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14-1 木漏れ日が照らしたもの

 翌朝アンジェが登校すると、フェリクスが待っていたとばかりに早速馬車の前でアンジェを出迎えた。


「おはようアンジェ、気分はどうだい」

「アンジェ様っ、おはようございますっ!」


 フェリクスの脇からリリアンがぴょこんと飛び出して来る。


「……おはようございます、フェリクス様、リリアンさん」


 アンジェはフェリクスとリリアンの二人に手を取られて馬車から降りる。周囲の生徒がいつものように──いつもよりも更に騒いだが、フェリクスはともかくリリアンも周囲を気にすることはなく、二人してアンジェの手を取ったまま歩き始めてしまった。アンジェはフェリクスとリリアンに両手を取られて歩く羽目になる。


「治癒魔法の疲れはもう抜けたかな。初めてだとあの独特のけだるさがしんどかったろう」

「ええ、結局帰宅してからほとんど寝ていたような気がしますわ」

「そうだろう」


 アンジェの右側のフェリクスは自然とエスコートの形になったが、リリアンはアンジェの左手を両手で握りしめているので、横歩きでぴょこぴょこと歩いている状態だ。アンジェはフェリクスからリリアンに視線を移す。リリアンは目線が自分に向けられたことに気が付くと、パッと顔を輝かせてはにかむ。アンジェはくすりと笑い、ぴょこぴょこしている少女の手をギュッと握り締めた。


「リリアンさん、お出迎えてくださって嬉しいわ、ありがとう」

「私も、朝一番に……あっ、えっと、殿下の次にお会いできて嬉しいですっ」


 今日の少女の手は、一昨日よりも温かいような気がする。


「今日は授業は午前で終わりますし、昼食をご一緒しませんこと? リリアンさんにお渡ししたいものがありますの」

「わっ、本当ですか、……あ」


 リリアンは驚きに目を見開いたが、すぐに口をつぐんでうんうんと頷いて見せた。きっとミミちゃんのことを思い出したのだろう。


「けれど……ね、カフェテリアでは、人目がありますわね、どうしましょう」

「それなら、僕と一緒に貴賓室に来るかい? 二人でいくらでも話して行ったらいい」


 フェリクスがアンジェの肩越しに声をかける。リリアンはギョッとしたが、アンジェは予想していたのでにこりと微笑む。


「ありがとうございます、フェリクス様。お言葉に甘えてぜひ、と言いたいところですけれど、今日はわたくしたち二人だけがよいのです」

「え……そうなのか?」

「女同士の秘密ですのよ、一昨日にお約束しましたの。ね、リリアンさん」


 アンジェはリリアンに向かってさりげなくウィンクしてみせる。リリアンはぴゃっと肩を震わせて頬を染め、それからこくこくと必死に頷いて見せた。


「そうなんです、秘密なんです」

「フェリクス様もいらしてはいけませんことよ」

「これは、……手厳しいな。力になれなくて残念だよ」


 フェリクスは言葉とは裏腹に、空にかかる虹でも見ているかのように愛しげに目を細める。アンジェはごめんなさい、と謝りつつも首を傾げた。


「でも、どうしましょう、場所のことを全く考えていませんでしたわ」

「アンジェ様、場所は、大丈夫です」


 リリアンがアンジェを見上げてにこりと笑う。


「まあ、本当、リリアンさん?」

「はい。カフェテリアでごはんと、ピクニックセットを借りて行けば大丈夫です」

「ピクニックだって! 素敵だね、どこに行くんだい?」

「まあ、フェリクス様、場所を聞き出してついていらっしゃるお心づもりですわね? いけませんことよ」

「そんなに駄目なのか……」


 フェリクスがわざとらしく肩を落としたので、アンジェはクスクスと笑った。


「今日だけはどうぞ、アンジェのわがままをお許しくださいまし」

「……ピクニックが終わった後、二人して貴賓室に来てくれるなら許さないでもない。僕は一人寂しく本でも読みながらずっと待っているよ」

「もう……承知しましたわ」

「脅すつもりはないけど、一昨日の事もあるんだ。よくよく気をつけるんだよ」

「心得ておりますわ」

「ああ、そうだ、別の日のピクニックには僕も同行させてくれること、これも約束してくれるね、可愛いアンジェ」

「はいはい、そう致しましょうね、フェリクス様」


 フェリクスが拗ねた様子でわざとらしく不機嫌な顔をして見せたので、アンジェはフェリクスの二の腕に添えた手で彼をぽんぽんと叩く。その手に触れてニコニコと微笑むフェリクス。リリアンは二人の様子を見てギョッとして目を見開き、顔を真っ赤にして慌てふためいたが、アンジェは笑うばかりでその手を離してやらない。


「あ、アンジェ様っ、私、あとで伺いますからっ」

「まあ、何を仰るのリリアンさん、校舎はすぐそこですもの、ご一緒しましょう」

「そうだ、スウィート嬢、一緒に行こう」

「私っ、お邪魔ですからっ、アンジェ様っ」

「うふふ、駄目よ、私の可愛い子リスちゃん」

「うう~……」


 リリアンは観念してじたばたするのをやめ、アンジェもフェリクスもクスクスと笑った。少し前をルナとそのスカラバディが親しげに話しながら歩いていて、笑い声に振り向く。アンジェの両手に二人がくっついているのを見て、ルナは校舎の壁をどんどん叩きながら大爆笑したのだった。





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