じゃれあい
目の前の魔物相手に私は悲鳴をあげることと嘆きを叫ぶことしかできなかった。
特別な力が貰えたから舞い上がっていたのだろうか?それとも特別な境遇になったからはしゃいでいたのだろうか?
まぁ恐らくどちらもだろう......私は何かになりたかった、そこら辺の通行人Aのまま終わりたくはなかった。
そんな私に特別という言葉は蜜のように甘く私に絡みつき現実を交えて考えることを頑なに許容しなかった。
そこからはテレビで見るような詐欺に引っかかった自分を見ることになったわけである。
正直言うと8対2で私が悪い、契約を持ちかけるときマスコットはしっかり命の危険があると説明してくれた......でも私はその話に耳を傾けずにただ軽く流しただけだった。
思いもしなかった......目の前に迫る死がここまで恐ろしく、受け止めようのないものでそして体まで鷲掴まれた感情に同期して固まってしまうなんて......
多分これは罰なんだろう。自身に見合った人生を無理矢理変えようとして他の道に走ろうとした私への神様的な何かからの罰なのだ...
ゆっくりと躙り寄ってくる魔物は顔のパーツが乱雑に置かれているから表情こそ詳しく読み取れないものの目の位置についた二つの口はその端をギィィとしなる弓のように吊り上げた。
途端に身体に氷を詰め込まれたかのような悪寒が駆け巡る......濃密に迫る死の宣告。
私は叫び、泣きじゃくり傍から見ればとても見せられないような顔になっていたと思う。
でも気にする必要なんて何処にもない...だってここは誰にも見えることはないし誰も助けになんて来れないのだから......
「お〜い、嬢ちゃん大丈夫かい? 」
「え?」
すぐ近くから間の抜けたようなしかしとても可愛らしい声が聞こえた。
その声の主を確認すると私より二つ、三つ下っぽい女の子が少し大きな木の枝を片手で引きずりながらのんびりとした歩調で歩いてきていた。
「なんで魔蝕結界の中に普通の女の子が......じゃなくてそこの人今すぐ逃げて! 」
私だって自分が死ぬから他人も道連れにしようとするようなクズじゃない、一般人、ましてや私より小さな女の子だなんて以ての外だ。
しかし私が咄嗟に叫んだのが良くなかった。
私に躙り寄ってきていた魔物は女の子の存在を認識すると目の位置の口をさらに歪ませて標的を女の子に移し、とてつもないスピードで向かって行った......
「【風の唄】っ! 私が引き付けている間に今すぐ逃げて! 」
もう残っていないだろうと思っていたが死力を尽くして魔力をどうにか絞り出し小さな魔法を発動させた。
一陣の風は魔物の身体を僅かに揺らすと遊びを邪魔されて腹が立ったのか口の目を先程とは逆方向に曲げ、魔物はこちらにダッシュしてきた。
最後に人を守れたのなら、その他大勢じゃなくなったのなら私はこれで良かったのかもしれない。
魔物の大きな鉤爪が私の眼前に迫ってくるのを確認し私は目を閉じた。
「嬢ちゃん心配してくれるのは悪くないんだがじゃれあいに水を差すのはあまり褒められたことじゃねぇな? 」
いつの間にか女の子は私の目の前に立っており持っていた木の枝で魔物の腕を逸らしていた。
〜〜〜
せっかく助けようと思ったのによ、あっちから魔物を引き寄せにいくたぁこの時代の奴にしてはなかなか気骨のある奴だな。
ん〜気に入った!
サッサっとこの犬っころでも退治して世間話でもしてみてぇものだ。
こういう心に漢を宿した奴の話は中々どうして面白いからな!
そうだな家にでもあげてちょこれいとでも摘んで話を聞くってのも悪くないな...しかし爺さんの家で抹茶啜りながらこの状況の理由を聞くのも捨てがたい......
「ヴヴヴァウ!ヴェウ!」
「ったくうるせぇ犬っころだな〜」
鳴き声自体は犬のものだが声質は人に酷似してて絶妙に気持ちが悪い。
しっかしこりゃあどうしたものか.....
さっきからこいつの脇腹、足、腹、どこを攻撃しても効いてる気がしない。この犬っころどんな体してやがんだ?
これじゃ埒が明かねぇなぁ.....こいつの攻撃は俺が全部流すし俺の攻撃はこいつに効きやしねぇ──ん?こいつ今目を狙った時だけあからさまに動いたな......
「よっと! やっぱりなぁお前目が弱いんだろ? じゃあお前がぶっ倒れるまで目ぶっ叩かせてもらうぜ──えぇ......? 」
俺に自分の弱点がバレたことを悟ったのか犬は空間にヒビを入れて大急ぎでそこに飛び込み消えてしまった。
ったく興ざめな犬だ。遊びの途中で背を向けて逃げ出すなんてありえねぇ。
不機嫌気味に後ろを振り向き娘っ子を見ると凄く気まずそうに引きつった笑みを浮かべた...




