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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 63話 浮浪人の一生

吹き付ける熱風。

体を吹き飛ばして余りある爆風の中、オストはどこか懐かしすら覚える奇妙な体験をしていた。

無論、体を引き裂かれ焼かれる体験などゴリゴリではあるのだが。

今自分はどうなっているのか。

こうしてうっすらと思考ができていることから、死んだと言う訳ではないと悟る。

と言うのも、爆破の直前で足元を殴りつけて下の階に落っこちたのだ。

そのために、直撃はしていない筈だがぼんやりとした夢のような思考。


(そもそも、何で俺は爆破に巻き込まれたんだ?)


前後がはっきりとしない記憶。

首を捻ろうとした時、チクリとした痛みが刺す。

何だ?と疑問を感じた瞬間。

全身を剣で刺すような激痛と、燃えるような火傷のような熱さが体を蝕んでいく。


「ぐぅアアッあ!!?」


勢いよく廃材が跳ね上がる。

何だ何だと慌てふためくが、体は枯れていた肺に空気を急いで取り込もうとする。

しかし、口の中に大量のクズゴミが入っていたために息を吸うことは叶わず、ただでさえ無い空気を咳と共に吐き出す。

そんな風にもがき苦しみながらも、しばらくすると落ち着いてくる。

不快のカーニバルが終わり、やっと外に意識を向けることができたオストは、ここはどこだと周囲を見渡す。


「俺は…?」


視界一面に広がる廃材。

至る所からミシミシと嫌な音が鳴り響き、ここが倒壊しかけの建物の中だと言うことが分かる。

やはりハッキリとしない記憶。

眉間に皺をよせてうんうんと唸りながら、記憶の引き出しを開いてゆく。

そうすることで、やっと思い出したオストは「メルッ!!」と叫びながら飛び上がると、痛む身体に顔を顰める。

自分の体に目を向けてみれば、上着は焼け焦げており布を申し訳程度に纏った状態。

幸運なのは、ズボンの方は原型をとどめているので上裸で済んでいることか。

そして、肝心の身体の状態についてだが多少の火傷だけで済んでいた。

体は至る所が痛く、軽い火傷もそこら中に負っているがそれ以外の外傷は無い。

周りの倒壊した建物の光景を見るに、もっと重傷でもおかしくはないのだが、うまい具合に爆破を避けれたのだと自己完結する。

今は奇跡の考察よりも、崩れそうな建物の中からの脱出だ。

幸いにも、外へとつながる出口は月明かりが漏れ出ていたこともありすぐに見つかり、痛む身体で一歩を踏み出す。

建物のように、身体からミシミシと不調のような物を感じる。


(体は動く…骨も折れてなさそうだ。これならどうにかなるか)


本来なら少し休んだ方が良いのは分かるが、オストはこの程度問題ないと急かす気持ちを抑えて慎重に出口へと向かう。

何事もなく外へ出ると、そこは入って時と同じ噴水に面した方であった。

興味本位で後ろを振り向くと、下役所はオストがいたであろう場所を中心に崩れていた。

あそこにいた他の奴らはどうなったのか、一瞬気になるが首を左右に振る。

ラフスもソボックもオストを騙していた裏切り者。

今大事なのはメルの救出。

迷いを振り払うと、急いで革命派のアジトへ向かうことにする。

そうして、前に向き直ると噴水に座り込む一つと人影が。

誰だ?と警戒しながらも目を凝らす。

丁度月明かりによる影により窺い知れなかったものは、徐々に慣れていく目により判明する。

その人物が判明すると、オストは驚いたように目を見開くがすぐに平常に戻ると、身構えながらも近づいて行く。


「生きてるのか?」


問いかけとも独り言とも取れる呟きは、目の前の人物に届いていたようで微かな反応を見せる。

原型をとどめていない、ボロボロの軽装備。

幾つもの木片が肌に突き刺さり、夥しい流血。

爆風にさらされ、焼き爛れた肌。

死体と勘違いしても仕方のない風貌の人物は、オストの知る人物の面影を感じたからこそ近づいた。

そして、その思いは間違いが無く、声に反応するようにダラリと下がっていた頭が上へ向く。


「お陰様でな」


「ラフス…であってるよな?」


酷く掠れた声。

この様子では喉も焼けているのではと思える苦しげな声。

あまりにも変わり果てた恩人、ラフスは窺い知れぬ表情でオストを見上げていた


●


輝かしい過去。

黄金期とも呼べる時代に突如として大敗する以前、ラフスはリキシア王国騎士団の隊長を任されていた。

この時から王国は決して豊かでは無かった。

しかし、隊長ともなればそれなりの給与に地位があり、何より良縁に恵まれて妻をもらうことも出来た。

国も食料は乏しかったが、代わりに広大な鉱脈を有していたお陰で軍事力は日に日に増大していた。

これであれば、近い将来他国の領土を奪うことにより、食料問題も解決できる。

それどころか、足がかりにさらなる領土を得て大国へ覇を唱えるのも夢ではない。

国民全員が、そんな明るい未来に心躍らせていたリキシア王国の黄金時代。

ラフスも例外では無く、祖国の未来のために騎士として腕を磨き続けていた。

順風満帆。

そうとしか言い表せないほどに、この時の人生は充実していた。

強い祖国。

憧れだった地位。

愛する妻。

頼りになる仲間達。

ここに更なる栄誉が加わる。

ラフスだけで無く、リキシア王国の誰もがそれを信じて疑わなかった。

それは当時傭兵国家とも言われる大傭兵団、アレクレアにより全てを打ち砕かれた。

歴史には、リキシアの軍は数十日でアレクレアの傭兵団に敗れたと言われているが事実は違う。

そもそも、あれは戦などでは無かった。

戦争の後、アルジア大陸国際連盟が発表したあらましの内容は、リキシア王国軍四万がアレクレア傭兵団に数日で敗北したために降伏したとなっていた。

事実を知っているラフスとしては、そうであればどんなに良かったことかと言う思いだ。

実際には数日どころか一日も経たずに負けたのだ。

それも一人に。

今でも時々思い出す悲鳴だけが響き渡る戦場。

敵を視界に収めることもできずに吹き飛び切り裂かれ、最後に白い残光が血の道を作り上げる。

それは蹂躙であった。

許されるのは、皆が等しくただただ紙屑の如く吹き飛ばされるのみ。

当時のリキシア軍には上級の者は勿論、超越級の人外の強さを誇る人も数人在籍していたにも関わらずだ。

患ったが最後、身体から色素が抜け落ちてゆき、激痛の末に絶望を叩きつける不治の奇病、白死。

その異名の通り出会ったが最後。

ラフスは『白死』が軍を蝕んでいくのを絶望しながら眺めることしかできなかった。

そこからは坂道から転げ落ちるのみだった。

一日もせずに壊滅したリキシア軍に激怒した上層部は、責任者を片っ端から処断していった。

それは隊長であったラフスも例外では無く、騎士の身分の剥奪と妻との離婚だった。

まるで悪い夢だと現実逃避をしている間に、次はクーデターが起きた。

軍を処断してしまったために、力が大きく衰えていたリキシア王国はクーデターを抑えることが出来ずに泥沼の内戦へ至った。

内戦に関しては他国の介入により鎮圧することができたが、その果てに残ったのは力を失い切った騎士団に無能ばかりの上層部だけ。

こんな醜い祖国を許せるだろうか。

答えなど決まっている。

茫然自失とした中、一つの答えを得たラフスは憎悪の炎に突き動かされるがままに動いた。

全ての元凶であるアレクレアを打倒する…では無く腐り切った祖国を変えるために。

そうして、当時クーデターを起こした王弟軍に加わった。

間も無くして内戦に至った訳だが、それも他国の介入により数年と持たずに鎮圧されてしまった。

しかし、それくらいでラフスの憎悪が消えることも無かった。

残った同士と共に、処刑された王弟の子息であるハーヴィスを旗頭に革命派を作り上げた。

組織の基礎を固め、ハーヴィスも運営に支障をきたさないくらいになると、前回の二の前にならぬ様裏工作に力を入れ始めた。

その取りまとめ役にラフスは抜擢されると、浮浪人としてスラムで生活しながら情報を集めることとなった。

そんなある日、スラムに見かけない少年がふらりと現れた。

身なりこそ汚い格好であったが、その目は不釣り合いなくらいに真っ直ぐであった。

気に食わない。

そんな思いから、少しちょっかいを出したのだが、逆にそれをきっかけにその少年との付き合いが始まった。

今思えば、何故懐かれたのか不思議でしょうがない。

文字通り腐れ縁となった少年、オストと過ごす時間はなんだかんだ言いつつも楽しいものだった。

自分に息子がいればこんな感じだったのではないか。

長いこと憎悪と復讐を糧に生きてきたラフスにとって、いつの間にか小さな安らぎを感じるまでに。

それでも、心のうちに燻る憎しみが消えることは無い。

すまないと言う気持ちはあるが、後悔は微塵もない。

例え、息子のように思っているオストを裏切ることになろうとも。

例え、大切な人を殺すハメになろうとも。

例え、己の命を捨てることになろうとも。

もう、引き返すことはできない。


「生きているのか?」


走馬灯とも言える記憶。

消えかけていた意識は、慣れ親しんだとすらいえる声に釣られて浮上する。

重い瞼を開けると、視界に入るのは焼け爛れた肌。

この焼死体は誰のだと思いたくなるが、地獄の様な苦しみがこれは自分だと告げる。


「お陰様でな」


口から火を吐くのではないかと思える熱。

そこから出たのは火ではないが、自分の声とは思えない掠れた声。

その皮肉を交えた言葉は、オストに言ったものか自分に言ってものか。

勝手に出てきたその言葉に、驚きの前に乾いた笑いが漏れ出る。


「ラフスであってるよな?」


「俺以外の誰に見えるんだよ」


心配する様な疑う様な低めらたオストの問い。

それを聞いたラフスは、顔すらも判別ができないほどに焼けたのかと悟る。

無論、そんなことを悟らずとも己の命が後わずかなことなど分かっている。


(けど、なんでだろうな…)


死の間際にも関わらず、何故こんなにも安らかな気持ちになってしまうのだろうか。

またも道半ばで目的も果たせず、それどころか今度こそ死んでしまう。

けれども、裏切り者の自分のことを未だにオストが捨てきれずにいることが分かると、どうしても面白い気持ちが抑えきれない。

溶けた肌が破れるのも構わず、ラフスはニヤリと笑うことをやめられない。


「お前、どうするつもりだ?」


何がとはオストも聞かない。

お互いの目的は知っているのだから。


「メルを助けにいく」


「そうか、なら…」


分かり切っていた答えを聞くと、ラフスは地面に横たわる相剣を松葉杖のようにして立ち上がる。

己も目的を果たすために。


「最後に稽古をつけてやる…」


いや、もう目的など正直なところどうでも良い。

今はそれよりもこの時を楽しみたい。

オストは、よろよろとしながらも立ち上がったラフスに警戒する様に腰を落とす。

先程までの痛む様な顔が一転、覚悟を決めた男の顔立ちになる。

それでいいと、ラフスは満足気に笑うと顎でとある場所を示す。

オストは怪訝な表情をしながらも示された場所をチラリと見ると、手放してしまっていた魔剣が転がっていた。

まるで拾えと言わんばかりの動作に、警戒をしながらもそちらに移動すると何事もなく回収することができた。


「いくぞ。オストッ!」


「来い!ラフス!!」


最後の命を燃やして。

ラフスは残る全てをこの時を楽しむために費やすのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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