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第18話 汗は出たのに喘が残る。体の表に大きな熱は無い。麻黄湯の桂枝を石膏に替えた四味。湯本は『気血水薬徴』を引いて「麻黄は組む相手で働きが変わる」と読み、汗の質まで言う。

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第18話 汗が出て、喘する

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傷寒論 太陽病 第63条(一級) 麻黄杏仁甘草石膏湯


    * * *


「汗が出ているのに息がぜいぜいする」

「熱は?」

「測ったらそれほど高くない。体の表は熱くないのに胸の中が熱い感じ」

「汗をかく薬はもう飲んだんだよね」

「飲んだ。汗は出た。でも喘が残った」

「第11話で約束した条だね。私が読む」


    * * *


■第63条 汗のあと、もう桂枝湯は行わない


發汗後,不可更行桂枝湯,汗出而喘,無大熱者,可與麻黃杏仁甘草石膏湯。


 汗を発して後、更に桂枝湯を行うべからず。汗出でて喘し、大熱無き者は、麻黄杏仁甘草石膏湯を与うべし。


|要約 汗を出させたあとはもう桂枝湯を使わない。汗が出て喘し、大きな熱が無い者には、麻黄杏仁甘草石膏湯。


「第11話の葛根黄芩黄連湯は『喘して汗出づ』だった」

「今日は『汗出でて喘す』。字の順が逆なの」


 第11話で成無己は字の順を読んだ。「汗出でて喘す」は、汗がひとりでに出て喘するもので、邪の気が外で盛んなせいだ。この条の注も同じ向きで読む。


 汗を出したあとに喘するなら、本来は桂枝加厚朴杏仁湯(第5話)を作る。汗が出れば喘は治るはずだ。ところが今は汗が出て喘している。邪の気が塞がって甚だしく、桂枝湯では発散できない。だからもう桂枝湯は行わない。


 汗が出て喘し、大熱があれば、内の熱の気が甚だしい。大熱が無ければ表の邪が必ず甚だしい。そこで麻黄杏仁甘草石膏湯で邪を散らす。


「成無己は大熱が無いのを表の邪と読むんだ」

「大綱は違う言葉で立てるの」


 今の試験の大綱は、この条を「汗のあと邪熱が肺に塞がる」証として立てる。成無己の注は表の邪を言い、大綱は肺の熱を言う。


 宋本には、下したあとに同じ症が出て同じ方を与える条もある(第162条)。成無己はそこで、汗と下は違っても治し方は同じだと注する。


    * * *


■処方


麻黃四兩(去節) 杏仁五十箇(去皮尖) 甘草二兩(炙) 石膏半斤(碎、綿裹)


 麻黄四両(節を去る)、杏仁五十箇(皮と尖を去る)、甘草二両(炙る)、石膏半斤(砕き、綿に包む)。


|要約 麻黄・杏仁・甘草と半斤の石膏の四味。


上四味,以水七升,煮麻黃,減二升,去上沫;內諸藥,煮取二升,去滓,溫服一升。


 上の四味、水七升を以て、麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。


|要約 7升の水で麻黄を煮て2升減らして泡を取る。残りを入れて2升まで煮て、1升ずつ温かく飲む。


◇麻黄

 麻黄湯(第12話):3両

 麻黄杏仁甘草石膏湯:4両

◇桂枝

 麻黄湯(第12話):2両

 麻黄杏仁甘草石膏湯:—

◇甘草

 麻黄湯(第12話):1両

 麻黄杏仁甘草石膏湯:2両

◇杏仁

 麻黄湯(第12話):70箇

 麻黄杏仁甘草石膏湯:50箇

◇石膏

 麻黄湯(第12話):—

 麻黄杏仁甘草石膏湯:半斤


「麻黄湯の桂枝が石膏に入れ替わってる」


 成無己は四味の味を、麻黄は甘温、杏仁は甘温、甘草は甘平、石膏は甘寒と書く。そこへ『内経』の「肝は急を苦しむ、急ぎ甘を食らって之を緩む」を引く。風の気は肝に通じ、風の邪が外で甚だしいので、甘ばかりの剤で発する、と読む。


    * * *


■日本の漢方では


◆汗があるのに、なぜ麻黄か


 湯本求真は問いを立てる。麻黄はもともと汗の無いのを目当てにする薬なのに、汗が出て喘するのに使うのはなぜか。


 答えに『気血水薬徴』という本を引く。麻黄は杏仁と合わせれば痛みと喘を治し、桂枝と合わせれば悪寒と無汗を治し、石膏と合わせれば汗の出るのを治す。この方には麻黄・杏仁・石膏があって、桂枝が無い。


「組む相手で麻黄の働きが変わる」

「桂枝と組めば汗を出す。石膏と組めば汗を治す」


 湯本はさらに汗の質を言う。麻黄と石膏がともにある方の汗は、桂枝湯の証の自汗とはまったく違う。中に伏した熱のために搾り出される汗で、粘りが強く臭いも強い、と。


「第14話の口訣にも臭う汗が出てきたよね」

「咳して汗のある人を小青龍湯で押し通す話。あのときの汗も、必ずひどく臭うと書いてあった」


◆大熱無し、の読み


 湯本が引く説では、「大熱」の大は大表の大で、大小の大ではない。大熱無しとは体表に目立つ熱が無いことで、まったく熱が無いという意味ではない。


 湯本の引く『勿誤薬室方函口訣』も、この方を麻黄湯の裏面の薬と呼ぶ。汗が出て喘するのが目当てだ。熱が肉の裏に沈んで、上の肺のあたりにいぶされるのを、麻黄と石膏の力で解く。だからこの方と越婢湯には「大熱無し」の字が書いてある、と。


◆東洞の定義と、榕堂への辛口


 湯本の引く東洞の定義は「甘草麻黄湯の証にして、咳し、煩渇する者を治す」。東洞の『類聚方』の按語も「当に煩渇の証有るべし」と書く。


 尾台榕堂の『類聚方広義』は、喘と咳が止まず顔が腫れる者や、息が火のように逆する哮喘にこの方を当てる。南呂丸・姑洗丸などを兼ねて使うとも書く。湯本はここに辛い一言を添える。尾台氏は東洞翁の間接の門人なので、やはり峻下剤をむやみに使う癖がある。だから兼ねて使う方についての説は、すべては信じられない、と。


「榕堂の説を引いたうえで兼用だけ切るんだ」

「方は認めて、組み合わせ方に注文をつけているのね」


    * * *


■いまの製剤


「ツムラの麻杏甘石湯は?」

「医療用がある。効能は『小児ぜんそく』と『気管支ぜんそく』の二つ」


◇石膏

 宋本:半斤

 ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用):10.0g

◇麻黄

 宋本:4両

 ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用):4.0g

◇杏仁

 宋本:50箇

 ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用):4.0g

◇甘草

 宋本:2両

 ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用):2.0g

◇煮て得る量と飲む量

 宋本:水7升から2升を煮て、1回1升

 ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用):1日7.5g(乾燥エキス 1.75g)


 添付文書の作用の欄には、マウスの骨髄から育てた肥満細胞で、抗原によるヒスタミンの遊離を抑えた、という試験管の中の結果が載る。


    * * *


「喘は少し落ち着いてきた」

「汗は?」

「まだ出る。でも息は楽」

「汗が出て喘するのが目当ての薬だからね。まずは喘が引くのを見よう」


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第18話 まとめ

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■覚えておく原文


發汗後,不可更行桂枝湯,汗出而喘,無大熱者,可與麻黃杏仁甘草石膏湯。(第63条)

 汗を出させたあとは桂枝湯を使わない。汗が出て喘し、大熱が無ければ麻黄杏仁甘草石膏湯。


麻黃四兩 杏仁五十箇 甘草二兩 石膏半斤

 麻黄湯の桂枝を去って石膏を入れた四味。水7升で2升に煮て、1升ずつ飲む。


■新しく出た言葉


 汗出而喘と喘而汗出(第11話)・無大熱・邪熱壅肺(大綱)・純甘の剤(成無己)

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