(ⅩⅩⅡ)消滅そして再臨
「消えろぉぉぉ!」
「俺を楽しませて見せろ!」
どこまで、やり合ったかは定かでは無いが死闘を繰り広げられていた影響で幾つかの建物は粉々に砕け散る。
俺は剣を両手に構えてぶつかり合うがユダヤの圧倒的なる実力には歯が立たずにいた。こいつは尋常に無く人間を超えた場違いな動きを平然とした表情で奇妙な形をしている大剣を軽々しく振り回し、激しい動きでさえも息を切らさない。
普通、ここまでの動きをしていたら必ずどこかで隙が出来る筈だ。だがユダヤは一切の隙を作らない。
「どうした!呪いを与えた相手だぞ!全力で来やがれ!」
当然だ。俺はお前を絶対にぶっ潰す。こんな呪いがあるおかげで命を吸いとられているような傷みが襲いかかるし身体の中に潜んでいるライアと名付けたクソガキが毎回うるさく語りかけてくるしな!
「やってやるよ!てめぇの骨を隅々まで砕いてやる!」
(やる気かい?)
やるさ。俺は今日限りで殺す。その為なら命は惜しまない!だから、さっさとその力を……
「よこせ!ライアァァ!」
(やれやれ、君という奴は本当に仕方がないね)
青く透き通った剣から滲み出る力を激しく感じる。これでユダヤに全力でぶつけてやる!
「ソウル・エッジ!」
ユダヤに駆け寄って、一気にXの形に斬っていくと案の定ユダヤは青い炎に包まれていく。
これほどのダメージをまともに喰らってしまえば、いくらなんでも生きられる筈が。
「俺がこの程度で死ぬと思っていたのか……ははっ、笑わせてくれるなぁ!」
青く燃えていく炎を物の一瞬で弾き飛ばしたユダヤ。俺は次の攻撃がくると睨んで、すぐさま防御をするがユダヤの振り回す大剣の攻撃力がこれまでに感じた事の無い恐ろしい威力。俺は3m先にある建物の壁まで物凄い衝撃音と共にぶっ飛ばされる。
そして起きあがる直前に、俺の身体は悲鳴を喚く。
「ぐぁぁぁ!」
(レグナス!しっかりするんだ!)
くそがっ!このままだと俺はユダヤに確実に殺される。そんな事が許されてたまるか!
(よせ、君の身体は限界を迎えている。この場は大人しく)
黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ!幼い頃、俺に呪いを与えやがった人物が今!目の前にいるんだぞ!
「ぶっ殺す!ぶっ殺す!絶対にな!」
「ははっ、よほど俺の事を恨んでいるんだな。せっかく力の無いお前に抗える程の力を与えてやったというのに」
誰が与えろと言った?俺はあんたにそんな事をやってくれと言った覚えは無い!
「ユダヤ、あんたを倒して呪いを解除する!それが俺の今やるべき事だ!」
「良いだろう。その代わり、俺はお前との死闘を楽しませてもらう。自暴自棄になっていた俺が唯一気に入った奴だからなぁ!」
今にも砕け散りそうな剣を持った俺は、耐久を気にせずユダヤと死闘を繰り広げる。
戦闘を繰り返す度に建物や地面が次第に崩壊していくが関係ない。俺は壊す!こいつの存在を!
「死にやがれぇぇ!」
「死ねと言われて死ぬ訳が無いだろ。ボンクラがぁぁ!」
剣の一振りを避けてその場で空高く跳躍したユダヤは次の瞬間、立ってもいられない程の凄まじい衝撃音と共に俺の身体はふわりと宙に舞ってから、あちこちひび割れが入っている地面に頭を打たれると次の瞬間には大きく深呼吸をしたユダヤが謎の高笑いを披露する。
「ふはははっ、所詮は俺の力で授けられし者!やはり俺には勝てないか!」
「ぐっ!」
くそったれ。俺はようやく呪いを与えやがった人物を特定したというのに!勝てないのかよ!
そんな事が許されて言い筈が無い!絶対にな!
「せっかく目をつけたのに、成長した所で結果的には残念な終わりを迎えたな。まぁ、俺が選んだのだから潔く終焉にしてやる!ありがたく感謝しろ」
誰が感謝するか。俺は終われない。こんな場所で!
「まだだ、俺は戦う。身体が生きている限り」
剣を構えている拳に力を込めてコンクリートに突き刺して、俺は立ち上がる。ここからが……俺の反撃だ!
「ほぅ、まだやる気か。そのしぶとさには感銘だ。もう少し骨がある奴で安心したぜ」
(ここで終わらせる。俺の全力を使って)
(本気かい?)
(俺に二言は無い。それと)
(それと、何?)
(お前との目障りな関係はここで終わりにする)
ユダヤに呪いを与えられて以降事あるごとに毎回頭の中で語りかけてきやがる人物に俺は当初驚いた。
だが、奴には俺と同様で名前は存在しない。考えに考えた俺は適当な中古の本屋に入って名前事典をしらみ潰しに調べあげた結果……語呂の良いレグナスを俺に与え、もう一方のライアという名前は俺の中で遊んでいるクソガキに与えてやった。それからは街中でひねくれていた俺を見かねたジェネシス学園の学園長が養ってくれた。無論感謝している……俺はそいつのお陰で学園に通えたり衣食住が出来ているのだからな。そんなライアとの、呪いとの人生にピリオドを打つ。
(もう僕の力を受け入れてはくれないのかい?)
日に日に俺の身体は少しずつであるが限界を迎えてきている。最初の付き合いの頃はそれほどの痛みは走らなかったが、今となっては痛みと共に身体の一部が腐敗している。例えば右手の掌。皮膚がボロボロで他人に見せられるような物では無くなっている。
「俺の身体が悲鳴を上げている。だから、今日限りで呪いと共に……奴を殺す!」
「来ないのなら、こちらから行くぞぉぉ!」
何をためらっていやがる!さっさと寄越せ!
(さようなら、レグナス)
一瞬だけ、真っ暗闇の中でライアらしき人物が俺の正面に現れた。その顔はどこか俺に似ている風貌で何よりも無邪気な笑顔が目に写る。
そうか、俺に宿っていたライアは……。
気づけば背中に青白い翼が両方生えている。そして肝心の両手に構えている剣は今にも折れそうなひびで保っている。恐らく何回分しか剣は持たない。だとしたら手加減は不要だ。
「失せろ!」
両翼の力で真上に飛び上がり、斜めに急降下してからユダヤを力任せに斬りつけると案の定ユダヤはじりじりと後ろへと下がっていく。
「くははっ、それだ!それでこそ、俺が気に入った男だ!」
「黙れ」
「誇るが良い。使徒である俺に攻防戦が繰り広げられる事を……ここまで俺を楽しませてくれる奴は珍しいぞ」
ぎゃあぎゃあ、うるさいんだよ!その目障りな口を閉ざしてやる!
「ソウル・ジャッジ」
両手に構えている剣に宿りし青い炎を再度上空からの飛来でユダヤの構えている大剣と激しくぶつかり合うが俺は勿論の事、ユダヤも嬉しそうな表情を浮かべ一歩も譲らない。
そう長く続けばジェネシス王国の建物全体的は余波で殆どが消滅するだろう。だとしても、今の俺には関係ない。こんな思いでも無い街に未練は無いからな。
「どうした?もっと本気で掛かってこい!」
「言われなくても……やってやる!」
そろそろ終わりにしようぜ。今まで俺を散々待たせてくれたんだ!たっぷりとお礼をしてやる。
ユダヤに挑発されてからプツリと線が切れた俺は威力を更に上乗せして本気でぶつかり合うとユダヤは苦し紛れな表情を浮かべながら大剣を正面に構えて防御の体勢を図る。
よし、今ならやれる。これまでに受けてきた呪いの痛みを思い知れ!
「そうだ、それで良い。そして……」
ライアが最後に与えた力でユダヤの存在を確実に葬ってやろうという強い意思と共に羽と剣の両方が粉々に砕け散っていく。そうか、間が悪いな。くそがっ!
「もらったぁぁ!」
俺に反撃する武器は無いと判断したユダヤは笑みを向けると俺に対して大剣を一払いで吹き飛ばしてから、殴打や血を吐くほどの強烈な蹴りをお見舞いして最後の最後には目にも止まらぬ圧倒的な速さで剣の攻撃が大雨のように降り注ぐ。
武器が無くなった俺はもはや、そこらに捨てられた都合の良い物体。完全にお先は真っ暗。
「ちっ、これで終わりか」
悪くはなかった。最後まで極限に追い詰めた所で剣と翼の両方の力を使い果たしたお陰で、後一歩……ユダヤを殺す事が出来なかったが、呪いは終わったんだ。だったら充分だ。
「私がせっかく与えた力を無駄にしたか。残念だ。もっと力を友好的に扱っていれば私と良い勝負が出来た筈なのに」
満月が大量の雲によって遮られた瞬間、さっきまで逆立っていた薄い青髪が大人しくなるとユダヤは背中に担いでいた大剣の矛先をもはや一歩も前へ動けない俺の首に掲げる。ここで一歩でも動いてしまえば、俺は人生を終える。何も楽しむ事が出来なかった哀れな生涯が。
「言い残す事は無いか?お前は結果がどうであれ俺を心の底から楽しませてくれたのだ。一つくらい遺言という物があれば伝えたまえ」
「無いさ。さっさと楽に終わらせてくれよ」
「そうか、ならば私に勝てなかった事を後悔しながら死んでゆけ」
もはや死んだも同然な状況でユダヤが振り下ろす大剣がピタリと止まる。何故動きを止めた?そんな疑問が浮かんだ直後に突然何かが凄まじい衝撃音と共に飛来すると同時に俺の身体は大きく地面を転がされる。
「ちっ、良い所で邪魔をしてくるとは」
飛来してきた煙が晴れた瞬間、俺はどこかで見覚えのある女性の背中を見た。腰まで伸ばした独特な紫色の髪に黒いドレスのような服を着こなしている。女は首を横に何回か振ると上空を見上げる。何なんだ、何をしている?
「ようやく……私の降臨。長い時を経たわ。その間は凄く凄く寂しい思いをした。だけど、今ならもっともっと愛を伝えられる!」
気でも狂ってんのか、この女は。
「貴様、よくも私の邪魔をしてくれたな。奈落の底まで後悔させてやる!この満月の力で!」
邪魔をされた事に激しく憤りを感じるユダヤは満月が空に現れた瞬間に再び髪の毛を逆立て、大剣を大きく振り回す。
対して紫色の髪をたなびかせている女は至って冷静に状況を分析していく。
「随分と物騒な武器を振り回すわね。乙女に対して無礼であると恥ずべきよ」
「黙れ、まずはお前の口を木っ端微塵に砕いてやる!覚悟しやがれ!」
「覚悟?冗談は空に向かって呟きなさい。私には会って愛を囁き、精一杯に抱き締めたいという欲望が疼いているの。どんな人でも血に染めてあげるわ!」
愛に飢えた女の顔は直接は見えない。だが恐らくは俺ですら、ぞっとする表情を浮かべているに違いない。




