一幕の休息
目が覚めると真っ白な、ここ数週間は見慣れた天井だった。
結果的に紗良は生きていた......なんてご都合展開は存在せず、あのクソ虫野郎にボコられた怪我と無理やり身体を動かした反動で全治一ヶ月の重体となったが医者が言うには俺の回復力がおかしいだけで普通なら全治五ヶ月はかかると驚いていた。
正直な話、紗良の死は悲しくはあったがそこまで俺に影響を与えることはなかった。
まぁそりゃそうだ、前世で散々仲間に裏切られたり大切な人や友を何回も殺されてる俺からすりゃあこんなことは日常茶飯事であったわけで......そもそも俺の考えとしては死んだ奴の分まで生きるとかいう死んだ奴らの意見度外視のかなり自分勝手な考えだからな......と、まぁ御託はこれぐらいにしておこう。
「とりあえず今はこれだな......」
俺は自身の影から黒い粘着質のある物体を引っ張り出し手に乗っけてこねたり広げたりしてみる。
そう、この【業】......思えば前世のときから背負っているという自覚はあった。
人を殺していく度にのしかかるどんよりとした重い重圧そのもの。
人殺しをしまくったクズを殺すとその重さは一般の奴を殺すより重くなりそいつの分の【業】を背負ったんだなと思う毎日であった。さっきから触っているが触った端から声が聞こえ体力が少しずつ奪われていくのを感じる。
いけねぇ少し頭痛がしてきた......
意識が途切れる前にパッと影の中に【業】を押し戻した。
「──使えて十分ってところか......前世なら多分一時間はいけたな」
俺もなんだか呪い紛いな力を手にしたな......と感慨深気に黄昏れる。
本当ならごろごろ過ごしてダラダラしていたいのだが、あんな紗良みたいな奴がいるかもしれねぇのに知らんふりするってのは性にあわねぇ......ってのは建前か......俺は今とても興奮している。
俺の本能が俺の奥底に眠る意思がさらに俺の背負う【業】が戦いを求めている。
あ、だがゆっくり過ごしたいってのも事実だ。だからそうだなぁ......
夜宵が自身の中で葛藤していると病室のドアが勢いよく開け放たれた。
「お〜い!夜宵〜!見舞いに来てやったぞ〜!」
「夜宵っち〜お見舞い来たよ〜!」
入口から入ってきたのは学校の中でも特に自分に話しかけてくれる二人だった。
「おい、お前らなんでここに?」
「病院の前でうろうろしていたので私が連れてきたんですよやーさん」
夜宵の疑問に被せるように二人の後ろから出てきたのは見慣れた老人であった。
二人は互いに「助かったぜ夜宵の爺ちゃん!」、「本当に助かったよ。ありがと☆夜宵っちのおじいちゃん」と返した。
「なんだ、爺さんか......昨日も来てただろう? 今日もわざわざ病院で将棋打ちに来たのか? 」
「すいませんね。でも一日中暇な老いぼれものでね。あとは、昨日もこの子たちが病院前をうろうろしていたからですかね。最初は他の人のお見舞いに来た方たちだと思っていたのですが家に帰ってよくよく考えてみたらやーさんのお友達だって思い出したもので......今日来るか分かりませんでしたが案の定ここに来ていたので案内したんですよ」
「──お前ら、もしかして毎日来てたのか? 」
「そんなわけねぇじゃん! ほら、見舞い品やったからもう帰る! 」
「待ってよ、飛御っち〜! あ......」
いつも話しかけてくる女はクソガキを追いかけようとしたがふと足を止めこちらに向かって来て耳打ちした、
「飛御っちね毎日帰りに病院の前に寄ってたんだよ。 まぁ私も一緒に来てたんだけど......でもね、飛御っち夜宵っちが来なくなってから少し元気なかったんだよね。だからさ早く治してすぐ来てね。私も待ってるから! 」
そう言い残すとやかましい女は走って病院を去って行き、それを老人は暖かい目で見守っていた。
「あれま、もう行ってしまいましたね。それにしても青春ですね。おや、泣いているのですか? いや、そんなに不機嫌そうな顔しないでくださいよ......それじゃあ始めましょうかね。」
穏やかな顔で微笑んでいた老人だったが目の前の孫がどことなく不機嫌そうに見えたのでそれ以上は胸の内に留め将棋の準備を始めた。
〜とある高校〜
高校の朝のホームルームには似つかわしくないムードが教室全体を包んでいた。
教卓の前に立つ先生は覚悟を決めるように一回目を閉じると口を開いた。
「皆さん残念ですが合戸紗良さんが亡くなりました......あっ、八浜くん!」
一人の男子生徒が勢いよく立ち上がり呼び止めたが教室を飛び出して行った。
早く追いかけないと......
だが窓側の席にいる生徒にそれは静止された。
「先生、生徒を心配して寄り添うのはとても大事な事だと思います。それについては俺もみんなも先生のいい所で信頼もしています。ですがときにはあえて関わらないことがそいつのためになることもあるんです。合戸はあいつにとって......いや八浜にとって大切な唯一の幼馴染だったんです。今はそっとしてあげませんか」
先生は少しの間考え込んでいたが教卓の前に戻るとみんなへと声をかけた。
「みなさん、私はみなさんに寄り添いたいとは思いますがみなさんのことをまだ表面上しか知ることができていません。なので八浜くんのことはみなさんがどうにか支えてあげてください。できるだけ私も手伝えるよう努力します。......ですがもう授業の時間なので始めましょうか」
そうして1時限目のチャイムが鳴った。
〜校舎裏〜
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!
あいつが、紗良が死んだなんて......一昨日だって元気に登校してきてたじゃないか!
思えば最近様子がおかしかった。
いつも一緒に帰ってたのに最近はすぐに一人で帰ったり、おすすめのホラーゲームや心霊スポットを聞いてきたりした。......あの大のビビりのあいつがだ。
その少し前はなんか身体中擦り傷だらけだったし......あいつは転んだけだって言ってたけどなにかがおかしい。
「真相を知りたいかい? 」
美しく、それでいて貫禄に満ちた声が聞こえた。
声の主に目を向けるとそこには黒い猫のぬいぐるみがこちらを見透かすような目で見つめてきていた......
ここから第2部です( *´꒳`* )




