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第二話「異物」

ちなみに毎日投稿です。

プロットが固まっているって言うのは素晴らしいですね。

信じられないほど書きやすい……。

 彼女が居るのは、

 集落の外れも外れ、上が下かで言えば上。

 人々が言うには下(・)のところにある檻である。


 檻と言っても、鉄格子をきっちりと嵌め込んだ、鉄筋コンクリート造の無機質な牢ではない。

 集落の中腹に位置し、その岩肌を丁寧に削り取り、岩製の棒を等間隔に配置して、檻としたものである。


 今、地面に落ちている石が、ちょうど二つほど入る。

 そんな間隔で。


 集落の中腹と言っても、集落が位置する山は急斜面である。

 昔はどうだったか知らないが、下にある跡(・)を見れば、急斜面ではなかった事が明白だろう。

 ともかく、現在の住居は山に張り付くように存在している。

 そんな中、コウモリ亜人はその自慢の羽を用いて、そこらを移動し、生活している……と言うわけだ。


 自由に飛ぶことができない。

 それはコウモリ亜人にとっての屈辱であった。

 羽があるのなら尚更である。


 その屈辱を、吸血コウモリに与えるのは至って自然だった。


 自由に飛ばさせない。

 そんな狭い、狭い空間があるのが、集落のちょうど真(・)ん(・)中(・)である。


 真ん中というのは、地獄のようであった。

 上からも下からも石を投げられるからだ。


 力の付いてない子供や老人。

 苛つきを持て余した若者。

 皆んな、拾って石を投げる。


 誰にとっても投げやすい、そして当てやすい位置に檻は──籠はあった。



 集落にて、投石の格好の的は全てで三つ。


 一つは、男女の吸血コウモリが。

 二つは、少年の吸血コウモリが。

 三つ目には、彼女が……。


 それぞれ捕らえられている。

 そうして、石を投げられている。


 当たり前のように。



 ◇ ◇ ◇



 あぁ、今日も笑い声が聞こえる。


「せーー……っの!!」


 少しばかりの静寂。

 その間、息を歯の間から吸ったときのような音がわずかに聞こえた。

 それが大きくなるとともに、私は檻の端っこで身を丸めた。



 ドゴッ… ドカ…ッ! 

 カッ…!! カラカラ…………


 投げられた石は、乾いた音を立てていくつか落ちていった。

 その中の一つは、檻の合間に何度かぶつかり、地面の硬い石を擦り、音を鳴らし続けた。

 その音が収まる頃、石は、彼女の足元にちょうどピタリと止まっていた。


 暫しの衝撃と、止まった石を確かめると、

 何て無機質な音なんだろう、と彼女はそう思った。


「やった!」



 子供たちにとって、それは遊びだった。

 大人たちが、悪い悪いと言うワ(・)ル(・)モ(・)ノ(・)をやっつける。

 大人たちがやっている投石を、自分たちもやってみる。

 ただのよくある遊びだった。


 

 それを、身動きせずに耐え続ける。

 血肉が来るまで、待ち続ける。

 これが彼女の日常。そのほんの一部である。



「ち、またお前かよ……」


「じゃあ、次の石!」


「はぁ……めんどくせぇなぁ……」


「早く! 早く取ってきて!」


「分かったよ…… 行こうぜ」



 いくつかの足音と羽を下ろす音を聞いて、

 彼女は、彼らが去っていくことを感じた。



 ◇ ◇ ◇



 彼女がその物音を聞き届けると、

 今まで支えていた力が突如消え失せたかのように、顔を伏せ、がっくりと項垂れた。


 

 やっと静かになった。

 やっと落ち着ける。


 こんなに静かになる瞬間なんて、

 血肉をもらったあたりの時間と、この石を拾ってくる時間しかない。

 今のうちに、気を抜いておかな


 ドゴッ… ドカ…ッ! 


 再度鳴り始めた大きな音に、

 彼女は思わず身を跳ね、目を丸くして辺りを見渡した。


 周りを見渡しても、石など転がってきていない。

 先程入ってきた石が一つだけ。

 数は変わっていない。


 頭を持ち上げて、上方の木橋を見た。

 そこには、さっき石を投げきったであろう子供と見張りの大人が、一人ずついる。


(……なんだったんだ……?)


 よく聞いてみると、石の音は少し遠いところから鳴っている。


(あぁ、なんだ…… 隣の牢か……)


 彼女はそう知ると、さっさと一息ついて、

 丸めた身の中に頭を落とした。



 ◇ ◇ ◇



 ──お──……い──

 ──……おい──


「おい!」



 幾度となく繰り返されたであろう、若干の怒りを含んでいる呼びかけ。

 それに突如叩きつけられたかのように、彼女は飛び起きた。


 日が暮れきったこと。

 石が見覚えよりもいくつか増えていること。

 投入口から覗き見える顔と、今日の配給。


 それを手掛かりに、彼女は直前まで寝ていたことを自覚した。


「早くしろ。お前が飯を──血を吸わないと、怒られるのは俺なんだぞ!」


 彼女は、投入口から見える人影の全体像をジッと見つめた。

 羽をばたつかせ、宙に浮いて食料を持っているのはいつもと同じだが、

 もう片方で何かを持っている、というか掴んでいるような……


「返事は?」


「……はい。」


 小さな、もはや反射とも言えるような返事。

 彼女はそれを返すと、投入口に駆け寄って、血肉に手を伸ばした。


「えっと…… あの、そ(・)れ(・)ってなんですか?」


 夜は暗いが、彼女はコウモリ亜人である。

 男の手元を近くで見れば、夜行性の瞳にはコウモリ亜人──歴とした人が写りこんだ。

 まぁ、実際に全体は見えていなかったが、

 男が掴んでいるところが自分にも生えているような羽(・)であったことから、彼女はそのように理解した。


「──あぁ、これか? お前と同じだよ」


「今日、下で捕まった悪魔。

明日にはどの牢屋に入るか決ま──じゃなくて、

今度から配給の時間までには起きとけ。」


「え…… いや……」


「分かったな?」


「……はい」



 その返事を聞くや否や、

 投入口はあっという間に閉まり、牢には彼女と血肉といくつかの石ころだけが残された。


 羽のばたつく音が遠のく中、

 彼女は今日も、歯を突き立てた。


 その動作には、いつもと同じでなんの滞りも無い。

 そこから、”いつもと違うこと”を強いて挙げるとするならば、

 少しの疑問と、その後味が残ったことだろう。


 それでも、彼女は今日も血を吸う。

 血を吸いしきり、口を拭う。


 そこにあるはずの一切の疑問は、

 とうに消え失せていた。

※タイトル変えました。

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