4章 164話 決着の末に
はみ出した話なので少し短めです
地獄の入り口を具現化したとしたら、こんな景色になるのだろうか。
少なくともここが元々人工に造られた穴であるとは誰も言わないだろう。
あらゆる物を炭とし、各所をが赤く溶解した壁はまさに火山地帯に出来た洞穴と言った景観。
おおよそ人間が生存できはしない環境にて、ゆらりと人影が一つ這起きる。
「ぐっ…はぁぁあぁ…!!ハァァ、はぁぁぁ…」
高音の空気が喉を焼こうともお構い無しに酸素を肺に送り込む。
既に黒焦げの身体からすれば、今更内臓が焼けようとも痛みなど大した物では無い。
「よぐもぉ、よぐも、やっでぐれだなァ、ぢぐじょうガァ!!」
立ち上がったニンブスは、些末な痛みなど無視をして叫ぶ。
本能に急かされるままに、実際には緩慢な動きで辺りを見渡せば目的の物が目に入った。
物と視線が合ったニンブスはぎこちない歩みで、今にも崩れ落ちそうな身体を進める。
血走った目で逃すまいと深い怒りを浮かべて。
そんな視線に注視された物…いや、同じく黒焦げのオストは、あれだけの攻撃を浴びせて立ち上がったニンブスを見て盛大に毒吐く。
(クソが、化け物か!?何で体が炭になっても動けんだよ!)
髪は燃え尽き、皮膚は爛れ果てた姿。
右腕に至っては炭化して崩れ落ちている。
意志の力は何もオストだけの特権では無い。
生きているのがありえ無い姿をして尚、彼を突き動かすのは執念が成せる奇跡であった。
対してオストの瀕死の体は全く動く気配を見せない。
『イグニッション』の効果時間は切れ、スキルにより限界を迎えた体は指ひとつ動かせない。
むしろ、意識を保っているだけでも奇跡と言っていい状態。
しかし、その状態をオストは心底恨めしく思う。
(どうすんだ、動けよ!動け、動け、動け!!)
いくら命令しようとも、出し尽くした体は聞き入れてはくれない。
万事休す。
「見つけた」
絶体絶命のピンチに割り込む第三者の声。
灼熱地獄の模倣とも言える場所には不釣り合い過ぎる凛としながら淡々とした声音。
「キミ、何してるの?」
本来不快には聞こえない筈の、どちらかと言うと綺麗に分類される声音は、オストの心をざわつかせる。
印象はあの場で最も薄いのに、褪せることなくハッキリと覚えていた。
(アイツは!?)
「だ、だずどざま…!」
今まさに殺し合いをしていた二人は一瞬互いの存在を忘れて、たった今現れただけの人物に釘付けとなる。
火の海の中。
炎などまるで無いかの様に白仮面の人物、ダストは平然と佇む。
「ごれば、ぢがうのでず!ごのぢぐじょゔがひれずなまねをじだがらであっで、わだじばまげでなどいないのでず!」
決して理解し合うことのないだろう二人だったが、この時ばかりは焦燥という感情を抱く。
思わぬ人物の登場に時を止めるオストとは異なり、ニンブスは必死に言い訳を言い連ねる。
「負けてない?キミ、もう死ぬのに?」
「ハァ?」
「もう助からないよ?けど、オストの方は時間が経てば放っておいても助かる」
冷たく突きつけられる冷酷な宣言。
何を言われたのか信じられないニンブスに、ダストは出来の悪い子供に言い聞かせる様に、己なりに丁寧な説明を心がけた。
勝敗は明確だと。
「で、何してるの?負けたのなら大人しく死んだ方が楽なのに」
どうでも良い話はここまでだと無情に話を戻すダスト。
最後に独り言じみた感想を添えれば、焼け爛れた顔が分かりやすく歪んだ。
「ぞんなごどは、あ、ありまぜぬッ!!いまずぐぞごのじぐじょゔをごろじ、ぞれをじょうめい…」
「それ、命令違反だよ?」
激昂するニンブスだったが、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
その瞬間、世界に霜が降りた。
焦熱地獄は一瞬にして銀の世界に様変わりする。
「暑かったから冷ましておいたね」
物言わぬ銀の像となったニンブスが崩れるのを見届けもせず、ダストはオストに向き直った。
仲間を仲間とも思わない所業は、ここまで極めれば怒りよりも先に恐怖を抱く。
理由はそれだけじゃないだろう。
あの時と比べればオストは幾分も成長を重ねたと自他共に確信している。
勝てない。
より正確にいうなら万全でも勝負にもならない差が、未だ尚深淵の如く広がっているのだから。
「怖い?意外。キミは恐れなんて知らないと思ってた。そっか」
黒焦げの顔からでもオストの気持ちを汲み取ったダストは、興味深そうにただ眺める。
喉が焼けてなければ「そんなことある訳ねぇだろ!」と言っているところだ。
観察もそこそこに切り辞めたダストは、オストに向かって足を向ける。
何をするつもりだ、なんて察しの悪いことは思わない。
かつてオストを捕らえようと、より厳密に言えばオストの中に眠る力を回収を試みていたのだから目的は明らか。
本格的に風前の灯となった現状に心がジリジリと焦がされるオスト。
そこへ、またまた現れた新手の介入。
ゆっくりと歩いていたダストの足元へ大振りのタガーが突き刺さる。
「失礼。我が騎士団の新人にご用がおありで?もしあるのでしたら私が承りますが」
首がまともに動かないせいでその顔を拝むことは出来ないが、オストは知人の声を聞いて胸を撫で下ろす。
暗がりから姿を現したのは、オスト達よりも少し装飾が華美な団服に身を包んだ男。
別行動を取ったいたオルクスがようやく合流を果たした。
「ひさしぶり」
「お久しぶりにございます。して、ご用件は?」
「オスト連れてっていい?」
「お断りさせていただきます」
またもや敵とは思えないダストの軽い挨拶に、オルクスも物腰柔らかに対応する。
戦いなど起きそうにも無い気の抜けるやりとりだが、魔力が渦巻き、場の空気は張り詰めてゆく。
即座に端的な目的を告げるダストに、当然の如く要求をにべもなく断るオルクス。
威嚇とは思えない刃のような魔力を放出するダスト。
一触即発を予感させるやり取りはオストの意識を今にも吹き飛ばそうとする。
「オルクスじゃ勝てないよ?」
「そうかもしれませんが、時間稼ぎくらいでしたら可能かと。ここで戦闘となればアレクレアの精鋭がすぐに駆けつけられますから。相手が『大勇者』や『白帝』の可能性もございますよ」
ダストは当然の事実を盾に脅しをかける。
しかし、オルクスはそんなことは承知の上だと、仮に戦いが起こった場合のありうる未来を語った。
確かにと考え込むダスト。
「それは困る。けど、そんな時間ある?」
「使えるお方に頼るのはお恥ずかしいですが、この場にはウィン様もいらっしゃいますから。先程お会いになられたのでは?」
「元気そうだったね。そっか、無理か」
勘定をした結果、オルクスの言う通りになると判断したダストは目的達成をあっさりと不可能を認める。
何ともやる気の無い態度ではあるものの、実際問題として不可能とは言わずともキツい事に変わりは無い。
そもそも、盛大に失敗したのはニンブス達であり、自身は監督役と言う名の傍観者みたいなもの。
言い訳は必要以上にあるのだから、無理に争う必要は無いとダストは身を翻す。
「帰る。オルクス、オスト。またね」
「ええ、またいずれお会いいたしましょう。望むべくは戦場でないことを」
背中を見せたまま別れを済ませたダストは、スタスタと暗がりの中へ向かう。
今し方まで魔力の発露だけで人を殺さんとしていた人物とは思えない足軽さだ。
オストとしてはまた会って問い詰めたい気持ちと、怖いので出来るなら会いたく無い両極端な思いだ。
少なくとも今は顔すら見たく無いが。
「こうも短期間であの人と二度も会う事になるのは災難でしたね」
姿が見えなくなった所でオルクスがオストの不運に同情をする。
運の悪さには定評のあるオスト。
それでもこの会合は上から数えた方が早い不運であるのは疑い用が無いので、素直に全くだと心の中で頷く。
そこで緊張の糸が緩む。
「辛いでしょう、今はゆっくりお休みなさい」
我慢のしようが無い意識の混濁を覚える。
察したオルクスは堪えないよう伝えると、オストは甘える事にして深い眠りにつくのだった。
超どうでも良い裏情報。
ダストの名前の由来はダーク・オストではありません。
火と氷?で対になる属性を操るので類似点がありそうですが、割とたまたまだったりします。
ダストの名前の由来はしっかり別にありますよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
同時に連載中の『実は元蛮族の皇子さま』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




