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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
一章 社会不適合者達と異世界転移
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1章 35話 マッドに実験は付き物

澄み渡る空気。

見渡せる視界。

真新しい匂い。

喧騒の無い音。

大自然万歳と一人の青年は、その開放感からステップでもしそうな足取で駆け抜ける。

まぁ、大自然といっても洞窟の中なのだが。

確かにダンジョンの性質上、地上から空気は送られてきているし、匂いもそこまでキツく無い。

視界も洞窟が広いために、青年が先程までいた環境に比べれば広大とすら言っていい。

だが、それを吟味しても洞窟に変わりはなく、空気は多少の埃っぽさがあり閉鎖感も勿論ある。

匂いも生き物が住んでいるために、多少篭っている。

唯一、静かと言う点には誤りはない。

そんな普通であれば、まずでない感想を抱く目に隈をこさえた青年、正樹は少々ハイテンションで洞窟探検をしていた。


「お外サイコォー!!」


否。

少々では無く、大分。

いや、控えめに言って頭のネジが外れていた。

以前に暗部の者が、正樹のダンジョン探索をピクニックの様だと称していた。

今の探索模様はピクニックの様ではなく、ピクニックそのものだ。

正樹の目には、見える物が全てが目新しく見えている。

まるでヤバイ人に勘違いされてもおかしくないテンションで、ダンジョン探索を主にする冒険者がこの状況を見れば狂人である。

しかし、それは仕方の無いことでもある。

何故なら、つい先程まで密閉された空間で悲鳴をBGMに拷問をやっていたのだから。

そんなことを数日に渡ってやっていたのだから、普通の人間は正気など保ってはいられない。

これは正樹も例に漏れず、初めて一時間もせずに耐えきれずに吐き散らかした。

一日も経てば気を動転させて、心を病んだ。

普通の人間が耐えられないような所業なのだが、それを「慣れた」「諦めた」の二つで片付け切ったのだから、その精神構造がどれほど変質したかは言うまでも無い。

幸いと言うべくは、正樹の元々持っていた特異性のおかげで人間をやめるに至ってはいないことだろうか。

その持っていた特異性とは自分を偽ること。

正確に言えば、軽度の多重人格障害とも呼べるもので、正義に固執していた自分を無理矢理変えるために編み出した物だ。

それを今回も意識的に使ったのだが、幸か不幸かここは異世界。

摩訶不思議な未知の力が存在するこの世界。

そんな場所と正樹の特異性が合わさった化学反応果てに、新たなスキルを生み出すに至ってしまった。

その結果が今の彼であり、その中身は見た目以上の狂人。

まごうことなきヤバイ人である。

一般の人がアレを見かければ即座にお巡りさん案件なのだが、ここはダンジョン。

一般人どころか、人の気配すら皆無なこの場では彼が何をしようとも問題は無い。

それに、テンションが少しおかしな方向に行ってる理由は頭をやってしまったから、と言う訳ではない。

目の上のタンコブであった暗部の排除が出来たことにより、監視の目がなくなり自由になったことが大きい。

それに加えて、持ち合わせていた数々のアイテムを盗、もらえたことも大きい。

棚からぼたもち、迷惑料。


(まぁ、どっちでもいっか)


今はそんなことどうでもいい。

とにかく、今はこの世界に来て一番テンションが高いのだ。

そのために、お散歩気分でダンジョンをるんるんと足早に進む。

字面からは気持ち悪さしか感じ取れず、絵面も良い物ではないのだが本人がそれに気がつくことはない。

そんな時に、不意にピタリと足が止まる。


「おおお?あちらにいらっしゃるはモンスターさんででは?」


索敵範囲内に生き物の存在を感知したのだ。

数は四つ程で、人間では無いと判断したのは大きさ的に、人間では無いとのことだ。

それでも念のために頂いた懐中時計の様な手鏡型の魔導具を取り出す。

これは暗部が正樹を監視するために使っていた物で、遠くのものを映し出すことが出来る。

それで見た結果は、予想通りと言うべきか蟻型の魔物であるクレイアントだった。

普段の正樹であれば、君子危うきに近寄らずなのだが。


「ラッキー」


そう呟くと、足取り軽く目的元まで近づく。

何故か。

それは、今現在正樹の腰に挿された二振りのダガーと腕輪に原因がある。

この二つは魔導具であり、要するにこれを早く使ってみたいと言う子供じみた思考がさせていた。

ダガーの方は暗部の男が使っていた物で、あの瞬間移動の様なことを引き起こしていたアレだ。

その性能は、ダガーを含む触れている物を瞬時に移動させると言うものだ。

粗方予想がついてはいたが、それでも有用な武器であることには変わりはない。

そしてもう一方。

むしろ、こちらを早く使いたくて正樹は魔物に近づいて行っていると言っても過言ではない。

腕につけられた銀の質素な腕輪。

その能力は、どんな物でも打ち出すことができる弓だ。

正樹も、この話を聞いた時には腕輪なのに弓?と言う疑問が湧いたが、それは使用することですぐに解消された。

魔導具を起動すると、腕輪を中心に魔力で作られた弓が出現したのだ。

見た目は中央に円があり、それとXが合体したような物だ。

これだけであれば、隠し持てるだけの弓なのだが真価はここからだ。

この弓は、どんな形の物でも番えることができるのに加えて、魔力を使い矢を生成することも出来るのだ。

例えば、本来であれば番えることなど出来ない剣や槍、果てはそこら辺の小石まで打ち出すことが可能なのだ。

これの何がすごいのか。

普通の人が使えば、パチンコの機能が付いただけの魔弓なのだが、使用者がこと正樹に限りそうではない。

剣や槍は本来多数持ち歩く物では無く、例え打ち出せたとしてま矢として使えるような事はないのだが、彼には異空間収納のスキルがある。

それにより、無尽蔵にどんな物でも打ち出すことが可能と言うことで、鬼に金棒と言う言葉がぴったりな武器に化ける。

自分と相性の良い武器が手に入ったのだから、今の正樹に試さないという選択肢はない。

どの道、魔導具の試しはどこかしらでやらなくてはならない事なので、無謀そうには見えるが悪手というわけでもない。

先程のランラン歩きとは打って変わって、軽やかに足音を消しながら駆け抜ける。

じきにちょっとした広間に出ると、直ぐに標的を目視できた。

それに対して、獲物に選ばれた魔物であるクレイアント達は目が発達していないのか気がつく事はない。

正樹の隠密行動が優れている。

という訳では無く、両者の距離は数百メートル以上も離れているのだから、こそこそと近づく物を見つけろと言うのは難しい。

それでも、念のためにバレることが前提でいたのだが杞憂に終わり、口元に笑みを作る。

早速、腕輪に魔力を通すと青紫の魔弓が姿を表しす。

異空間から一本の剣を取り出して弓に添える様に移動させる。

本来なら円の部分に当たるはずなのだが、剣は円には当たらずにそのまま透過して中央部に到達する。

すると、剣が円の中心に固定された様にピタリと止まると、それ以上は上下左右にズレなくなる。


(おー、どうなってんだこれ?)


まさにファンタジーといった感じの武器に目を見開き心を踊らされるが、これはまだ序の口であった。

正眼に構えると、続け様に驚くこととなったのだ。

本来なら、剣の重量を矢の様に持って支える事は難しい。

そのために正樹は、あらかじめ持ち手で突きをする様に持っていたのだが想像以上に軽い。

矢として番た途端、剣とは思えない軽さに変化したのだ。

これならば、なんであろうと矢の様に番えることも出来る。

この至れり尽くせりな機能を前に、驚くなと言う方が無理がある。

的を絞り終えると同時に指を離す。


(さて、肝心の使い勝手の程は…!?)


放たれた剣は、風切り音を置き去りにする速度で正樹から一番近かったクレイアントを襲い…

頭と床が轟音を立てて爆ぜた。


(いや、そうはならないだろ!?)


矢よりは威力が出るだろうな、と言う希望的願望はあったが、その想定外の威力に目を剥く。

だが、それも一瞬のことで魔力の残量が大きく削れていることで納得がいく。

この魔弓は、展開に魔力を消費し続ける事はあらかじめ予想はしていたが、それとは別途で補助機能にも魔力が持っていかれたのだ。

しかも、この補助機能の燃費が維持費を超えるのだから、番たままならば数分でガス欠を起こしかねない。

実験は、大きな収穫もあったがそれに見合う欠点も見つかり、取り敢えずは成功といえよう。

手軽な火力が出せなかった正樹には、欠点を補って余りある利点なのだが少しの落胆はやはり出る。

世の中、全てはうまくいくはずもないかと折り合いをつけると、猛スピードで迫るクレイアントに意識を向ける。

仲間を殺されたことによる怒りか、けたましいすりきり音を立てながら向かってくるのに対して、正樹は次の剣を番える。

引き終えると同時に、手頃なクレイアントに標的を絞ると速射する。

その結果、先ほどと変わらぬ速度で飛び出した剣は、反応を許すことなく無慈悲に敵を打ち砕く。

ニ射目を終えて魔力量を確認すると、やはり番ている時間の分だけ燃費が悪くなっていることが分かった。

ひとまずは魔弓の実験は終えて、幻の弓は役目を終えた様に光の粒子となって消える。

まだ数秒は襲われるまでの余裕がある距離で、もう一匹くらいは倒せそうではあるが正樹はそれをしない。

なにせ、実験すべき物はあともう一つ。

正樹は、腰に簡易的につけていた二振りのダガーを両手に構えると、体を前に倒して疾走する。

互いの攻撃範囲に入ると、先制攻撃を仕掛けたのはクレイアントの方だ。

鉄をも容易に切り裂く牙で真っ二つにしようとす迫る。

その時には対象である正樹は冷静に持っているダガーをクレイアントの背後に放る。

次の瞬間には位置を入れ替えることにより牙を躱すと、どこからとも無く取り出した黒い斧を片手で振り下ろすとクレイアントの頭がかち割れる。

残るもう一匹は流石に警戒の色が強くなり、一歩引いたところで迎撃体制を取る。

そんな事はお構いなしで正樹は斧を戻しながらダガーの落ちている地面を蹴り飛ばして、石飛礫を飛ばすもクレイアントにこたえた様子はない。

そのまま、ダッ!と地面を蹴り突進。

直線で来ることが分かると、鎧の様な前足を振り上げて叩き潰す。

床がドン!と大きな音を立てると、クレイアントは糸が切れた様に倒れ込み、その横にはパーシーの剣を振り上げた体勢の正樹がいた。


「なるほどなぁ…」


苦戦というものもなく、あっという間に戦闘を終わらせると思案するような独り言を漏らす。

少し弱くないか?と言う疑問が正樹の中で浮かぶが、この前に連戦しているのが化け物オーガに上級の暗部なのだから、それと中級下位に相当するクレイアントを並べるのは酷と言うものだ。

それでも、満足のいく結果は出たので直ぐにその事は忘れる。

先程石粒と共に蹴飛ばしたダガーの片割れを回収して、自分の中で総評を出す。

まず、使い勝手だがそこまで悪くはない。

本来、空間魔法を付与された魔導具は扱いが難しいのだが正樹には同じく空間属性にある異空間収納がある。

多少の違いはあるが、スキルの補正や練度があるので特に苦もなく扱うことができた。

問題としては、移動するものはダガーに触れていないといけないと言うことだが、これは瞬間移動の代償と思えば安い。

問題はもう一つの、瞬間移動すると後隙ができてしまうと言うことだ。

決定的だったのが走っている途中に転移したら、ピタリと勢いが消えてしまったことだ。

これのおかげで、転移後に急停止しようと体重を前にかけていたために、つんのめった体勢になってしまった。

誰も見ていなかったので良いのだが、もし見られていれば相当恥ずかしいことになっていたことは請け合いだ。


(まぁ、使い方を間違えなきゃ十分強いか)


試したいことを一通りできた訳ではないが、検証としては上々の結果を得た。

戦闘を一回こなしたのだから、道具の手入れを含めた休憩を挟んでも良いがあいにくと場所が悪い。

休憩をお預けとして、マッピングを兼ねた魔物ハントの続きを再開しようと足を進める。

ズドン!!

どうせなら奥に足を伸ばすのもありかと検討し始めた瞬間に、地面をつく様な鈍い衝撃が駆け抜ける。

一瞬、爆発か?とも思ったが、その考えは即座に捨てる。

あれなら、全ての疑問が解ける。


「あいつ、生きてんのかよ」


少しこじつけが過ぎるかもしれないが、アレにはそれを可能とする何かがある。

ため息をついて呆れた様な表情を取るも、内面は違う。

いや、確かにあれで生きているかもしれないからそのタフさに呆れはある。

だが、その大部分は黒。

冷たくも、チリチリと心を蝕む様な感覚が這い出てくるのを感じる。

先程の高揚感などすでに消え失せて、能面を顔に貼り付ける。

正直なところ、正樹はあのオーガを憎んでいると言うことは無い。

ただ、やり場の無い後悔があるだけだ。

パーシィが無駄死にになった訳では無いのは分かるが、それを感情が認められるかは別の話だ。

たった今、正樹の中から慢心や油断は消えた。


「やり残したことを片付けに行くか」


表情こそ普段と変わりはなく気怠げではある。

だが、その瞳は黒く濁り、革新に近い予想のもと敵を見据えるのだった。


●


洞窟の下層。

その一つの広間には、クチャクチャと肉を貪る音が響くのみ。

そこには、大きな巨体を丸めて食事をする怪物。

その傍らには、崩れ落ちた壁の瓦礫と上の部分が消失した巨大な蛇と思われる肉塊が一つ。

肉塊の主の名はダークネスバイパー。

この下層一帯を縄張りとするヌシだ。

強さの程は一匹で、人間の中大規模の軍隊を壊滅させるほどの戦闘力を誇り、時には町を滅ぼしたと言う話すらある。

戦闘力は超越級中位に属する、生きる災害とも呼べるはずであったが、今の風体は見る影もない。

本来は、猛毒と闇の上位属性である暗黒魔法を操る巨大な蛇で、最強種族である龍すら捕食する時がある。

そんな、食物連鎖の上位に立つダークネスバイパーを狩し者は、強者を倒した優越に浸ることなくその肉を食う。

むしろ、内心に荒れ狂う怒りに薪をくべるかのごとく口に放り込んでゆく。

すべては、怨敵をこの手で倒すまで。

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