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地獄の底まで私たちの

〜遡ること数十分前〜


 夜宵は自室でベッドに寝転がり今日のことを思い出しため息をついた。


 最近どうにも調子が悪い。

 体が重ぇし、何よりこれだ。

 机の上には黒い正四面体......触ってみるがひんやりとした感触がして普通気持ちいいと思うものなのだろうが、言葉に言い表せられない不快感がする。


 これはいつの間にか部屋に置いてあったものだが、どういう訳か何処にどんな風に捨ててもいつの間にか手元に戻ってきやがる。


「......ん? 」


 勉強机の上にある金属製の板材が細かく震えていた。

 確かお袋と親父に買ってもらったすまーとふぉん...? だ。

 正直俺にとっては得体の知れないもの過ぎてあまり触ることはないものだったが眠い体にむち打ち机まで向かってすまーとふぉんを手に取る。

 画面にはさっき家を出ていったあの娘の名前があり、試し電話を取ってみるが無言電話であった。


「これは......何か匂うな。行ってみるか」


 〜〜〜


「それがこんな愉快なことになってるとはなぁ......」


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛痛いねぇ、痛イ痛イネェ......」


 虫男は痛々しい悲鳴を上げ地面に崩れ落ち、転げ回っていた。

 辺りに蛾やダンゴムシなどが飛び散る......が瞬く間に木刀により叩き潰される。


「ッチ......なんで分かるのかな君は僕のことを知らないはずかな? 魔力も感じられないカスの分際で僕の余興を......宴を邪魔することは許されないことかなッ! ......ッ!? 」


 さっきまでヘラヘラとしたら態度で一貫していた虫男であったがその声色には微かに憤怒の色が混じっていた。

 それに対し乱入者である少女はニヤつき木刀を虫男の喉元に突きつけ耳元で囁いた。


「それはァ残念だったなぁ。生憎のところお前みたいな頭の腐った屑ってのは散々相手にしてきたからよぉ......気配でわかるんだよ、腐った悪意の気配でなッ! 」


 鋭い一閃は虫男を見事に袈裟斬りにし飛び散り逃げようとする虫たちや逆に噛み付いて来ようとする虫たちも逃がしもせず、身体に触れさせもせず全て叩き潰した。


「よしっ、これが最後の1匹と......「おい、やめッ」ふぅ〜......偉く拍子抜けな奴だったな。これなら前回の犬っころの方が数倍マシだぞ? 偉そうな態度だったから強者かと思ってみれば飛んだハズレくじ掴まされた気分だ。あ、そうだ......おい、立てるか? 」


 向かい合った座り込んでいる少女気まずそうな顔で横に首を振った。


 〜〜〜


 自身の体重の1.5倍程の体重はあるであろう少女を軽々と背負いゆっくりとした歩調で街灯の細々とした明かりを頼りに歩みを進める。


「あのさ......私なにかになれたのかな......?まぁ魔物は今のところ一体も倒せてないどころか年下に助けられてるわけだけど」


「どうしたぁ? 藪から棒に......?」


 少し沈んだ雰囲気を含んだ問いに対して少し違和感を感じたが俺は特に気にも留めず......まぁ面倒くさそうだし少しぐらい励ましてやってもいいか。さっきあんな事があった訳だしな......


「まぁ俺は今のところお前と三回ぐらいしか会ってない訳だが......まぁ、そのなんだ......最初は頭のおかしいクソガキだと思ってたが今は......多少は面白ぇ奴だとは思うよ」


「ちょっとそれ酷くない? ......でもそれなら、良かったのかな......? 私の生きた意味ってあったのかな? とりあえずありがとう......そして、さようなら」


 背負った少女の声は少しずつ苦しげになっていき俺の背中を突き飛ばし地面へと重力の赴くまま激突した。


「ちょっお前何をッ......!?」


「ごめんね......ちょっと助けられるのが遅かったみたい」


 短い嗚咽と肉を引き裂く音が聞こえたかと思うと先程まで横たわっていた少女の腹には赤く残酷なまでに美しい花が咲き、その中心にはそれに群がる虫のように先程見た見覚えしかない腕が生えていた。

 そのまま腕はもう一本突き出されるとメリメリと気味の悪い音を響かせながら引き裂き、まるで蛹から羽化する蝶のようにのっそりと立ち上がった。


「あっははははは! 驚いたねぇ? 悲しいねぇ? 悔しいねぇ? 腹立たしいねぇ? 今日は特別講演ッ! 第二幕ッ! いざ宴の始まり始まり〜! あははははははははッ!」


 暗い夜道の中立ち尽くす小さい少女を嘲笑うようにどす黒くおぞましい感情が静かにそしてねっとりと......だが確かに渦巻いていた。

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