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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 60話 作戦の成功率は脅迫の有無に左右される、かもしれない…

太陽は登り、地を照らしているにも関わらずどんよりとした暗さを感じるのは、その場の空気が醸し出す雰囲気か。

建物が所狭しとひしめき合うも、そこから人の気配が感じ取れることは無い。

そこはスラム街。

と言ってと、衰退の一途を辿るこの国にスラム化していない場所などほとんど無い。

そんな広大な人工物のジャングルの中。


「どうも、初めまして。ボクはシナ。キミの名前は?」


「ト、トーマ、マス…マス…」


「あれ、おかしいな?もう一度いいかな?」


「トーマスです…」


「お、やっと安定してきたね」


その中の一つの廃屋。

元は宿屋だったのか、ワイナリーと思われる地下にて、シナはニコニコしながら呂律のおかしい男に問いかける。

男は焦点が合わず、まるで壊れた人形のようにグラグラと揺れる。

それから時が経つにつれて、ダラリとしながらも受け答えができるようになる。

それを見て、良かった良かったと満足げに頷くシナ。

さらにそれを見てドン引く三人は顔をこわばらせていた。

何故こうなっているのか。

もう何度目とも分からない疑問に、オストは思考を放棄しながら少し振り返る。

四人はメルを助け出すために、あの後すぐに行動に移っていた。

革命派のアジトを探すべく、オスト達は指定の場所が記されたスラム街の奥深くへ足を運んでいた。

呼び出しの場所は確実に罠があることは分かりきっていおり、更に言えばそこがアジトであるはずも無い。

しかし、その場所を指定していると言うことはホームグラウンドであることは間違いは無い。

オストの運搬などを考えれば、アジトは近くにあった方が楽であり、仮に無かったとしても隠し通路があることが予想できるとシナとラフスの考えていた。

そうして、スラム街の奥へ奥へと治安の悪い方へ行ったことろ、思わぬ物を見つけた。

厳密に言えば物では無いが物改め、その者達は革命派の構成員らしき四人組であった。

不意に転がり込んだ福を前に、ラフスが尾行の提案をして他二人が二つ返事で同意したところまでは良かった。

そして、そこからの行動は早かった。

約一名の…

話が纏まり、それで行こうと言う流れになった時に、シナにも一応の確認をと振り向いた時だ。

今まで隣にいたはずにも関わらず、気が付いた時にはいなかった。

どこだ!?と三人であたりを見渡してみると、ソボックが震えた声で話しかけてくるでは無いか。

まともな言葉もなく、目を見開いて指差す方向は革命派達の方であった。

オストは嫌な予感を覚えながらも、そちらを見てみると…

フレンドリーな様子で革命派に話しかけているシナがいた。

あの馬鹿何やってんだッ!?と怒鳴りそうになるのを抑え、あまりの驚きに変な声が漏れる。

ラフスも同じく、目が飛び出るほど驚いている。

それはともかく、シナの様子であるがフレンドリーなのはあくまで彼だけであり、革命派達は警戒した様子で武器を構えながら囲む。

オスト達には聞こえないが数度会話を交わしたあたりで、シナが包囲の隙間から転がり逃げる。

それから近場の建物に逃げ込み、革命派達は曲者を捕らえるべく跡を追って行く。

シナの突飛な行動はこれが初めてでは無いが、全く意味のわからない状況に開いた口が塞がらない。

ポカンとしたまま、最初に正気に戻ったソボックが慌ててどうするのかと聞いてきたことにより、二人も元に戻る。

どうするかと悩みはしたが、いつまで経っても建物から人が出てくる気配はなく、様子見をすることになった。

そうして、コソコソと近づいて中を覗き込んだ訳だが、四人の芋虫と椅子に腰掛けてニコニコと手をふるシナの姿があった。

それから合流して、何故こんな事をしたのか問い詰めたところ…


「尋問した方が早く無い?」


確かに、情報を聞き出せるのであればそちらの方が早い上に確実である。

ではその方法はとなる訳だが、手っ取り早いのが被人道的なものだ。

それを一番に思い浮かべたのか、青い顔をしながらソボックが止めようと意見を述べ、ラフスも今の状況だと賭けの要素が強いと否定的な意見を言う。

そして、同意を得ようと一言も言葉を発さないオストに話を振る。

オストとしても、普段であれば間違いなく止める忌むべき行為であるし、今も不快感を感じる。

しかし、今はそんな悠長な事を言っている暇も余裕も無い。

顔を顰めながらも、脳裏に思い浮かぶは大切な幼馴染の顔。

少しの葛藤の後にシナに尋問の自信を聞く。

必ず成功させるよと、いつものヘラヘラとした胡散臭い笑いではなく自信に満ちた頼れるような笑み。

そうと決まれば薬物入りま〜す、と適当な男に薬を飲ませた今。

やはり思い出してもおかしいな。

そう思いはすれど、時間はないので不快ながらもそれを止めるつもりはない。

見方を変えて冷静に考えれば、オストもこの片棒を担いでいるのだが、メルに比べればどうでもいいことだ。


「質問なんだけれど、今日は雨かな?晴れかな?」


「晴れです…」


「じゃあ、さっきまで何をしていたのかな?」


「見回りです…」


当たり障りの無いシナの質問に、不気味な様子のトーマスはぽつりぽつりと答えて行く。

その光景に、地面に転がる三人はただでさえ怖い顔を歪ませて、冷や汗を流す。

自分達も薬漬にされるかもしれないと言うのは勿論だが、ここまま情報を漏らしてしまうかもしれないと言う恐怖に、体を震わせる。


「いつもしてるの?」


「いえ…」


「じゃあなんで?」


「取引があるらしくて…それを邪魔する敵対組織がいるから、怪しい奴をさがせと…」


「ふーん、取引って?」


「分からない…」


「取引先も?」


「わからない…」


言われた質問にスラスラと答えるトーマス。

それを見て、本格的に危機感を持った革命派は暴れ出して拘束を解こうとするが、体を傷つけるだけに終わる。

少し煩いなぁ、と困り顔を作ると一人の溝に足を入れて気絶させて、他二人を黙らせる。

それで静かになると、当たり障りの無い質問を再開する。

そうして、少し経った頃。

やっと、本命である聞きたかった質問が飛び出す。


「アジトの場所は?」


「アジトは…」


そうして、トーマスから語られた場所は取引の指定場所から程なくした、元大商人の商館であった。

それを聞いたシナは顎に手を当てながら、へぇーっとニヤリの革命派に視線を向ける。

釣られるようにオストも地を見ると、驚愕の表情をする二人を見てこの情報の正確性を確信する。


「じゃ、最後に昨日捕まえた人居ない?具体的に言うと若い女の子なんだけど」


「分からない…」


「そっかぁ〜。まぁ、こんなもんでいいかな」


満足げに頷くシナは、これ以上聞きたいことがないとオスト達の方へ向き直る。

オストとしても、聞きたいことはアジトの場所はとメルの安否だけなので問題ない。


「じゃあ、アジトの場所も分かったことだし作戦会議〜の前に…」


思い出したかのように、横たわる男二人に近づくとスプレーを吹きかける。

すると、少し苦しんだ後にピクリとも動かなくなり、オストが殺したのかと聞くと中身は睡眠薬と返す。

確かによく見てみると、微かに動いていることがわかる。


「で、この後どうすんだ?」


「うーん。ありきたりだけど、囮使ってその間に救出がベターじゃない?」


「ちょっといいか?話を進めるのは構わねぇんだけどよ、今の情報が本当だって確証はねぇんだぜ?」


「確かに…それに、この人達には別の場所をアジトだと聞かされてる可能性もありますし、何より演技と言う線もありますよ」


話し始めて早々、ラフスは疑わしげに惚ける革命派を見て心配そうに言う。

確かに、まだ確証が得られた情報では無いために尻すぼみしたり、疑わしいと思うのは当たり前だ。

それに同意するように、ソボックも己の意見を言う。


「ボクは人の感情を読むの得意だと思うんだけど、嘘ついてるようには見えないんだよなぁ。全員、間違いなく驚いてたしね。それに、この情報が今一番頼りになるしね」


「そうだな。それに、仮に本当のアジトじゃなくても手がかりはそこにあるかもしれないしな」


スラムの古株と商人としては、疑わしい情報と言うのは気になって仕方がない。

それに、危険な状況では慎重になるのも大切だろう。

しかし、それを勘定に入れてもオストがすべき事は今日までにメルを救出することだ。

情報の精査などしている時間はないし、ならば危険を冒してでも行動するべきだ。


「そういうこと。まずは行動あるのみだよ。で、話を戻すけど囮作戦以外に案ある?」


「俺はそう言うのは苦手だからな…二人はあるか?」


「特に無いな」


「僕もありませんけど、いいですか?」


順に聞いていくと、最後のソボックは控えめに手を挙げる。

まだ気になることがあるのかと各々顔を見合わせると、音頭を取っているシナが聞き返す。


「なにか気になることあるの?」


「単純に気になったのですが、メルさんってどこにいるか分からないじゃないですか」


「ッ!?完全に見落としてた!」


「あー、そう言えばそうだよな…」


「あぁ、それなら大丈夫だよ?」


当たり前なことであるが、仮に囮を使って相手の注意を引けたとしても、肝心なメルの場所がわからなければ救出のしようがない。

それが頭から抜けていたオストは、気がついた瞬間に頭を押さえて驚き、ラフスを気が付かなかったと困り顔になる。

これでは囮作戦以前に別のことを考えなくてはと思い始めた時に、気の抜けるように問題ないと言う声がする。


「ボク探知系のスキルあるから、一度会ったことある人ならある程度近ければ場所はわかるんだよね。それ使ってオストくんを助けた訳だし」


スキル。

それは神からの贈り物で、神を祀る宗教などではギフトとも呼ばれる特別な力。

選ばれた人のみが行使出来る超常の力であり、その種類は千差万別。

数百人に一人の割合で持つことが許される才能は、その希少性もさることながら神の奇跡と呼ばれる魔法を大きく上回る力があるとされている。

『探知』のスキルがあるのであればメルの場所を見つけるのも容易だ。

しかし、スキルにも練度や才能の差により効果に差異がある。

商人ということもあり、知識が豊富なソボックはそれを理解しているからこそ聞く。


「それはどのくらいの距離なら感知できるんですか?」


「大体一kmくらいかな?ざっくりならもう少し伸びるよ」


「そんなにですか…!僕も詳しいわけじゃありませんが、探知魔法だと数百mできれば良い方なのに」


「あぁ…正直規格外もいいところだぜ。だが、これなら問題無いな」


「そうですね」


広大すぎる探知範囲。

普通の数倍はある能力に、スキルについて疎いラフスすらも驚かずにはいられない。

元騎士という経歴から探知魔法の範囲を理解しているからこそであり、さらに知識のあるソボックなど絶句ものだ。


「俺はよく分からないが、シナが救出に行くってことでいいのか?」


「そうなるね。逆にオストくんは狙われてる訳だし、囮役は確定だね」


「俺はそっちに行きたいが、仕方ないな」


「残り二人だけど、要望ある?」


「では、僕から提案なのですが、ラフスさんはオストさん。僕がシナさんと組む割り振りが一番いいと思うんですよ」


その心は?と問うシナに、ソボックは簡潔に理由を述べる。


「まず、ラフスさんは戦闘ができますから、荒事が予想されるオストさんの方が活躍できます。逆に僕の場合は足を引っ張りかねませんし、危険な駆け引きはラフスさんの方が多分上ですからね」


「なるほどね。だけど、ボクの方も戦闘があると思うよ?」


「そうですね。そこで、僕は連絡要員になろうと思います。幸い通信機が手元にありますからね。これを使えば双方の情報を共有できます」


そこまで言うと、どうですか?と三人に聞くと全員から問題無いように否定は上がらない。

良かったと歯に噛み、自分の作戦が認められたことに胸に手を置きほっとする。


「良く通信機なんて持ってるな。それ結構高いだろ」


「商人な情報が命だからね。ボクも持ってるし、少しお金があれば買えるよ」


「いやいや、一般庶民には手が届かねぇよ。俺でも扱う事がすくねーのによ」


「これ、買うのに結構したんですけどね…というかシナさんお金持ちなんですね」


「え?片手間だけど商人してるんだよ」


「まぁ、無駄話もここらへんにして行動しよっか」


「そうだな。早いところ終わらせるぞ」


貴重な時間を無駄には出来ない。

作戦が決まれば次の行動は下見だ。

寝かせた革命派を地下に拘束し直すと、四人は足早にアジトの偵察に繰り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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