緑風の魔法少女の記録①
「ん......合戸さん? え〜っと待って......今思い出すから。あ、確かあの席の子だね。あんまり特徴のない子だからすっかり忘れてたよ......」
教室の扉の前で一軍女子と見覚えのある部活の先輩が話しているのが聞こえる。
そう、私は合戸紗良......ごくごく普通のそこらに溢れた女子中学生Aだ。
成績は平均......というかちょい下、運動もできないわけではないがあまり好きじゃない。得意なことも特になければ家に帰ってゲームに時間を溶かす毎日......
「私ってなんで生きてるんだろ......? 」
そう、ふとした疑問がホームルーム前の脳内に駆け巡った。
いてもいなくても変わらない存在......友達?
少し話す程度の人ならいるがあれらを友達と呼ぶには些かその人達に失礼というものだろう。
というか、友達っていうのもあくまで気が合うだけの赤の他人であり、そんな人がもし死んだとして心の底から悲しめるなんてのはアニメやドラマの見すぎだ。
つまり私は存在していて存在しない社会という名の環境に生かされただけの肉でできた動く人形と言い換えても差し支えない。
私の代わりなんていくらでもいるし、私を真の意味で見てくれる人なんて存在しない。
学校の先生だろうと数年間の付き合いの幼馴染だろうとも、なんなら両親ですら私を見たつもりでいる。
そう『つもり』だ。あくまで『つもり』......どこまで行ってもそれは血の繋がったまたは唯の赤の他人であり、その人のことを心から見る、意識を向けるなんてことはそこに相手への興味がないと有り得ない。
......が、私のクラスメイトも近所の人も家族も優しくはあるがそれは自己満足の具象化であり、または自身が困るから仕方なくだったりする。
何もない......そんな私に興味を持つなんて人は存在しない。
もし仮に存在するとしたらそいつはただの物好きかそれとも自身に酔うナルシスト野郎だけだろう。
もしも仮にだ神という存在がいるとするのならばそれはとんだ欠陥運営だろうな。NPCぐらいもう少し作りこんだらどうなのだと一言文句を言ってやりたい。
「──紗良! お〜い聞いているのか? おい! 」
「......ありゃ? 部長なんでここに? 」
頭をペチンッと軽く叩かれ没入していた思考を、スリープさせるとドア前で先程まで話していた部活の先輩兼部長が目の前に仁王立ちしていた。
「なんでも、なにもないッ! 前々から部活の将来の希望アンケートを提出しろとあれほど......」
「綾部部長! 機材トラブルが起きました! 早く来てください! 」
長ったらしい説教が始まりそうなとき颯爽と扉の前に現れたのは違うクラスで同じ部活の確か......山田だったかな......?
まぁ、そいつが大慌てで部長を呼んでくれたおかげで部長は「放課後取りに来るからな!」と言い残し急ぎ足で二年の教室を後にした。
......にしても将来ね。
別に考えがない訳じゃないのだがどれもどうもしっくりこない。というか私自身があまり将来に関して重要視していない。
結局は進学して働いて、仕事、ゲームの今と全くもって変わらない生活になることが目に見えているから。
机の中からお世辞にも綺麗ではない字で名前だけが書かれた白紙の紙を取りだし私をしばらく頭を抱えた。
〜〜〜
「今日は帰ったら流石に勉強しないとな......テストが目の前だし......私のお先は真っ暗だけど」
自然と乾いた笑いが零れ、帰路に着く足取りも重くなる......ん?
道の端に何かが落ちているのが見えたため興味本位で小走りで何かを確認しに行く。
「これは......クマ? ......いやウサギかも? 」
落ちていたのはドぎつい蛍光色がかった緑色の動物? のぬいぐるみであった。
なんの動物かは正直絶妙に分かりそうで分からない。
......こういうのってもやもやしない?
......しないかぁ......私は少なくともするね。
にしても随分と薄汚れているなこのぬいぐるみ。持って帰って洗ってから交番に届けるかぁ......
〜〜〜
「そういやぬいぐるみってどう洗えば良いんだっけ......? 」
家に帰り風呂場まで来たのはいいものをぬいぐるみの洗い方なんてさっぱりなのである。
というかこのご時世、逆にぬいぐるみを買うなんて子供の方が少ないのではなかろうか?
まぁ個人の主観のためなんとも言えないのだけど......
一人考え......というか適当なことを思い浮かべながら風呂桶に水を溜めそこにぬいぐるみを沈めながらたわしでゴシゴシしていた。
「ぉぼぶぼばぼ......」
!?......今なんか声みたいなのが聞こえた気がする。
いや気のせいだな! うん、そうだ! 間違いない!
「ぼべびばぼあばばば......」
......あのですね、今両親とも出払ってて家に私しか居ないハズなんですよね。
恐る恐る声のした方向に目を向ける。それは私の手元、よく見るとぬいぐるみの口当たりからボコボコと気泡が漏れている。
「ひゃあッ! 」
「おい、助けてくれたのは感謝するが流石に殺そうとするのはやり過ぎだ! 」
......柄にもなく可愛い声が出てしまった。
......というかぬいぐるみが立ってる?動いて喋ってる?────
「おい、なんか喋ったらどうだ?......ちょい待て! 落ち着け! その上に掲げてる風呂桶を下ろせ! おい、ちょっ待て、分かった! 俺が悪かったから! おい、やめ......」
カコーン
ホラー耐性のない私は気が動転し人形の話など耳に入らずそのまま持っていた風呂桶を振り下ろした。




