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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 65話 目覚めは誰かのために

痛い…痛い…痛い…!

暗転とする視界の中、それだけが頭を支配する。

今自分がどうなっているのか、ここは何処なのか。

考えるべき事はいくらでもある筈なのだが、思考することが出来ない。

分かることがあるとすれば、胴体が焼ける様に痛いということのみ。

血がとめどなく溢れ出し、このままでは不味いと体が訴えかけてくるが肉体はピクリとも動く気配がない。

痛い、嫌だ、怖い、辛い。

激痛で頭がかち割れそうに痛み、負の感情だけが堂々巡りして行く。

あらゆる苦痛がオストを蝕んでいく。

もう死んでしまいたい。

こんな痛みから逃げ出したい。

そんな弱音が頭を掠める。

意味の分からない状況に晒され、呪いのような魔導書にひっつかれて、家は焼かれて最愛の幼馴染は連れ去られ、恩人と友人には裏切られた。

どうしようも無い絶望的な不幸の数々。

そんな欲望とも言える誘惑が這い上がってくるのを感じるが、それを意志だけでねじ伏せる。


(こんなところで諦められるかッ!)


内心何度も呟いた言葉。

ここで諦めてしまえばメルはどうなる。

もしかしたらこのまま奴隷として売られるか、最悪殺されることもあるだろう。

それだけは許せない。

自分がどんな目に遭おうとも、それだけは死んでも嫌だ。

助けに行かなくては。

そう思えば痛くとも我慢できない事はない。

いや、そう言い聞かせて体に力を入れるが、まるで押しつぶされているかの様にピクリとも動かすことが出来ない。

ラフスの攻撃を受け過ぎたのか血を流し過ぎたのか。

それ以前に爆破の余波も受けているので、いずれにせよ体の限界がきていたのか。

なんにせよ、このまま動かなければ失血死は免れないだろう。

刻一刻と迫る死のカウントダウンに、オストは焦りを覚える。


(クソッ、どうなってる!?)


どこか動く場所はないかと探すも、体をひねることすら叶わない。

ここまでくるとこれは夢で、痛みは現実のものがフィードバックされており、自分は起きていると勘違いしているのではないかとすら思う。

それなら早く起きなければと思うが、その方法は皆目見当もつかない。

地獄の苦痛と砂時計の様に落ちる血だけが、現実を叩きつけてくる。


(寒い…急になんなんだ?)


どれだけもがこうとも体は動かず、痛みと焦りだけが溜まって行く状況。

そんな時に現れた変化は急激な寒さと途轍もない睡魔だ。

夢の中で睡魔とは?

そう疑問に思った瞬間、自分は寝てなどいないと言うことが分かった。

だが、そんなことを知ったところで意味など無い。

時期に思考も鈍り、筋肉に力の入る感覚も無くなっていく。

よいよ本当に不味い状況になってきた。

そんな事は前から分かっているが、死が目前に迫っていることを自覚すると余計に焦りが募る。


(何か…何かないのか…俺はッ…こんなところ、で…)


いくら足掻こうとも状況は動かず、オストの命の灯火を吹き消そうとする。

これしきのことで諦められるものか。

自分を救ってくれて、今尚助けてもらい続けている幼馴染に何も返せていないのだ。

なのに、こんなところで死んでいることなどできるのか?

 

(ふざけるなッ…!?)


極寒の寒さの中に灯る火。

そんな事は認められないとグツグツと湧き上がる怒りは、それを燃料にするかの如く温かくなる。


(絶対に助けるッ…!!)


もとよりそれ以外は無い。

灯った火は心を燃え上がらせ、気が付けば熱いと勘違いするまでに燃え上がる。

またも体が燃える様な熱を放つが先程の様な苦痛は無く、寧ろ湧き上がる何かが心地よさすら感じさせる。

今なら出来るかもしれない。

全身に炎を注いでいくと、今までには無い力が溢れている気がするがなんだっていい。

今、メルを助けに行くことができれば何だって。

雄叫びを響かせ、腕を持ち上げようとするも依然として上がらない。

しかし、ガラガラと言う物音と何かを押している感覚はしっかりとある。

まだ足りない。

ならば、もっと力を込めればいい。

今ならそれも可能と思えるほどに、どこからか力が溢れてくるのだから。


「邪魔だッ!」


自身を縛り付ける枷を、オストは更なる力により押し退ける。

暗闇が開け、小さな光を捉える。

行ける。

そう確信すると、全身に力をこめて押さえつけるものを吹き飛ばす。

廃材は吹き飛び、砂埃が舞い上がるがやっとの思いで見れた光景はお世辞にも良いものでは無いが、何とも考え深い印象を抱かせる。

自分が建物に埋もれていたことで、どおりで動けない訳だと納得しながらもよく生きていたものだと思う。

だが、驚きが無いのは何故だろうか。


(そんな事はどうでもいいか…今はそれより)


死にかけたせいか、力が漲っているせいか。

砂埃で視界は遮られているにも関わらず、誰かが驚いた様にこちらを見ている気配を感じる。

今までに無い未知の感覚なのだが、そこに戸惑いは無い。

気配の感知など全く出来なかったが、不思議とそれが誰なのかすぐに分かった。

良かった。

そんな感想が浮かぶのは何故だろうか。

それは自分を裏切り、何度も殺されかけ、全く歯の立たない相手。

そんな人物は放っておいて、オストとしては早くメルを助けに行った方がいい。

なら、時間切れで死んでもらった方が遥かにいいハズなのに…


(いや、違うな。俺はどうしてもアイツを倒したい)


足を踏み出すと瓦礫を踏み砕きながら歩き、体の調子を確認して行く。

最初に腹を触れると、致命傷に思えた袈裟斬りによる傷跡が見つからない。

あれは幻かと思えるほどに何とも無いその場所には、べっとりと付いた血糊だけが現実であると教えてくれる。

更に無くなったのは傷だけではない。

ミシミシと痛む体の違和感も、燃える様な火傷も、地獄の様な激痛も全てが消え去っていた。

己の身に起きた奇怪な現象。

不思議に思うが今のオストにそれが何であれどうでもいいことだった。

砂埃の中から外に出ると、見立て通りに焼死体の様な男が目を丸くしていた。

だが、それも一瞬のことで焼死体ことラフスは驚愕の表情から一転、腹でも抑えそうなほどの高笑いを上げる。


「ワハハハハっ!お前バケモンかよ。あの傷なら普通死んでるだろ!面白すぎるだろ!!」


「待ったか?」


「いんや、それほどじゃねぇよ。会話はいらねぇな。行くぞッ!!」


「ああ、そうだな」


これ程に面白いことがあるのだろうか。

そう顔に書いてあるラフスは、子供の様に目を輝かせながら三日月の様な笑みで臨戦態勢に入る。

お互いに会話をする時間はもう残されていないのはよく分かっている。

だからこそ、無駄な会話はしない。

ラフスは足元に転がる魔剣を足だけで拾い上げる。

それを開いている左手で取ると、そのままオストへと投擲する。

弾丸の様に飛び出した魔剣は、オスト目がけて飛んでくるが少し横にズレるだけで避ける。

そうして、魔剣が元いた場所に突き刺さると、すぐさまに引き抜いて迫り来るラフスに相対する。

この闘いにおいて、彼は一度も大きなためを作る様な攻撃はしていない。

しかし、そのような攻撃ですら押し負けるような事が多かった。

十全な助走から繰り出される、今までで一番破壊力を宿した一撃。

それがどれほどの威力を誇るのか、全く持って予想がつかない。

ここは安全に回避行動を取るべき。

そんな事は分かりきっているのだが、何故かそうする気が起きない。

先程よりもよく見える目で、ラフスの動きを完全に捉えると足を開いて腰を落とし、防御の姿勢を取る。

もはや高速とも言える速度は、その速さも力に変えて剣に乗っていることは明らか。

自分に止められるのか?

湧き出そうな不安に蓋をし、オストもありったけの力を込めて打ち付ける。

武器が当たったとは思えない轟音。

押し潰すつもりで切り込んだラフスだが、結果はまさかの拮抗。

筋力は上回っていたハズで、更には助走を付けてまで放ったのだからそんな事はあり得ないのだ。

だが、現実は拮抗…ではなかった。

速度による勢いが無くなり、完全な力勝負となった途端にラフスの剣が押され始める。

明らかな力負け。

その事実に気がつくと、オストは剣に力を込め直しす。


「吹っ飛べッ!」


望めば望むだけ溢れる力。

やがてラフスの剣が押し込まれると、力の限り振り抜く。

玉のように弾かれる体。

ラフスは地面を数度バウンドするだけで受身を取るが、まるで巨大な魔物の攻撃を受けたような衝撃。

どこにこんな力があったんだと文句をの一言くらい言いたいが、それ以上に…


(復活してから何があったのか知れねぇが、どんな成長速度してんだ。全く、驚かされるぜ)


驚いたとは言うが、顔に浮かぶのは喜びの表情。

死の間際、裏切った贖罪代わりに最後くらいは可愛がっていた弟子にせめて抗う力を。

圧倒的格上との戦闘を見据えた、殺し合いの稽古をつけてあげたいと思ったのきっかけで始まった死合い。

この先メルを助けるとなれば、オストは間違いなくラフスと同格かそれ以上と戦うこととなるだろう。

死にかけの自分に勝てないまでも、勝負の土俵に上がるくらいに成長出来なければこの先お話にならない。

だからこそ全力で立ちはだかり、手も足も出ない状態から食らいつくことが出来る様になるまでになった。

それだけではまだ足りなかったこそ、トドメの一撃まで放ってオストを殺そうとした。

このままメルを助けられずに、絶望の中死ぬならせめて自分の手でと。

しかし、そうはならなかった。

今目の前に立つのは防御もままならなかった青年では無く、恐ろしいほどに成長したラフスの一番弟子。

これで喜ばずにいられるだろうか。

もう底尽き欠けている魔力と闘気。

残り僅かなタイムリミットに寂しさを感じながらも、全てを持って成長を確かめたいという欲求を抑える事はできない。


「これで終いだ」


オストへと向けて放った言葉は、まるで自分にも言い聞かせているようにも取れる。

口端を歪めながらも、再び剣を構え直して残りの全てを乗せる。

魔力も闘気も、剣をあと一度振れる分さえ残っていればいい。


『炎よ、我が剣に宿て、敵を焼き切らん』


初めて聞く詠唱。

またもや初めての行動に、オストは警戒を強めながらも出方を伺う。

その目には魔力を見る事はおろか感知することもできないハズなのだが、目に見えない何かが剣に集まるのを感じ取る。

これがラフスの正真正銘最後の攻撃になるのを確信して。

一段とひりつく空気に、深呼吸を挟んでから剣を腰の近くで構える。


『ブレイズ・ブレイド!』


最後の詠唱がされた途端、剣は真紅の炎に包まれる。

辺りが闇か広がる中、ラフスの周りだけが轟々と明るく光る。

ただ剣が燃えているだけにも見えるが、オストの本能はあれに当たるなと危険性を訴えかける。

だが、覚悟ならもうとっくに決まっている。


「行くぞ、ラフスッ!!」


声を上げると、オストは弾かれるようにラフス目掛けて一直線に駆ける。

自分の足とは思えない速度で景色が一瞬にして掻き消えると、膜のような熱気の中へと踏み込む。

その事実が、あれはこけ脅しでは無く相応の破壊力を秘めていることを窺わせる。

しかし、それがどうしたことかと更に足に力を入れて踏み込むと、一瞬にしてラフスの目の前に迫った。

オストも今ある全てをかき集めて、師匠を打ち倒さんが為に轟々と燃え盛る剣に横凪を叩き込む。

何故こんな意味のない勝負をしているのか。

それは裏切られたとは言え、恩人であるラフスのことを恨み切れない、もとい嫌いになれていないのが一番大きい。

裏切られるのは慣れている。

どれだけ人助けをしようと、それが自分に還元される事は無く、逆に害になる事の方が多い。

スラムで長く暮らしていた中で学んだ教訓だ。

だが、オストはそれで人を恨んだことも後悔した事も一度としてない。

それはラフスも同様。

いや、だからこそ何故裏切ったのかと疑問に思うことはあれど、恨む事は出来ないくらいオストは彼に世話になった。

それに、裏切られてからの様子を見るに、ラフスにもそうしなければならない理由のようなものがある事は薄々ながら感じ取れた。

ならば仕方がないのかもしれない。

自分もメルを裏切る事は出来ないのだから、ラフスにとってはそれが革命派だったというだけだ。

互いの得物がぶつかった感触は、意外にもあっさりとしたものだった。

火の粉と銀粉が舞い上がり、残心したままの勝者を祝福するように彩る。

やがて、どさりと敗者の肉体が上下に分かれて崩れ落ち、次に折れた剣が地面を鳴らす。


「俺の勝ちだ」


オストはかつての師匠に向けて宣言すると、残心を解いてラフスに向き直る。

恨みは無い。

あるのは今までに世話になったことへの感謝と、恩人との別れの寂しさだけだ。

改めてラフスの顔を見ると、その表情は全てをやりきったように安らかであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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