 会場入り口から現れた攻略対象フェリクス)と、彼が手を引いてエスコートしている主人公リリアン)悪役令嬢アンジェリーク)の顔は怒りと悔しさで真っ赤になり、わなわなと震え──


[どこまで人の物を奪えば気が済むの! その手をお離しなさい、薄汚い泥棒猫! 書庫でネズミにでも齧られてしまえば良かったのに!]


 グラスが割れる効果音。画面は攻略対象フェリクス)主人公リリアン)を庇い、悪役令嬢アンジェリーク)が投げたグラスを受けてびしょ濡れになったスチルが映される。


[書庫、と言ったな、アンジェリーク?]

[あ……]

[リリアンが今までどこにいたのか、知っているんだな?]

[あ……あの……それは……]

[……残念だよ、アンジェリーク]


 攻略対象フェリクス)の声の温度が、階段を降りるように下がっていくのが分かる。


「んー……これは、次のイベントは婚約破棄、かな?」

「普通に、誕生日パーティーに彼氏が他の女と手つないで来たらキレるよね……」

「でも、その原因を作ったのは自分だし、自業自得かな」

「あー次のスチルどんなのだろう、楽しみすぎる」

「フェリ様ぁ~~~」


 祥子はベッドにばたんと倒れ、枕に顔を埋めてじたばたとする。


(…………)


 アンジェリーク・ルネ・ドゥ・セルヴェールは、記憶の連なりから逃れることが出来ずに、亡霊のように自分の前世の姿をずっと見つめていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ