↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
68/175

2章 64話 命懸けの死合

互いに爆破の余波で、既に余力は無い。

オストは軋む身体で。

ラフスに至っては外傷だらけで出血に火傷。

予想ではあるが、骨や内臓にも間違いなく重傷を負っていると思われる。

何故、瀕死とも言える状態で断定できないのかと言うと、今なお衰えぬ闘気と佇まいが原因だ。

ピンと伸びた構えには一部の隙も無く、細められた眼光は一挙手一投足を見逃さないだろう。

間違いなくオストが優勢なのだが、それでも歴戦の騎士を前に汗がじんわりと滲む。

彼我の体力差を考えれば、防御に徹して相手の体力切れを狙うのがセオリーだろう。

しかし、その選択を取ることはない。

メルの安全が危うい今は、時間の浪費は得策ではないと言うのもあるが、そもそも…

死を悟ったラフスの最後の手合わせの機会を、そんな形で終わらせるなど論外だ。

見合ったのは数秒。

先に仕掛けたのはオストだった。

剣術で一番大切なのは踏み込み。

ラフスに習った通り、鍛え続けた足腰は今までで一番の鋭い踏み込みにて距離をゼロにする。

そこから繰り出される一撃もまた過去一。

渾身の力が込められた一刀だった。

それをラフスは剣を滑り込ませて受け止める。

まるで槌で叩かれたかの様な思い衝撃。

足元に亀裂を作りながらも、膝を抜くことにより衝撃を完全に逃し切ると強引に剣を押し退ける。

最高の一撃をなんでもない様に防がれたオストは、「なっ!?」と驚いた様に声を漏らす。

ラフスとしても防げたのは奇跡なのだが、それを知らなければ驚くのも仕方がないのかもしれない。


「どうした!お前の全力はそんなもんか!」


そんな間抜けな顔に、野生的な笑みが漏れる。

面白いと言うのもあるがそれ以上に、オストの成長が何よりも喜ばしい。

この一連のやり取りだけで、昔から稽古を見ていただけにどれほど成長したかなど明らかだ。

ラフスはお返しとばかりに今の一撃を真似るように、体勢の崩れたところに振り下ろす。

それをどうにか剣で防ぐことに成功するが、ラフスとは違い受け流し切ることは出来ずに後ろへと転がる。


(あの体でどんな馬鹿力してるんだ!?)


おおよそ瀕死の重体とは思えない重い一撃。

オストのように助走も無しで踏み込みの力だけでこの威力なのだから、力はあちらが上なのは間違いが無い。

一度の転がりで衝撃を逃し切ることに成功するが、膝をついたところにすかさずラフスの剣が迫る。

それを瞬時に転がって避けるも、このままであればただの焼き増しになる。

オストは痛む筋肉を無理やり使い大きく下がることにより距離を取る。

しかし、それだけで振り切れるわけもない。

すぐさまラフスの一閃が迫るが、崩れた体勢で勢いが乗る前に剣を当てる。

どうにかの思いで多少状態は改善されたが、あくまで多少。

ラフスの猛攻は止まらない。

息をつかせない連撃は的確に嫌なところを突き、オストに余裕を与えさせることはない。


「足元がガラ空きだ!」


だが、それは剣での話。

ならば手数を増やすまでのこと。

不安定な体勢ながらも十分の威力を持った蹴りを放つ。


「よっ!」


しかし、それは間の抜けた声と共に飛び上がったラフスに最も容易く躱される。

それどころか全体重の乗った思い反撃が、頭上より降り注ぐ。

どうにか剣で受け止めることに成功するが、またも地面を大きく転がることになる。


「あめぇなぁ。お前の足癖の悪さはおれが教えたことだぜ」


「くっ…誇り高い騎士様のセリフとは思えないな」


「おいおい、そんなもん遠の昔に忘れちまったわ」


地面に這いつくばるオストへ、ラフスはニヤニヤと揶揄う。

痺れる腕で立ち上がりながら皮肉で返すが、当の本人は全く気にした様子がない。

元々そんなものを持っていそうもないので、ダメ元での嫌味ではあったがやはり腹にくるものはある。

寧ろ、正論でダメージを受けたのはオストなくらいだ。

「クソっ」と悪態をつきながら立ち上がり、様子見に徹するラフスを見据える。


(やっぱり、爆破のダメージがでかいな。今のスキをつかない理由がない)


苛ついた表情とは裏腹に、オストは冷静に観察をしながら剣を構え直す。

重傷にも関わらず、無傷と変わらないパフォーマンスを見せたラフスに焦りを覚えたが、今の様子を見るにそんなことは無いと確信する。

あの強さには何か仕掛けがあると見抜き、その予想は間違っていない。

その種とは魔力による身体強化だ。

元々大きく余力のあったラフスは、残っていた魔力と闘気を全て捻り出すことにより延命と超強化を成していた。

それを火事場の馬鹿力か、果ては残火の輝きか。

文字通り命を燃やすことにより、通常を大きく上回る身体強化だ。

これがラフスの脅威の身体能力の仕掛けだが、例え種を看破したところで対応のしようが無い。

正確に言えば、気がついたとしてもオストは最適解を選択することが出来ない。


「そっちがこないのなら、こっちから行くぞ!」


それが分かっているラフスは、今も分からない種を明かすのに必死になっているオストに仕掛ける。

この状態も長くは続かないのだから、こうして見合っていても時間の無駄なのだから。

振るわれる一刀。

銀色の刃がオストを切り裂かんとせまるが、剣の上を滑るだけに終わる。

次はどう振るわれる。

次の剣を迎撃しようと注意が偏った時。


「お前こそ腹がガラ空きだぞォ!」


「グァアッ…!?」


先程まで剣での応酬のみだったために、完全な意識外からの攻撃。

不意にラフスの体が捻られると、鋭い蹴りがオストの腹にささる。

肺の中の空気は暴れ、内臓にも衝撃が伝わりながらも持ち堪えるがそれだけで終わるはずもなく。

剣だけでも捌き切るのがやっとだったラフスの猛攻に、格闘技までもが猛威を振るう。

その嵐の様な攻撃は、手も足も出ずに蹂躙された裏切りの瞬間を連想させる。

だが、今は前の様にはいかない。

威力も速さも、万全のラフスと今のラフスのどちらが上なのかはオストにも分からない。

決定的に違うのは、瞬時に繰り出される攻撃を見極め、剣と致命的な攻撃のみを防御することができるということ。

攻撃のわずかな途切れ目。


「そこだァ!!」


節々は痛みを訴え、肌は焼け跡が、脳は安めと命令する。

それなのに何故だろうか。

少しずつではあるが、ラフスの攻撃が見えて来た。

今も押されて何発もの打撃を受けている筈。

体力はどんどん削れるのが、逆に調子が上がっていく。

ある限りの力を込めたオストの剣が、ラフスの剣を大きく弾く。


「なッ!?」


予想だにしない行動に、今度はラフスが驚愕の表情を浮かべる。

弾かれた剣は外へと流れ、意識外を疲れて硬直する体。

絶好の機会。

オストの渾身の左拳が驚きに染まる顔へ、大きな音を立て突き刺さる。

初めて入ったまともな一撃は、ラフスを大きく吹き飛ばすと膝をつかせる。


「ハァー…今度こそ、顔がガラ空きだぞッ…!」


やっと訪れた反撃の機会。

しかし、オストは追撃をするもこともなく、息を乱しながらもお返しだと言わんばかりに、口に溜まる血と煽りを太々しく吐き出す。

そして、いつまた攻撃が来てもいいように構えながら凝視していると、ラフスの体が小さく震え始める。

顔が俯いていて表情が見えない為に、怒りで震えているのかと予想する。

それなら好都合だと思うも、オストの耳は小さな音を拾う。


「なーに調子乗ってやがるんだ…たかが一発いれたくらいでヨォォ!」


広場に響く怒声。

声とは裏腹にニヤリとした楽しげな相貌。


『ファイアー・アロー!』


オストに向けられる掌。

詠唱短縮にて紡がれた魔言により、火矢が放たれる。

不意を突かれる形で放たれた火矢は、あっという間に眼前へと迫る。

慌てて体を逸らすと真横を通り過ぎると、火矢を囮にしたラフスが横凪に剣を振るう。

いつの間にと、内心舌打ちをしながらも剣で防ぐ。

逆に、不意打ちを多少驚きながらも防いだオストに、ラフスは内心驚きを覚える。

教えてた関係で学習能力が高いということは知ってはいたが、それを考慮しても今の成長速度は異常だ。

自身の動き自体は、過剰な身体強化のお陰で万全とまでは言えないが、それに近い力はある筈だ。


(だが、それでこそお前らしい)


少し前のオストであれば間違いなく防げなかった攻撃なのだが、確実に防いで見せたその様に更なる高揚が湧き上がる。

正直なところ、死を覚悟してからは革命派に尽くす気持ちはもう無い。

今はただ、コイツがどれほど成長するのかが知りたい。

ラフスが地獄の苦しみを堪えてまで、命を燃やしてまで戦う理由などそれだけだ。

だからこそ、手を抜くことは愚か殺す気で仕掛ける。


「そらそらそら!なんだ?さっきのパンチはまぐれか!?」


前の再現の如く途切れない攻撃に、オストは防戦一方をしいられる。

防ぎにくい場所に振るわれる蹴りを足で相殺し、その動きで出来た隙を剣が突き、大きく引くことにより空を切らせる。


「んな訳あるか!」


『ファイアー・アロー!』


「熱ッ!?」


距離が出来て踏み込もうとすると、ラフスから牽制の魔法が放たれる。

今回も躱すことは成功するが、近距離だったこともあり肌を火が撫でる。

密着状態であれば猛攻撃が襲い、かと言って離れれば魔法での牽制。

そうして隙ができればすぐ様また近接戦闘を余儀なくされる。

近接だけでも一発して入れられてないに、そこに魔法が加わってさらにどうしようもない状況に陥る。

どうしても攻撃の余裕が欲しいオストは、どうすればと内心悪態を突きながらも、この泥沼をどうにかするために思考を巡らそうとするが。


(こんなのどうしようもないぞ!?ラフスのヤツ本当に死にかけかよ。なんでこんなに生き生きしてやがるんだ!)


実情としては目の前の防御に思考が手一杯で、他のことを考える余裕などない。

体感何時間とも感じる攻防を経て、最初に比べて随分と慣れてきたものだがそれでも全く足りていない。

パワーも、スピードも、技術も、余裕も。

あくまでラフスの攻撃に食らいつくことが出来る様になっただけだ。

足りていない、足りていなさすぎる。


(なんでもいいッ…何か、何かないか!?)


完全なラフスのペースでの戦闘は、オストの全てをゴリゴリと削って行く。

この状況を打破できる決定打を、焦りが満ち溢れていく中。


「集中力が切れてきてるぞォ!」


焦りか疲れか。

別のことに意識が少し行った時。

目の前から怒声が飛ばされると、ラフスの剣が脇腹を切り裂く。

しまった!と思った時にはすでに遅く、残影を追う様に血飛沫が地面に写る。

切り傷はすでに多く受けていたが、決定的な一撃を受けたのはこれが初めてだ。

今までとは比べ物にならない激痛に頭は真っ白になり、オストの顔が大きく歪む。

さらに追撃と逆の側面に蹴りが入る。

そして…


「楽しかったぜ…止めだ!」


ここにきて初めて大きなためを作った一刀。

上段に掲げられた剣は、月明かりに照らされて銀色に怪しく光ると…

銀線が尾を引いて、オストの胴体を袈裟斬りにする。

夥しい血がラフスの体に降りかかり、完全の致命傷であることは明らなのながそれだけに留まらない。

追い討ちとばかりに、袈裟斬りの振り下ろしの反動を使って回し蹴りがオストの腹を穿つ。

砲弾の様に打ち出された人体は、目にも止まらぬ速さで吹き飛ぶと廃墟の一角にぶつかると騒音を立てて爆ぜる。

老朽化の激しかったその建物は、衝撃に耐えることができずにガラガラと音を立てて沈む。

楽しかった。

それは紛れもないラフスの心からの言葉。

最後の時を、息子の様に可愛がっていた青年のために使えてよかったと。

しかし、その顔に今まで浮かべていた荒々しい笑みは無い。

後悔は…無い…

だが、なんとも言い表せない寂しさはあった。

黄昏る様な雰囲気は死期を悟っているからか、そんな寂しさからか。

焼け爛れ、色の抜け落ちた表情で最後に月を見上げるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

出来ることなら評価とブクマ、感想の程をよろしくお願いします。

褒めるとモチベが上がって投稿が早くなるかもしれない。

誹謗中傷以外の感想も大歓迎です?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。