醜い人の業続いてる
「どうした?どうした?本当に泣いちゃったのかな?まだまだ宴は始まったばかりかな?あはははは!」
虫男は相も変わらず踊りながら虫を撒き散らしている。街灯が照らす夜道もどこか提灯を灯した祭りの道を思わせるようにも思える。
しかし夜宵はもう死にかけの魔法少女を見つめたまま動かない。
「......あぁそうだよな。生きたかったよな......そりゃあ俺だって前世で相当生き汚かったんだ。お前は立派な人間だよ......会った回数こそ少ねぇが......お前は大事な『戦友』だ。だから安心して眠ってくれ」
しゃがんで紗良の瞼をゆっくりと閉ざしてやり、俺は虫野郎に木刀の切っ先を向けた。
「よし、待たせて悪かったな。クソ虫野郎! 存分に殺り合おうじゃねぇか! 」
「やるの? やるのかい? あははは! 魔力も持ちえない雑魚の分際で宴の管理者である私と? あまり笑わせるなよ......おっと......」
とてもその年とは思えない速さの突きが虫男を貫こうとしたがいとも容易く腕に防がれてしまった。
「先程は油断していたため食らってあげたけどねぇ? 本来私たち魔物は魔力を纏うことができるんだねぇ? だから私たちを殺すとかぬかしている養殖場共は一応私に傷をつけることができるし、なんならちゃんとすれば殺すことも不可能じゃないねぇ? でも魔力さえ持ちえない君は私に傷一つ負わせることはできないねぇ? 」
「チッ......」
虫男のしなる腕に腹を撃ち抜かれ後ろに大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたがどうにか受け身をとりダメージを抑えた。......が、
「カハッ......」
「ありゃりゃ......これは肋の数本折れてるねぇ? やっぱり人は脆弱だねぇ。これじゃあやっぱり魔法少女じゃないと養殖場にはできないねぇ」
「───嘘だな......? 」
「......? 何がかな? 」
突如言われた言葉に虫男は首を傾げ、夜宵はゆっくりと木刀を杖代わりにして立ち上がる。
「油断したから食らった? いや違うな......お前わざと食らったろ? こちとら何回も死合ってきてんだ。そんぐれぇは分かるぜ」
「ありゃバレちゃったかな? あれは2人組の魔法少女のときによくやることでねぇ。最初は私を倒したってほっと安堵するんだよねぇ? でもその前にねぇ私が片方に卵を産み付けておくから相方が突然爆発したり、腹突き破られたり、わざとすぐには出てこないで動いてやって殺させるよう仕向けることもしたねぇ。あれは本当に傑作だったよ、「早く!私を殺して!」ってねぇ? そして、絶望しきったもう片方を巣に持ち帰ってから犯すと......いやぁ......ずっとごめんなさい、ごめんなさいって実に滑稽! 愉快! 悲劇であり喜劇! あはは! ......でも今回は魔法少女の方を殺しちゃったからねぇ。確かに愉快ではあったんだけど逆の方が面白かったかな? ......これは反省反省かな? ......あれぇ? 恐怖で震え上がっちゃったかな? 」
夜宵は俯いて刀を握りしめていた。剣呑な雰囲気が辺りを包む。
「───俺はよぉ......どんなクズにでも一回目は殺さねぇようにしてんだ。何故かって? どんなクズにも九割は理由、原因、環境と何らかの原因があるからだ。だから逃がしてやってやり直させる機会を与えるわけだが......ごく稀に......本当にごく稀にお前みてぇな真性のクズとでも言おうか? まぁ救いようのねぇ奴らが一定数出てくる訳だ」
「......? 君何を言って──コヒュッ─」
その時虫男が感じたのは重い、ひたすらに重い濃厚な死の気配。
まるで蛇に睨まれた蛙のような指で摘まれた蟻のような、圧倒的な差......
ありえない、この小さな魔力すら使えない雑魚は私に傷一つつけることすらできないはずだ。
魔力を纏った相手には他の魔力でその魔力破壊して傷つけなければならない......あの雑魚にはその魔力すらない。私を殺すどころか有効な攻撃を入れることすら不可能! よって心配する必要など、どこにもない!
「......そんな救えねぇ奴らはどうしたらいいと思う? それはな......徹底的に心をへし折るんだよ。強さに自信のあるやつならボコボコに打ち負かしゃあいい、盗みに自信があるなら指を1本1本切り落とす、強姦が趣味の外道ならそいつのブツをぶった斬ってやりゃあいい......じゃあ問題だ、お前は何をしたら折れる?一匹一匹潰しゃあいいのか? それともさっきから言ってる巣とやらをぶち壊しゃあいいのか? それともシンプルにぶっ殺せばいいのか? 答えてくれよ?じゃねぇとお前を殺せねぇ......」
「何を言い出すかと思えば理解できないかな? 君は私に傷一つつけることすら不可能かな? そんな君が私を殺す? ......滑稽を通り越して不愉快───は?」
一陣の風が風が吹き抜けたかと思うと少女は先程とは反対方向に立っており、ベチャッと虫男の腕が切り落とされた。
見えなかった......いや、そんなことはどうでもいい。
私の腕が切られている? どういうことだ? 最初に食らってやったのとは訳が違う。正真正銘魔力を纏った肉体を切り裂いた?
嘘だ、嘘だ、ありえない、ありえない、ありえない! しかも何故だ? 修復ができない! 何もかもがおかしい! あの雑魚がなにかしたのか......?───え......?
それは黒だった、ただひたすらに黒く果ての見えない黒......先程まで普通だった木刀は黒く染まり、その黒は少女の影から伸びているようだった。
「おい、お前ェ! それは何かな? 私は知らない! そんな、自然的に溢れている力でも魔力でもないそんなおぞましいものは私は知らないぞぉ! 」
「あ? 何言ってんだ? これはお前もよ〜く知ってるだろう? 『業』だよ『業』。平たく言やぁ『憎しみ』やら『恨み』だ。死にきれねぇ、許せない、殺してやる、そんなどす黒くベタついた『業』の塊だ。本当ならこんな見えるもんじゃねぇんだが犬や虫が化けて出たり呪いの類があるこの世の中だ今更だろう? しかしすまねぇな......どうやら俺が転生してたから過去に置いてきちまったらしい、俺が最後まで背負うって決めてたんだけどな。まぁこの際戻ってきたからいいか......じゃあ第二回戦といこうか?クソ虫野郎! 」
「ふざけるなぁ! そんなぽっと出の変なものに私が負けるハズがぁ───グベッ」
虫男は激昂し夜宵飛びかかろうとしたが異常なスピードで切り刻まれ地面にバラされた。
「いーちっ! にーいっ! さーんっ! しーっ! ──」
転がった端から少女は虫を一匹一匹執拗に潰していく。
やばい、やばい、やばい、やばい! これじゃあ......こんな雑魚にやられるなんて私に相応しくない! 私の死は悲劇であり喜劇でなければならないのだ! こんなぽっと出の意味もわからない力を持つガキごときに殺されるなど面白く、そして美しくない!
「やめろ! 来るな! それ以上動くんじゃない! 来るな! 来るなぁ! 」
「お、喚いてるお前が本体か......じゃあ死ね」
プチッ──
呆気ない間抜けな音を最後に戦いは終わった。
夜宵の身体は限界を越えた動きの反動で折れた肋が突き刺さりボロボロになっていたが木刀を杖に足を引きずるようにしてゆっくりと戦友の元まで歩み寄る。
「お前はよく戦ったよ。本当にな......お前が戦って引き止めてくれたからこそあいつは殺せた。お前はあのクズ野郎の被害者をこれ以上増やさないように救えた英雄だよ......ん?雨でも降ってきたのか? ───いや、これは俺のか......まったく歳をとると涙脆くなるからいけねぇ。最後に泣いたのはいつだったっけなぁ......?──仇はうったぞ紗良......」
溢れ落ちる一筋の涙......それは一人の剣士としての男泣きだった。
〜下水道〜
「はぁっ......はぁっ......最後まで勘違いしてくれたお陰で助かったねぇ」
そう、私は虫の集合体に見えるかもしれないがそもそも私は虫ではない。
私はスライムだ。一つ言っておくがお前ら人間が思い浮かべるような可愛いやつじゃないもっと凶悪で残虐な存在それが私だ。
私の一部をそれぞれの虫の脳に寄生させそれを操り、人の形にしたものそれが私【祭り屋】の最後の生命線。
ここまで使ったのはもう大分前になるがあの雑魚は絶対に後で最高の演出を用意した後ぶっ殺してやる。それはもう悲劇的に最高に笑える舞台を整えて......
「線〜路〜は続く〜よーど〜こまで〜もー野〜を越え谷越〜え〜て、遥かな街まで〜僕たちのー楽しい〜旅の〜夢〜繋〜いでーる〜見ぃつけた、私のこと覚えてる♡」
狭く暗い下水道の中で聞こえてきたのは歌声、音程なんて気にしていない本当に形だけの歌、音痴の可能性も否定はできなかったが、そしてひょっこりと現れたのは銀髪の髪にウェーブのかかった赤い瞳をした少女であった。
チッ......こんなときに魔法少女か。
だが、たかだか一人......この状態でも殺しきれる。なんならこいつを使って増殖を......
「あれぇ? 覚えてないかぁ......じゃあこれで分かる?──『仁奈ちゃんごめんなさい、助けられなくてごめんなさい、ごめんなさい』......どう? 前過ぎて覚えてないかもしれないけど♡」
......こいつ何を......いや、覚えているぞ。
確かあれは同士討ちさせたときの......でも確かあれは青と白の魔法少女だったハズ......目の前の魔法少女は灰色。
しかもあの二人は確か一人はしっかり者、もう一人は臆病な人見知り気質だった。
だが、こいつはどれにも当てはまらない......というかしっかり者の方はもう一人に殺させて虫用の餌にした。......つまりこいつはあの臆病な方?
微塵も当初の雰囲気を感じられない......確かこいつを飼ってた巣は別の魔法少女に襲撃されて手放していたな。なら復讐しに来たのなら有り得んこともないな。
「あぁ覚えているねぇ......あれはとても愉快でこっ......グハッ......」
「【殺戮魔法】【十番、非声の通り魔事件】」
物理的に耐性が高いはずの身体が突如生えてきたナイフによって貫かれ大きなダメージを負う。
「な〜ら良かったぁ♡覚えているなら尚更愛を込めて殺せるね♡......いや間違えた、愛せるね♡」
「今日はどいつもこいつも私の話を遮って攻撃しやがって......許せないねぇ。さっきの女には虫の姿だったため思う存分に戦えなかったが今の姿ならこんなこともできるんだよねぇ。耐えられるかな? 」
【祭り屋】は勢いよく飛び出し灰色の魔法少女を絡め取り体の中に閉じ込めると酸素の供給を完全に絶った。しかし、
「【殺戮魔法】【八番、孤高の溺水心中】」
「ごぶぇっ」
潰れたヒキガエルのような声を出すと【祭り屋】は魔法少女を吐き出した。
これは......毒? 身体がじわじわ侵食されている感じがする。
しかも魔力系の毒だ、身体を切り離したとて回るのを防げない。しかも動きが鈍くなっていっている。
身体は刻一刻と崩れもう指で摘めるサイズまで縮小してしまった。
「もぅ動けなくなっちゃったの〜? こんなに弱かったっけ? いや、私が強くなりすぎたのかな? まぁいいや、いっただきま〜す♡」
は? こいつ何を......いや、そんなことはどうでもいい!
これはチャンスだ。こいつの子宮にさえたどり着ければ増殖してあの雑魚に復讐できる。
こいつが馬鹿な魔法少女で助かった。しかも魔力も以前とは比べ物にならないくらいに上がっている......これは想像以上の成果になりそ......カハッ
「【殺戮魔法】【二十一番、名も無き騎士の剣】あはっ♡痛った〜い♡でも増殖止めたらダメだよ? 何回でも何千回でも愛してあげないと......特に私の始まりであるあなたはね♡」
こいつ......狂っている......魔法で作った剣で子宮と私ごと自分の腹を貫きやがった。
速く増殖せねば......増殖し続けていれば次第に魔力も枯渇し......いや、その前にこいつが死ぬはず......有利過ぎる我慢比べだ。
〜???時間後〜
「あれ〜?もう諦めちゃったの?まぁいっか♡......はぁでも流石に刺しすぎちゃったかな?」
少女の腹には刺して抜いた剣の痕が無数に残っておりとてもじゃないが平然と立っているのはおかしかったが少女はスキップしながら下水道を後にした。
〜3時間時点〜
「こいつなんでこんなに刺して死なないんだッ! 」
口調からすっかりと余裕は消え失せもう疲労でへとへとになっていた。
そんなとき同期の一言を思い出していた。
『【祭り屋】お前は雌豚共で遊ぶのはいいがあまり油断はするなよ?雌豚共の中には稀にだが化け物がいる。これは頭の片隅でもいいから入れておけ、特に俺たちに酷い目に合わされたあとイカれちまった奴らは大抵が自殺するか戦線復帰することはないが偶に頭のネジが吹っ飛んだ【壊れた玩具】と呼ぶ雌豚がでてくる。こいつらは大抵が狂気にあてられて信じられねぇ強さしてやがるからな? 』
嘘......だ......私の舞台が......宴が......喜劇が......こんな所で終わるなどと......
一先ずはここまでですかね。一応、後日更新していく予定ですがすぐ続きが見たいという物好きな方がいらっしゃればこちらへ↓
https://kakuyomu.jp/works/16818622176192180681




