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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 71話 不幸者の望みは… 

オストが目を開ければ、そこは見知らぬ天井であった。

見知らぬはずが同じ状況に会うことが多すぎて、むしろ見知ったとすら思える。


(いや、どういうことだよ)


自分で思い浮かべておいて意味のわからないと、一人ツッコミを入れる。

重い体は寝床に吸い付けられて全く動けそうに無い。

普段、オストの寝起きは良い方だ。

目が覚めれば直ぐに起きて活動を開始するのは、村民だった小さな頃からの習慣だ。

しかし、今はいつものように動き出そうとは思えなかった。

動けない理由は体の疲れか、心に空いた喪失感か。

窓から差し込む光を鬱陶しく感じると、暗さを求めて腕で目を守る。

瞼の裏に映るのは消えていった人々。

友人だと言ってくれたソボックは革命派の旗頭で、元々裏切る為に演技をしていた。

師匠だったラフスは元々革命派の構成員で、ソボックに忠義を誓っていたために裏切られ、最後には殺してしまった。

そして、幼馴染のメルは村を襲った襲撃者の仲間で仇ともいえる存在だった。

オストは過去を振り返るのは好きでは無い。

思い出しても苦しい過去は多く、逆に楽しい過去はもう見れずに虚しくなるだけだからだ。


「クソ…」


拳を強く握り吐き出された言葉。

やりきれない思い、どうしようもない思い。

一言の呟きにオストの感情の全てが込められていた。


「辛そうだね。ボクでよければ慰めてあげようか?」


唐突にかけられた声。

部屋の中に自分以外がいる事を知らなかったオストだが、驚くこともなく平坦に受け止める。


「なんの用だ?」


「別に用事がある訳じゃないんだけど、強いて言えば看病だよ」


よくよく耳を澄ませば、筆を動かす音と時折紙が擦れる音が聞こえてくる。

書類作業をしていたシナは、普段とは違う優しげな声で答える。


「どうせなら、お前じゃない奴にして貰いたい」


「それは残念。今暇で看病が出来るのはボクだけだからね」


柄にもなく軽口に乗るオスト。

あの芝居掛かった口調ではなく、あまり気に障ずに話しやすいと言うのもあるが、今は何より気を紛らわせたい。


「意識が戻ったし、一応問診しとくね。体に違和感のあるところは?」


「全体が重い」


「それは疲れだね。痛みは?」


「無い」


「体調はどう?」


「怠い」


「最後に、気分はどうだい?」


「…」


意識が戻ってからシナと少ししか会話をしていないが、こちらの態度が素の状態なのだろうなと思っていた。

そうであれば、時折見せていた落ち着いた態度が理解できる。

あの陽気でうざったく性格の悪いのは演技なのだろうなと一瞬思っていたが、それはオストの勘違いであった。

性格が悪いのは元の気質であった。

数秒の静寂。

たっぷりと時間を使った後に「最悪だ…」と呟く。


「だろうね。うん、特に異常は無いね」


「クソ野郎だな。看病って言うんならもっと気を使えよ…」


「それは悪い事をしたね、謝罪するよ。キミの周りを引っ掻き回したことも含めてね」


明け透けの無い物言い。

心の傷を抉られたことに文句を言うが、今は怒る気も起きないオストの声にキレが無い。

筆の音が不意に止まると、椅子がゴトリと床を擦る音を立てる。

それから言われた謝罪。

だが、後半の方に至って言えばシナが悪いわけでない事は、今のオストでも理解できる。

元々こうなることは、いずれにせよ確定していたことだ。


「お前のせいじゃないだろ」


「掻き乱したことに変わりはないからね」


「そうだな。だが、今より良かったってことも無かったろ」


これが今抱くオストの感想だ。

シナが居なければハーヴィスに殺されていたか、果てはメルに唆されて仇の仲間になっていたか。

または、別の不幸に苛まれていたか。

どれにしろ、本当の意味で幸せな結果など一つもなかったのだろう。

元よりどうしようもないことだった。

それを考えれば、今の状況はかなりマシな部類であることは間違いないのだ。


「随分とタフだね」


「こちとら不幸には慣れてるもんでな」


今までの中でもかなり上位の不幸であるが、これしきのことで心が折れるようではオストはすでに死んでいる。

自嘲する色を含んだ声音には、元気はなくとも立ち直れる力強さも垣間見えていた。

それを見たシナは、嬉しそうにニコニコと笑う。


「そう、でも負い目があるのに変わりはないからね。ボクの出来る限りでお願いを一つ聞いてあげるよ」


「願い、か…」


唐突な謝礼であるが、オストは驚くこともなく冷静に受け止める。

そう言われれば、叶えて欲しいものなど幾らでもあるのだが、即座に思い浮かんだ言葉がスッと口から出る。


「俺を弟子にしてくれ」


今回のことで一番足りなかった物だ。

メルに合わせて欲しいでも、身の安全を保証して欲しいでも、大金がほしいでもない。

この世界では強さを尊ぶ。

その本当の意味を理解したオストは、知る限りの中での最強から学びたいと思った。

その一言を聞いたシナは面白そうに笑うと意外だと言う。


「メルちゃんを取り戻して、とかじゃなくていいのかな?」


「それじゃあ意味が無いだろ。俺がやるべきことだ」


「面白いね。いいよ、弟子にしてあげるよ」


その一言を聞けたオストは、一応ながらもホッと一息吐く。

願い事に関しては願っても無い話だった。

この話がなければ、頭を下げてでも頼み込むつもりではあったからだ。


「言っておくけど、ボクはこの国に残れないからキミがついてくる事にはなるよ?」


「構わない。元よりそのつもりだからな」


オストと人生でも中々に長い間暮らした国ではあるが、家が燃えてしまった今は思い入れなどそれほど無い。

それに、メルを探すにはどの道この国に留まり続けることは出来ない。


「あぁ、あともう一つ言っておきたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「オストくんにはボクの国で暮らしてもらうことになるんだけど、一つ頼み事を聞いてくれない?」


「頼み事?」


お願いを了承されてからの頼み事。

何か条件でもつけられるのかと思いながら聞き返す。

シナは手をパンと鳴らして合わせ、眉を八の字にする。

その様をみて、途端に嫌な予感がしてくるオストは嫌な汗をかく。


「キミには騎士団に入ってボクの娘と一緒の隊になって欲しいんだ」


「娘?お前の国は子供にも戦わせるのか…?」


己と同じか少し上くらいの見た目のシナ。

その娘を騎士団に入れるのは厳しい世界で生きてきたオストとしても、子供を戦わせると聞けば眉間に皺がよる。


「ボクは反対なんだけど…って、何か勘違いしてない?娘はもう成人してるよ?」


「は!?いやいや、お前幾つだよ!?」


「六十五だね」


「………」


六十五?

目の前にはどう見ても二十代前半にしか見えない青年が一人。

確かに人類の中には長命種はいるが、シナの見た目は人間そのものだ。

そんな馬鹿なという思いから、オストは目を見開いて固まることしかできない。


「年齢をよく勘違いされるんだよね。見た目じゃ分かりにくいけど人間じゃないよ?」


「そ、そうなのか…」


「まぁ、人間でも長命種と同じくらい歳を取らない人もいるけどね」


これまた衝撃の事実だ。

いや、あの力を見れば人間では無い方が逆に納得がいくのだが。

では、なんの種族なのかと問うたところ「龍人」と返ってくる。


「龍人ってあれか、昔話に出てくる」


「その龍人だね。ほとんど見かけないから分からないよね」


「そうだな。と言うよりも、俺としては龍人が実在している方が驚きだ」


龍人とは数多く存在する人種の中でも、圧倒的に数が少ないとされている超希少種だ。

オストも出会ったことがないどころか、噂ですら存在を聞いたことがないほどだ。


「じゃあ、本当にお前の娘は成人してるんだな?」


「当たり前だよ。ボクだって成人前の子供を戦わせようなんて思わないよ。むしろ、止めたんだけどこれが話を聞かなくてね」


シナはやれやれと言わんばかりに、はぁ…とため息を吐く。

そこからは疲れの様なものをオストにも感じとれることから、本当に頭の痛い悩みだということが分かる。

シナは悩みの種を一先ず避けると、すぐにニコニコとした笑みを戻す。


「まぁ、エレのことは置いといて、ボクの頼み事聞いてくれる?」


「世話になるからには受けたいが、ひと段落ついたら教団を探すつもりだ。最初は良いが…」


「あぁ、それなら隊にいながらでもやっていいよ」


オストとしてもシナの頼み事であれば出来ることなら助けになりたい。

しかし、だからと言ってメルの捜索を二の次にすることはできない。

そうした理由から悩みに悩んで必死に考えた結果、何とも言えない答えを必死に述べるが、その悩みは軽い言葉で一蹴される。


「それでいいのかよ…規則とかあるだろ?」


まさかの答え、と言うよりも適当にも思える返しにオストは呆れてしまう。

曲がりなりにも規則が重要になる騎士団で、そんな勝手なことをして良いものなのだろうか。

ラフスからの話によれば、騎士団で私情で動くのは厳罰と聞いていた。

そうでなくとも、騎士団に限らずに国の軍隊にとって規則が大切なのは割と有名な話だ。


「今のところエレとオストくんの二人だけの完全に新しく出来る隊だし、なにより教団の調査は業務内容としてもあるから問題ないよ」


「そうなのか。けど、相手は大陸中に指名手配されてるテロリストだろ。アイツらの強さは俺よりアンタの方が分かってルはずだ。自分の娘に教団の調査に関わらせていいのか?」


「んー、それはそうだけど早かれ遅かれエレは教団の事件に首を突っ込むだろうしね。それに、今のオストくんなんかよりずっと強いよ?」


「そう、なのか?」


世話を頼んでくるものだから、てっきり弱いから守って欲しいと言う意味合いかと勘違いしていたオストは、自分よりも強いと言われ言葉に詰まる。

無理やり言いくるめられている気がしないでも無いが、これ以上に言うことがなくなり口を絞る。

だが、けど…とウンウンと頭を捻ろうとするが、所詮は無学なオストに大した弁学がある訳もなく。

諦めると同時に大きくため息を吐いて「分かった…」と言う。

それを聞いたシナは本当に嬉しそうに笑う。


「ありがとう。あの子友達が少ないから同年代の子と隊を組ませたかったんだよね」


「そんな私情で隊を作っていいのかよ…」


「子供のワガママを聞くのも親の務めだよ」


「親バカかよ」


たった一日で腹の読めない軽薄な薄気味悪い奴から一転。

まさかの親バカ加減に、オストの中でのシナの印象が凄い勢いで塗り替えられていく。

ものすごい落差のあまり、何もしていないにも関わらず気疲れするのは何故だろうかと、つい頭をひねる。


「ハハ、子供ができれば分かるよ。それじゃ、よろしくね?」


「あぁ、よろしく頼む…」


頭を痛ましげに抑えるオストを楽しげに笑う。

それは昔の自分も同じように親バカのことを見ていたからか、または単純に面白かったのか。

なんにせよ、確かにシナの静かに笑う様は年相応に成熟していた。

そんな顔を見て、本性を知ってから初めてのイラつきを感じつつも、この先もこうして揶揄われ続けられるのだろうと思う。

するとゲンナリとした気持ちと共に、そういうのも悪くないんじゃないかと考える自分に、オストは少しだけ可笑しくなるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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