4章 165話 初任務を乗り越えて
4章完結!!
「なんかこの構図も見慣れてきたね」
「ですねぇ。よっ、全身包帯が似合う色男」
「嫌味とか置いとくとして、そもそも包帯に色気シャットアウトされてるんだが?」
ファーゲをめぐるランバック商会とクロフォード教団の陰謀を阻止するべく、大激戦を繰り広げてから数日後。
マサキの見慣れてきてしまったファッションにミカが感想を述べると、隙を見逃さずにコヨミが囃し立てる。
重症を負い昨日ようやく目を覚ましたばかりのマサキは、気だるそうにしつつもツッコミを欠かさなかった。
「見つけた時は死んじゃいそうですっごく焦ったけれど、昨日起きたばっかなのにいつも通り過ぎて驚いたよ。やっぱりマサくんは頑丈だよね」
「そうだね。結構元気そうで安心したよ」
「逆に何でお前は元気なんだし?怪我しろよ。男子仲良くベッドで寝るところだろうが」
「何で俺だけそんな反応!?」
そりゃあ、男の中で唯一無傷な奴が居れば僻みたくもなる。
マサキは見た目通り言うに及ばず、オストも限界を超えての能力使用で重症。
「ヒカルだってあんまり怪我してないでしょ」
「ヒカルは良いんだよ。心に傷を負ったから」
「誰がナイーブだ、コラァ」
「いてっ、何で俺を殴るの!?」
「このバカを殴る訳にゃいかねーだろ」
頭を小突かれたジュンジが苦情を入れるが、ヒカルは覇気の無い様子なのに理不尽な訳を話す。
善意を吐露したつもりが、まさかの悪意100%が返ってきたジュンジは密かに目を湿らせるしかない。
ジュンジは味方を探すべくマサキの隣のベッドに助けを求める。
「オストもなんか言ってよ」
「俺か?確かに一緒に寝てみたいかもしれないな。マサキはコレだからあんまり長く起きてないから、話し相手が居なくて暇なんだ」
「いや、そうじゃない」
急に話を振られたオストは考えていたことをそのまま話すが、見事にズレた答えを前にジュンジは膝をつく結果に終わる。
「マサくん、ご飯を持ってきたんだけどどうする?食べれる?」
「食べなきゃ治らないし食べるしかないだろ。あぁ…点滴でもあれば楽なんだけど、そんな便利な物無いのがキツイ」
「回復魔法があるから一概にどっちが優れてるとかは無いですけど、やっぱ先進技術は偉大ですよねぇ。化粧品とか高価なのにどうしてもイマイチですし」
「だな。馬のスペックが高えから移動はそこまで苦労しねぇが、乗り心地は普通に悪ぃしな。サスペンションは付いてるらしいが、簡易的なもんらしいし、そもそもが道の舗装が甘ぇからどうしようもねーか」
やはり転移者としては現代文明がどうしても恋しくなるもの。
生き物の性能は断然異世界であるが、外敵も相応に強い分人間が覇権を取れていないせいで、文明の進みが非常にアンバランスだ。
転移者や転生者の知識があっても、土台となる生産の方でどうしても難が出る。
日本相当の技術が無いわけでもないが、それは莫大な費用を投資しているか、チートマンパワーでゴリ押し解決しているだけなので、物語みたいな超発展はこちらでも夢物語に他ならない。
「もうこの際だからカロリーがバカ高い流動食とか無ん?粥普通に好きじゃないから早く治したいんだけど」
「そういうのは体に良くないから出来ないってお医者さんが。リハビリはコツコツって言うのは万国共通だよ?」
「努力なんてクソくらえだね。頼むからルナエルさん辺り連れてきてくれー。あの人ならこれでも一発で治せるだろ」
「努力大好き人な癖に努力嫌いなんですか?蛇も毒に当たる的な」
「どっちかって言うと嫌いだけど健康に良いから食うだな。しなくていいなら努力なんてする必要性を感じん。仮に好きな奴がいるとしたらマゾだろ」
「なるほど、先輩はマゾと」
「違うわ」
何故かマゾ判定を下されたマサキは短く否定を入れる。
才能が無いからその分を仕方無しに努力で埋めている身としては、そう表されるのは心外以外の何者でも無い。
そんな中、一人謎単語の出現にオストが首を捻る。
「マゾってなんだ?」
「痛えのが好きな奴だ」
「そんな奴らが居るのか、普通は痛いのは嫌だろ?俺も治るのなら早く治ってほしい」
世の中にはまだ見知らぬ多種多様な人が居るもんだと感心するが、そんな世界は知らなければ知らない方が良いんじゃないかヒカルは思う。
「はい、これはオスくんの分ね」
「おお、ありがとうな」
「何でオストの飯は普通のなのよ」
「オスくんは身体だけ見れば健康だからねー。内臓痛めてるんだから、わがまま言わないで食べよーねー?はい、あーん」
「んごっ!?」
オストはご飯を持って来てくれたミカに礼を言ってから盆を受け取る。
パンにスープ、野菜の酢の物だけでも貧民街育ちからしたら豪勢なのに、そこに腸詰まで添えられていれば自然と腹の虫が鳴る。
それを横で見ているマサキは不平を述べるも、ミカの正論と匙により黙殺された。
「ミカ先輩のあーんの方がよっぽど豪華じゃないですかー。超絶美少女のあーんですよ?わたしほどじゃありませんけど」
「相変わらず、そこんとこの自意識高えな」
「まぁ、天下のアイドル様だしね。しかもまぁまぁ売れっ子の」
「はぁ?わたしぃ、超売れっ子のアイドルですぅ。ジュンジ先輩みたいなクソ陰キャにも、夢と希望を届けてあげる大天使さまですよぉ?」
「悪夢と絶望の間違いだろ。お前の芸風毒舌キャラじゃなかったか?」
猫撫で声で全力の猫の皮を被ってジュンジの失礼なコメントに訂正を入れるコヨミ。
しかし、その訂正内容はほぼ誤りである。
容姿の良さで売り出されたコヨミだが、人気の理由は容姿では無く歌手としても女優としても行けてしまう実力故。
プライベート程じゃ無いにしても辛口なコメントを多くする彼女は人気であると同時に、一部からは蛇蝎の如く嫌われてる炎上系芸能人。
故に学校ではより凶暴な本性で振る舞うものだから、学校でマサキ達爪弾き者のグループに居たのだ。
「そんなネットの書き込み信じちゃうなんて、ヒカル先輩のネットリテラシーが心配になっちゃいますねぇ。先輩もそう思いますよね?」
「ごくん…ヒカルのネットリテラシーは知らないが、天使では無いだろ」
「じゃあ何ですか?」
「悪魔」
「ふーん、ミカ先輩。そのお盆貸してもらってもいいですかー?」
マサキは条件反射でつい本音を溢してしまう。
すると、今日一番の笑みを浮かべてミカと介護員交代を願い出るコヨミに、マサキは慌てて訂正を入れ始めた。
「そう、小悪魔だ。決して触れてはいけない蠱惑の魅力。しかし、それ故に人々はお前に目を奪われるんだろうさ…多分」
「へぇ、中々嬉しい事を言ってくれるじゃないですかぁ。ヒカル先輩、これが世間の生の声ってヤツですよ!」
「最後なんか聞こえた気がするんだが?」
「「気のせい」ですよ?」
全力で誤魔化しにかかる白々しさなんて無いかのようにコヨミは鼻を高くする。
アイドルイヤーはアンチコメントをシャットアウトするのだ。
「実際問題、ミカに食べさせてもらうのは贅沢だと思うぜ?ミカくらいの美人から酌して欲しい男は五万といるさ」
「どうも、ありがと。オスくんはさらりと嬉しい事を言ってくれるね」
「じゃあ、飯を取り替えてくれ。代わりにオストがあーんしてもらえよ。マジで」
「ソレとコレとは話が別だ。そもそも、その粥も充分おいしそうだと思うぞ」
オストとて粥よりも柔らかいパンとちゃんとした酢の物に腸詰の方が好きだ。
それはそれとして、貧民街育ちからすれば料理人に作られた粥は豪華とは言わずとも上等な部類に入る。
隣でより豪勢な食事をされれば誰だって不満に思うか程度の認識のオストだったが、マサキからすれば失言をして居た堪れない気持ちにもなる。
そこからは黙って雛鳥の如くパクパクとスプーンを啄むマサキとオストの食事を囲み、周りはやいやいと賑々しく話を続ける。
「で、任務はどうなった?取り敢えず、成功したのは昨日聞いたけど、その後すぐに寝落ちしたから続き聞きたいんだが」
「突入した辺境伯さんの騎士団に少し被害が出たらしいけど、被害者は発見できた人達は全員無事に確保。後はランバック商会の人達を捕まえられて大成功だって」
「テロリスト達に関しては一人も捕まえられませんでしたけどねー。あのおっかない仮面さんが口封じに他の人達みんな殺しちゃったんですって」
普段表情だけは明るげなコヨミでも、相対した時の事を思い出して苦々しい顔を作ってしまう。
他も同じかそれ以上に苦い顔をしてしまうことから、その脅威が並外れていた事を容易に悟らせる。
「ま、悪党の末路なんてそんなもんだろ。なぁ、ジュンジ?」
「何で俺に振るのさ。していても、父さんや兄さんくらいだよ」
「また会う機会があったら、どのくらいコンクリート詰めにしたか聞いてみたいな」
「むしろ聞きたくねぇだろ。そんな物騒な質問」
一般的に悪党の代表格に分類されてる親族持ちさんに話を振れば、本人は心底嫌そうだ。
怖いもの知りたさ故のマサキの感想だったが、頭のネジの外れ方にヒカルは冗談だろと盛大に顔を顰める。
世の中には知らない方が良いの典型例であっても、マサキからすれば他人事も他人事な上にもう有り得ない機会だからこその知識欲だ。
流石に日本に居た頃なら京夜の部下にでも就職しなければ聞きはしない。
「商会は解体、被害者関連はウチとハンマーグ家で対応する事になってめでたしめでたしさ」
今の今まで居たような雰囲気だが、全くもって居なかったはずのシナがオストのベッドに座りながら締めを語る。
「いつ来たんだ。と言うか退け」
「キミ達がおしゃべりをし始めた時」
「最初からじゃねぇか」
「全然気が付かなかった」
「ですね」
「まぁまぁ、あんまり驚いてくれなかったしそんな事はどうでもいいよ。割と厳し目な案件だったにも関わらずよくやり遂げたね。本当にお疲れ様。あの時の判断は間違いじゃ無かった。キミたちはボクの誇りだよ」
悪戯が不発になったこともなんのその。
オストにベッドから追い出されながらシナは小隊のメンバーを労う。
上司の熱い思いにメンバーは感傷に浸る…事も無く、機会を得たとばかりに文句を垂れ始める。
「教団が絡んでんなら最初から言え!笑えねぇ悪戯も大概にしろ」
「やっぱわざとかよ。相変わらず狐野朗だな」
「危うく死にかけたんですよー。褒賞はがっぽり貰いますよ!先輩の分まで」
「死にかけたの俺だし、その言い振りだと俺死んでるくね?あ、これ手当付きますよね?」
口を開いてないジュンジとミカも流石に軽く流すつもりは無いらしく、無言ながらも視線で責めたてる。
しかしながら、そこはシナクオリティ。
へこたれるなんてことは有り得ず、むしろ良いねと笑い飛ばす。
「はっはっはぁ。キミら逞しすぎるね。褒賞は辺境伯直々の依頼に加えて教団の案件だから期待して良いよ。なんならボクのポケットマネーからお小遣いだしちゃうから」
「チッ…今回だけだぞ」
「おい、オスト。何買収されてんだ」
軽い態度に怒りを露わにする寸前だったオストだったが、金の話が出た瞬間嘘かのように矛を収める。
これ以上ないくらい迅速な買収現場だ。
仕方なさそうにしていても、どことなくニヤついて見えるのはきっと気のせいじゃない。
現金な隊長同様、割りにあった金が貰えるなら文句の無いマサキはまだ残っている懸念事項を尋ねる。
「あぁ、そうだ。ワウルってどうなったんですか?後で俺が辺境伯と交渉するつもりだったんですけど、この通りなんで。シナさんがもうした後でしょ?」
一番気になっていたのは任務だが、その次くらいに今もミカの側にいるデカい犬、ワウルについても心に残っていた。
と言うか、デカさ以上に人懐っこくマサキに擦り寄っているので、自己主張が激しかった結果でもある。
「大活躍のキミ達に少しでも恩を返せればってことで、その子は好きにして良いってさ。従魔登録とかの手続きも済ませてあるよ。あ、でもボクが保証人だから街で放すのはやめてね?」
「それは良かった。正直今から交渉とか普通に嫌なんで助かりました」
冗談めかしてお茶目にウィンクをするのもサマになる優男だ。
少々演技くさくて鼻に付かなくもないが、マサキは面倒ごとを処理してくれてありがたいので大人しく礼を告げる。
だが、実は本題はこれからだった。
「どういたしまして。あと、現場から一部無くなってる物品に関しては大方目を瞑るってさ。あれだけ派手に暴れたし、逃げ仰た賊が持ち出したりもしたからね。けど、証拠書類なんかは出てくると助かるなぁとも言ってたよ」
「ソレハヨカッタ。ココニタマタマヒロッタカミガアルンデスヨ。ミチニオチテタノデドコマデヤクニタツカワカリマセンガ、ドウゾオオサメクダサイ」
全く身に覚えがない話ではあるが、偶然にもそれっぽい紙?を偶然そこら辺の道で偶然目にして、偶然拾っていたマサキ。
収納していた紙束をぎこちない動きで取り出すと、シナは嬉しそうに拾っただけの紙束を受け取る。
「道で拾った紙は預かったよ。これも日頃頑張ってる辺境伯様の徳の成せる幸運だねぇ。後処理が捗りそうだ。じゃ、怪我人に苦労をかけるのも忍びないから最後にこれだけ。これにてキミ達の任務は完了だ。準備を終え次第、アレクレアへ帰還されたし。改めてお疲れ様」
格好を正したシナによって、長く苦労をかけられた任務の幕はこうして閉められるのだった。
まさか3年もかかるとは、、、と言った感想しか無いですね。
趣味の範囲でしかやってないとは言え、一部物語が吹き飛んだり、別作品を書くために約一年飛んだりと、心当たりが有るような無いような感じでやっていましたが、ひと段落を付けられてなによりです。
いつもの暫く閑話を挟んで5章をやるつもりはありますが、一体いつになるんでしょうねぇ、、、
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
同時に連載中の『実は元蛮族の皇子さま』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




