(ⅩⅩⅢ)先の見えぬ関係
「あはははっ、今日の私は最高に気分が良いわ!」
女は高圧的な高笑いをユダヤに向けて、遠慮無く笑う。
するとユダヤは俺との戦闘で体力を消耗したのにも関わらず、全身フル稼働で女に容赦無く大剣を振り下ろす。
しかしながら女は背中に黒き翼を生やして自由自在に逃げ回る。振り下ろしても逃げられ更には反撃もされるという悪循環にユダヤは怒りの表情を全面に出す。
「くそがっ!」
「その程度で腹立つなんて、男としては器が小さいわね。私が永遠に愛して止まない愛しき人はこの程度では怒らない、とても優しい人よ」
ここまでこの女に気に入られるという事はよっぽどの奴だな。
「のろけ話に興味は無い!お前は俺を怒らせた!よってお前を完膚無きまでに潰して私が力を与えた男をこの手で終わらせる」
「男って、そこにくたばっている人?」
「くたばってねえよ。武器が無くなって、戦う力を無くした男だ」
気付いたら、自ら立ち上がって女に反論を述べている。しかし述べた所で肝心の女は上の空。
考えている事はいつだって愛しき人の事だった。
「凄くどうでも良いわ。私は今すぐにでもここを離れて、探しに行きたいの!あなたの下らない戯れ言に付き合っている暇は欠片も無いわ!」
毒舌をこれでもかと撒き散らす女に痺れを切らしたユダヤは無言で怪物級の圧倒的な動きで女を徹底的にぶっ潰す行動に出るも女は呆れた表情で遥か上空に逃げていく。
これでは地上戦闘が圧倒的に強いユダヤであろうが全く歯が立たない。さて、どうするつもりだ?
「おのれ、ここまで俺に怒りを与えるとは!面白いぞ!」
「何なの?あなた、随分と頭がおかしいわね。さっさと病院に行って永遠に入院してくれないかしら?」
「入院どころか彼方まで送ってやろう、俺直々にな」
ユダヤは一気に女が浮かんでいる場所まで跳躍すると、力強く大剣を振り下ろすと女は力に耐えきれず、大きな音と共に地面へ急降下していく。
しばらくして立ち上がるとユダヤは狙いを定めて次々と連続攻撃を放っていくが女はこれ以上ダメージが通らないように魔法陣を正面に張って鉄壁の防御を図りながらも、空間から黒いトゲを出現させて背後が空いているユダヤに狙いを付ける。
「ガ ラ 空 き」
「……!?」
直後にユダヤの背中に幾つかのトゲが突き刺さる。
ダメージをまともに喰らったユダヤはまだ射出してくるトゲを奇妙な形をしている大剣であしらいながら身を引いていく。
「おのれ、今日は分が悪い。この場で引かせてもらう」
「待ちやがれ!」
ここでようやく見つけたというのに、俺は……いや、駄目だ。今の状況では明らかに敗北もしくは死を味わう。
何故なら武器すら無いポンコツだから。
「武器も戦う力も無いお前に興味は無い。今度会った時は確実に終わらせてやる。それまでは精々震えながら待つと良い」
ユダヤの身体中に黒いオーラが包まれると一瞬で消え去った。残るは俺とそこで呆然としながら立ち尽くしている謎の女。
さて、どうしたものか。
「何?私の顔に何か付いているかしら」
何も付いてねえよ。強いていうならお前をどこかで見た記憶があるだけだ。もっとも言った所で意味は無いから喋らん。
「随分と沈んだ表情を表に出しているわね。よっぽど疲れていると見たわ」
この女は見た目に反して鋭い事を言いやがる。下手に冗談を言ったとしても直ぐに嘘がばれそうだな。
「力を失った。今の俺には対抗できる力を持たない」
「へぇ、それで?」
「だが同時に呪いは解かれた。俺が戦う理由は無くなった」
ちっ、どうでも良い表情をしやがって。こんな女に話すのも時間を無駄にしている。
「だって、あなたの話は卑屈にしか聞こえないもん。全く興味無いし」
髪の毛をクルクルといじくり回している女は周辺を眺める。その表情はどこかどうでも良くて何かに期待している表情を浮かべている。
「この場所がどうであれ、私はようやく目覚めた!なら、やるべき事は!」
何だ?この女、妙にテンションが。
「どこに行くつもりだ?こんな荒れた地で」
「探すのよ、早く欲望を満たさないとどうにかなっちゃいそうだし」
そうか、なら勝手にするんだな。俺はアイツと合流しておく。
「あら、力もろくに無いのにどこにさ迷うつもりかしら?」
この女、俺の神経を逆撫でするのが上手だな。
「お前には関係無い。俺は好きに行動するだけだ」
女に背を向いて歩き始めていくと勝手に正面に回り込まれる。もう良いだろうが、何故そこまで俺の邪魔をする。
「私はお前という名前じゃないわ」
だから、なんだって俺の進む方向を遮る!さっさとその場所をどけ!
「聞いてるの?」
「どうでも良い。良いからそこをどけ。俺は出来るだけお前と関わりたくない」
こんな愛に飢えている奴とは極力関わらない方が身のためだ。関わった瞬間にろくでもない事になりそうだしな……と心の中で呟いた瞬間に聞き覚えがあるどころか知っている奴の名前を口に出す。
「エイジと違って、中々に掴みづらいわね」
こいつ、今さっきエイジ・ブレインの名前を。そうか、思い出したぞ。確か目の前で俺の行く手を阻む女の名前はレーナ。
雷の使い手であるベルに対してエイジと共に大会の会場を損壊させた野郎だ。
あの時は大会を欠席して、遠目から見物していたが想像を絶する戦いを繰り広げていたな。
それからはエイジの召還獣と呼ばれしレーナが独自の行動でジェネシス王国を破壊させたと言われている。
その時は生憎ジェネシス王国を離れていたが……理由はどうであれ、凶暴な奴だという事には間違いない。
「レーナだったか。エイジを探してどうするつもりだ?」
一応聞いておいてやる。過去にジェネシス王国を滅ぼそうとした女だから、慎重に対処しておかないとな。だが、質問をする俺に対してレーナはニコニコした表情でクルクルと何回転か回ると嬉しさ満天で答える。
「愛を囁くわ。たっぷりとね」
「ちっ、至極どうでも良い。俺は先を急がせてもらう」
「待ちなさいよ、まだあなたの名前を聞いていないわ」
聞いてどうする?俺は出来る限り、関わらない方向性で行きたいが。無言を貫く俺にレーナはピタリと動かない。くそっ!
「レグナス・ハート。以前までは剣を使っていたが、先の戦いで力の無い一般人に成り果てた」
諦めて簡潔的な自己紹介を述べると、レーナは両手で黒いドレスの裾の部分を上に少しだけ上げつつ自らの名前を名乗る。
「私はレーナ。一年前にキングに不意を突かれたけど、無事に再生した召還獣よ。愛しきエイジとは違って無愛想で無表情なレグナス♪」
この女……殴りたい。
※※※※
変わり果てたジェネシス王国が目に嫌と言う程に写り込む。出来れば、これが嘘だと思いたい。
けれど、この状況は決して背けてはならない現実。
ボロボロに崩れ去っている瓦礫や辺りに痛々しく倒れている遺体を終始眺めながら僕達は黙って歩いていく。
今回この場所に訪れたのはレグナスとベルに合流する為。何故なら僕には使徒に対抗出来うる戦力を集めたいから。
だから今の悲惨な状況に嫌がってはいけない。イスカリアに歪まされた兄さんの為にも仇を取らないと!
「上には気を付けろよ。何かが飛来する可能性があるからな」
「そうだね。気を付けるよ」
ザインの言葉に耳を傾けてから僕は噴水広場らしき場所に辿り着くと、そこには疲れきっているベルが欠伸を出しながら座っている。
「おっ、その顔はエイジとクレインじゃねえか!無事に生きていたんだな!」
「まぁ、色々あったんだけど。それよりも」
僕の視線に察しがついたベルは今起きている状況の説明をこと細やかに説明していく。
「ジェネシス王国はご覧の通り、大崩壊さ。今判明している事は王様は国を無視して逃亡。クロノス本部で精神系の魔法かなんかのマインドコントロールを受けた団員は今やここを離れてあちこちの国で襲っているらしい。とはいえ、それは支部の連中が抗っているらしい。だから心配は無用だが……問題は」
世界の破壊を望む使徒イスカリアの陰謀と謎の不気味な人型があちこちに出ている事。やはり親玉であるイスカリアを叩かない限りは平和は訪れないだろう。
「ここは随分、いやかなり荒れ果ててしまったみたいだな。今は敵らしき姿が全く見当たらないが」
「……誰だこいつ?」
「ザイン・ヴァール。今は僕に協力しているけど協力する前は何でも屋を営んでいる実力者だよ」
「どうも」
ザインはベルに軽く挨拶をする。対してベルはその場で会釈してから口を開く。
「取材人間を門の外に連れ出した後に大量にうようよ出てくる奴を叩きのめしていたが……物騒な音が落ち着いた頃にはめっきりと姿を消しやがった。だからレグナスを探そうとしたのだが、何処にも居ない情況でな。今はこうしてレグナスと別れた場所で待っているのさ」
となるとレグナスはどこかに居るのか。だったら探しに行った方が良い。
「ベルはここで待機していて。僕達だけでも探すから」
「よっしゃ、手分けして探すか!」
手分けはまずいと思うから僕は密集して合同で探すやり方で提案するとザインは渋々承諾する。
ただ意見はまとまっても見当がつかなければ探すのは難しい。何かヒントがあれば良いんだけど。
「考えるのは後だ。今は探す事に全力を尽くすぞ」
「分かった。今はレグナスの捜索に専念ーー」
「その必要は無い」
言葉を遮って奥から現れたのはボロボロになってしまった白を基調としたクロノス制服を着込んでいるレグナス。やや顔が疲れきっているみたいだけど、何かあったのかな?
「レグナス!」
「お前とは一週間以上出会わなかったな。その間に知らない奴が混じっているみたいだが」
レグナスが僕の隣に立っているザインをチラリと見ると適当に会釈をすると追求する事は無くなった。これでやっと僕が取り込みたいメンバーが集った!この戦力でイスカリアを始めとした使徒に対抗する!そんな強い意気込みを持った瞬間に背後からゾクリとする悪寒が走る。何だ……この妙に恐ろしい気配は。
「ようやく会えたわね。エ イ ジ♪」
どこか、懐かしくて酷く聞き覚えのある声に振り向いた瞬間に強く抱き締められると耳たぶを舐められる。
「うひゃあ!」
「さぁ、エイジ。これからよ♪」
まずいまずい!身体を強く抱き締められていて動きたくても動けない!誰か……助け。
「そこまでです。マスター」
あわや口をつけられそうな所で止めに入ったクレインにレーナは憤りを感じながらも、残念そうな表情で仕方無く離れていくとレーナは僕に対して嬉しそうに語り始める。
「エイジ、やっと会えたわね。私はこの時を待っていたのよ!いくつもの長い長い惨めな日々を押し殺しながら、どこかで格好良くて凛々しく生きているエイジに愛を囁きながら一年。ようやくの思いで降臨したわ!やっぱり間近でエイジを見ると胸が熱くなるわ。あぁ最高よ!あぁ、早く私の物にしたいわ!」
いつにも増して取り返しのつかない事になっている。下手をしたら病院で監禁した方が良いレベルだ。
だけど今はそれ所では無い。それよりも……どうして、どうして生きているんだ?あの時、確かにキングによって殺された筈。
「その表情、最高よ。堪らないわ」
まともに相手をしていたら明後日の方向に行きそうだから、慎重に話さなければ。
「レーナ、君はキングに殺された。でも今こうして生きているのが不思議でならない。一体どうやって蘇ったの?」
僕が簡単な質問を話すと、レーナはぺらぺらと話し出す。
「愛の力で蘇ったーー」
「マスター、真実だけ話して下さい。つまらない冗談は不要です」
クレインの割り込みでふてくれされた表情を浮かべるレーナだったけど、僕の説得で何とか話の続きをしてくれた。
話によるとレーナは死んだ直前に密かに砕け散った細かなピースを見えない亜空間のような物で長い月日で集めていたという事らしい。
なんと言えば良いのか……とにかく物凄い生命力だと言わざるを得ない。また世界を混乱に招くような事態を起こさなければ良いんだけど。
「という事でこれからはエイジと一緒に末長く愛し合う予定だから、クレインはさっさと退きなさい」
「断固お断りです。マスターに言われようと私はエイジの剣なので」
「私の命令に逆らうつもりなの?」
「私はマスターであろうがエイジを譲る気はありません」
参った。これでは僕が上手い事止められそうにない。それに止めたら止めたでクレインとレーナの争いがヒートアップする恐れがあるから手が出せない。
「レーナ、エイジはお前よりもクレインを望んでいる」
一触即発の状況にレグナスは珍しく割って入って、僕の肩を持つとレーナはかなりふてくれされた表情を浮かべる……というよりはかなり不服そうだ。
「冗談よねエイジ?そんな事無いわよね?」
首を横に振って拒絶する。今のレーナは非常に鳴りを潜めているが以前は僕以外を滅ぼそうとした凶悪な子だ。
簡単には許せない。それに今の僕の剣はクレイン以外はあり得ない。
「最悪、クレインなんか作らなければ良かったわ」
「エイジ、マスターをどうしますか?このまま置いておくのは得策ではありません」
確かに置いておくのは余りにも危険だ。何をするのか分かったもんでは無いから。
でも、僕が拾ったらいつか変な方向に暴走する可能性が高い……いや、待てよ。僕がレーナを甘やかすのは大変危険だから逆にレグナスに任せれば上手くいくのでは?
「なんだその目は?」
レグナスはどうもレーナと知り合っているような関係に見えるし二人なら上手く釣り合いそう。よし!
「レグナス、これからはレーナを頼むよ」
「はぁ?ふざけるなよ!俺がこんな面倒そうな女と関わるのは御免だ!今すぐ撤回しろ!」
「私こそ御免だわ!こんな無表情かつ無愛想な人間と組めだなんて……エイジ、酷い」
あぁ、なんだか状況が大混乱している。これなら上手くやれると思ったんだけど、やはり僕に依存しているレーナに説得するのは難しいか。でも現状これが良い。レーナを置き去りにしてはたまた暴れられても困るから。
「頼むよ、レグナス。君ならきっと……」
必死な目でレグナスに説得すると、しばらくしてから心が折れたのか嫌々ながらも承諾した。
「ちっ、仕方無い。俺にも力は要るからこいつを利用させて貰う」
「もう最悪。何でもよりによってこんな奴と。せっかく長い長いーー」
「ねちねちとうざいぞ。エイジが決めた事だろうが!さっさと受け入れろ!」
「うるさい、私に注意するな!」
レグナスとレーナによる言い合いが始まる。
さすがにこればかりは止めようとしたけど、二人とも言い合いに夢中で僕の事を気にも止めない。
「大丈夫なんでしょうか?何だが先行きが不安ですが……」
「やれやれ、こんな場所で大喧嘩とは恐れ入ったぜ」
「レグナスは一回怒ると手がつけられなくなるからな。しばらくは放置しておくのが一番だ」
因みに言い争いはレグナスとレーナの喉が枯れかかる所まで長く続いた。今更ながら僕が決めた事だけどレグナスにレーナを任せても良かったのかな?今の調子だと先が不安だ。




