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第三話【視点:王太子(ダリス・ル・ファリア)】





 かつて俺には、誰よりも気高く美しい婚約者がいた。


 その婚約者の名前は、シルリア・ライゼント。


 我がファリアの国民にとって英雄。


 しかし。


 シルリアはもうこの世にはいない。白き英雄とまで謳われたシルリアの処刑を婚約者であった俺が命じた。


 自分でもよく分からない。


 国のためを考えるんだったら、シルリアは生かしておくべき存在だ。シルリアがいるというだけで他国はファリアを恐れるのだから。


 だが。


 俺はシルリアを殺した。


 そして、気付いた。

 自分が犯した罪の重さを。


 幼い頃のシルリアは、まるで人形のようだった。

 大人の言われたことだけを忠実に行う操り人形。


『はじめまして。シルリア・ライゼントと申します』


 流れる動作でお辞儀をしたシルリアに、俺は思わず見惚れた。

 美しい。

 ただ、この一言に尽きた。


 それから俺は毎日のようにシルリアを城に呼び出してはひたすら話し続けた。

 最初はただ相槌を打っていたが、だんだん瞳の奥に光が見え隠れするようになった。


『ダリス様はまるで太陽のような方ですね』


 ある日、シルリアは微笑みを浮かべて俺にそう言った。


『……私は月のような存在になりたいです』


『…月? どうしてだ?』


『そ、その……月と太陽はまるで夫婦のように見えませんか?』


 シルリアの頬がうっすらと染まる。それだけで俺の心臓はバクバクと騒ぎ出す。


『そ、そうだな』


 あのときの俺は、シルリアだけを見ていた。シルリアを俺のものにしたくて堪らなかった。


 シルリアが笑顔でいるならばそれでいいと思っていたのに……。


 いつの間にか、シルリアの顔から笑顔が消えていた。


 ファリア国は、聖女の召喚に成功した。この世界では珍しい漆黒の髪に瞳を持った少女は、次々に周囲の人々を魅了していった。


『ダリス様、一緒に庭園へ行きましょう?』


 少女はそう言って、俺の手を取り、庭園に向けて歩き出した。

 その日は、シルリアとの貴重なお茶会が入っていた……。


『わあ、本当に綺麗な庭園ですね』


 少女は嬉しそうに庭園を見て回った。俺の手を握りながら……。


『すまない。これから用があるんだ』


 俺はそう言って少女から離れようとした。しかし、少女が抱きついてきたせいで俺の体は硬直した。


『も、もう少しだけこのままでいさせてください』


 ふと、俺の視界の端でシルリアが映った。

 シルリアは今にも泣きそうなぐらい顔を歪めていた。

 そのとき、俺の中で何かが変わった。

 あんなにもシルリアの笑った顔が見たかったのに、シルリアの泣いた顔も見たいと思ってしまったのだ。


 それから俺の行動は少しずつ大胆になり始めた。シルリアが近くにいると知っていながら、少女と手を繋いだり、ときにはキスもした。

 シルリアの顔が歪むたびに自分の心が満たされていく感覚を覚えていた。


 そんなある日、白を基調とする騎士服を身につけたシルリアが謁見の間に現れた。


『私、シルリア・ライゼントはこのファリアに勝利をもたらすべく、戦地に行ってまいります』


 シルリアはそう言い残して戦地に向かっていった。

 そのときのシルリアは、何かを決心したような顔付きをしていた。


 シルリアの活躍は、このファリアにも伝わってきた。女の身でありながら、敵の武将を薙ぎ倒していく姿に多くの騎士達がシルリアに敬服した。

 いつしか、ファリアの民達もシルリアを英雄と謳うようになっていった。


『ダリスよ、シルリアは我らファリアの王族にとって危険な存在になる』


 王である父が俺にそう告げた。


『……シルリアをどうするつもりですか?』


『……死んでもらう』


 父のその言葉に俺の脳内が真っ白になった。

 シルリアが死ぬ、だと?


『…民が反発します』


 そのまえに俺が許さない。シルリアは俺の婚約者だぞ。


『抑えつければよい。聖女を害した罪でシルリアを捕らえろ』


『聖女を害した?? シルリアはそんなことはしてないっ!!』


 俺は声を荒げた。


『ダメよ、ダリス。お父様にそんな口のきき方をしては……』


 柱の陰から少女が現れた。少女はそのままつかつかと俺の方に歩み寄ると、俺の頬に手を添えた。


『シルリア様は、私を害そうとしたの。だから、私が国王様に頼んだの』


 俺は目を疑った。


『シルリアはそんなことをするような女性ではない。戯言を言うなっ!!』


『……やっぱりダリスだけは堕ちてなかったのね。ダリスだけにはこの手を使いたくなかったんだけど……仕方ないよね?』


 少女はそう言って、触れた手を通して俺からシルリアと過ごした記憶を消していく。


『や、やめろっ!!』


 俺は暴れようとしたが、身体が石のように固まって身動きができない。


『ふふ、これでダリス様は身も心も私のもの……』


 少女は俺からシルリアと過ごした記憶を奪い、記憶を改ざんした。


 そして、俺が我に返ったときにはシルリアはすでにこの世にいなかった。

 俺は何もかも覚えていた。


 俺から婚約破棄と死刑宣告を受けたシルリア。

 ただただ、牢で死刑執行の日を待ち続けるシルリア。

 穏やかな表情で処刑台に上るシルリア。


 そして、そのシルリアの首と胴体が離れたその瞬間まで、鮮明に……。


 シルリア、待っていてくれ。


 必ず君に謝るから。


 許してくれなくてもいい。それだけのことを俺はしてしまった。


 だから、君が許してくれるまで俺は君に懺悔し続けよう。


 シルリア、愛してる。

 


 



※第一話と第二話をかなり書き直しました。

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