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第1話 うなじがこわばって、ぞくっとする。千八百年前の本もそこから始まる。

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第1話 汗が出るか、出ないか

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傷寒論 太陽病 第1〜3条(一級)


    * * *


「風が冷たくなってきたね」

「首の後ろに来るな、こういう風は」

「うなじがこわばって、ぞくっとして」

「千八百年前の本もそこから始まってる」


    * * *


■第1条 太陽病とは


太陽之為病,脈浮,頭項強痛而惡寒。


 太陽の病たる、脈浮、頭項強痛して悪寒す。


|要約 脈が浮く・頭とうなじがこわばって痛む・寒気。この三つがそろえば太陽病。


「さっきの首の話そのままだ」

「三つだけ。短いね」

「短いから覚える」


 太陽病は、病の名前というより、病がいる場所の名前だ。外から入った邪がまだ体の表面にいる。中医学ではこれを表証と呼ぶ。始まりが急で、場所が浅く、続くのが短い。


「表面にいるうちに追い出せば、奥へは行かない」

「奥へ行くとどうなるの」

「段階が六つある。太陽の次が陽明、少陽。その先が太陰、少陰、厥陰」

「日本の漢方でも六つで見るよ。『六病位』って言う」

「呼び方は違うけど、入口に太陽を置くのは同じだ」


 六つの段階で病の進み方を追う見方を、中医学では六経弁証と言う。傷寒論の骨組みはこれでできている。


    * * *


■第2条 汗が出るなら「中風」


太陽病,發熱,汗出,惡風,脈緩者,名為中風。


 太陽病、発熱し、汗出で、悪風し、脈緩なる者は、名づけて中風と為す。


|要約 汗が出る太陽病を「中風」と呼ぶ。


「汗が出るんだ」

「出る。次の条は出ない」

「中風って、日本だと脳卒中のあとの半身不随のことでしょ」

「ここでは『風に当たった』くらいの意味」


悪風は、風に当たると寒く、風を避ければ治まる寒気。


「脈の『緩』はゆっくりってこと?」

「速さより張りの話として読まれてきた」


 成無己は、傷寒論に初めて注を付けた人とされる。その注に、寒の性質は張りつめて急、風の性質はほどけて緩い、とある。だから風に当たった中風の脈は緩い。張っていない脈と読める。


「速さじゃなくて張りなんだ」

「次の条の『緊』と並べるとよく分かる」


    * * *


■第3条 汗が出ないなら「傷寒」


太陽病,或已發熱,或未發熱,必惡寒,體痛,嘔逆,脈陰陽俱緊者,名為傷寒。


 太陽病、或いは已に発熱し、或いは未だ発熱せず、必ず悪寒し、体痛み、嘔逆し、脈陰陽倶に緊なる者は、名づけて傷寒と為す。


|要約 必ず悪寒があり、脈が張りつめている太陽病を「傷寒」と呼ぶ。


「熱は出ていても出ていなくてもいいんだ」

「でも寒気は『必ず』」

「体も痛い。吐き気もある」

「中風より重いね」


悪寒は、着こんでも火に寄っても治まらない寒気。風を避けても着こんでも治まらない。


 脈の緊は、よった縄を引っぱったときのような脈。寒の性質の、張りつめて急な形がそのまま脈に出ている。


    * * *


■並べてみる


◇汗

 中風(第2条):出る

 傷寒(第3条):出ない(第3条には書いていない。後の条で出てくる)

◇寒気

 中風(第2条):悪風(風に当たると寒い)

 傷寒(第3条):悪寒(必ず。着こんでも寒い)

◇脈

 中風(第2条):緩

 傷寒(第3条):緊

◇ほか

 中風(第2条):—

 傷寒(第3条):体が痛む・吐き気


「同じ風邪のひきはじめでも、汗が出るかどうかで、道が分かれる」

「出る人と出ない人で薬が変わる」

「出る人の薬が次の話」


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第1話 まとめ

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■覚えておく原文


太陽之為病,脈浮,頭項強痛而惡寒。(第1条)

 太陽病の三つ。脈浮・頭項強痛・悪寒。


太陽病,發熱,汗出,惡風,脈緩者,名為中風。(第2条)

 汗が出る太陽病は中風。


太陽病,或已發熱,或未發熱,必惡寒,體痛,嘔逆,脈陰陽俱緊者,名為傷寒。(第3条)

 必ず悪寒、脈が緊の太陽病は傷寒。


■新しく出た言葉


 表証・六経弁証(日本では六病位)・悪風・悪寒・緩・緊・中風・傷寒


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