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不審者と虐めと更生と

「んぅ〜! ふぅ......あぁ今日からだったなそういえば......」


 しかし病院生活というのはなかなか慣れないものだ、辺り一帯白くて目眩がしてくる。

 前世じゃあ小汚い家の布団で惰眠を貪ったり、戦場での野宿が基本だった俺にとってこいう言った清潔すぎる空間というのはどうにも落ち着かない。

 だがこの病院とも今日で別れだ。

 そう、今日は退院の日......学校に行く日となっている。

 あの後も爺さんと毎日のように将棋をしたりちょくちょく見舞いに来るクソガキ共を相手にしていた訳だが......まぁ落ち着きはしないが入院生活も思ったより悪くないように思えた。


 あと勘違いしないで欲しいんだがあのとき涙が出たのはえ〜っと......あれだ目にゴミが入っただけだ......いや、本当だからな?

 と、前置きはいいとしてこうして考えてる間にも何かと面倒そうな奴に絡まれてしまった。


「お嬢さんもしかして迷子? ───あぁ学校か......ならさ学校なんてサボってお兄さんと一緒にゲームして遊ばない? お菓子もあるからさ」


 ......これはもしかしていわゆる不審者という奴ではなかろうか?

 目の前の筋肉のついていないひょろっとした男に目を向ける。

 全身真っ黒だな......男の服装は黒い長袖のシャツに黒い長ズボンと言った全身真っ黒こーでというやつだ、顔の方は黒いサングラスとマスクに黒い帽子というテレビや学校の補導でしか見ないタイプの典型的すぎる不審者の出で立ちである。


 だが何故だろうか......この男からは一切悪意や害意といったものを感じられない。

 訳ありか......? 試しについて行ってみるか......ハッ! いや、菓子に釣られた訳じゃねぇからな?──本当だからな?


 〜〜〜


 恐怖に支配された人間は悲惨だ。


「よォ和斗、ちょっとこっちこい」


「う、うん分かったよ。剛志くん......」


 僕はただ少し口下手でみんなと話すのが苦手だっただけだ。

 でもそれを先生や親に相談しようと最終的に悪者にされるのは僕だ。


「あなたが直せばいいだけでしょう?」


 この一言で悪者は僕を虐めてる方ではなく僕自身に問題があるからだと責め立てる。

 僕自身も悪いのは分かる。分かるけれどそれを全て僕の責任に転嫁して問題を起こしている元凶に全く目を向けないのは大人だからだろうか?それともうちの先生だけなのだろうか?


「一言、言い返してやればいいじゃん」


 この一言で僕の頭の中は外に出ることはないストレスで煮えくり返る。果たして言い返せるような奴をいじめっ子はわざわざ虐めるか?

 答えは否だ。そこで言い返せないからこそ標的にされる。だがそれを他人に説明したところで、


「つまり君が変わればいいだけだろう?そうすれば虐めも面倒になってやめて万事解決じゃないか? 」


 それができれば僕はこんな状況になっていない。

 いじめっ子といじめられっ子の関係は強者と弱者だ......強者は弱者を自身の気分の赴くままいたぶり、その精神を蹂躙していく。

 そして恐怖に支配された奴隷の一人ができあがる。そこまできたらもう終わりだ......言い返す、反抗するなんて以ての外、嵐をどうやり過ごすかを考え過ごす日々......本当にどうしてこうなったんだろう。

 始めは学校の入学式の挨拶だった。僕はクラスでの自己紹介のとき緊張のあまり噛んでしまった。思えばこの時に狙いをつけられていたのだろう。


「よォ和斗くんだっけ? あのさ今日放課後一緒にゲームして遊ばない? 」


 遊びに誘われたこれだけでバカな僕はころっと人を疑うことを忘れてしまっていた。

 このときはまだ見た目は怖いけどいい人もいるんだ、ぐらいに思っていた。


「剛志くん、これ......なに? 」


 目の前に置かれていたのは大量に虫の入った器......

 用意した当の本人とその取り巻きたちは笑いを堪えながら口々に声を上げた。


「和斗、お前それ食え」


「え?......放課後ゲームしに行くんじゃ──」


「だから今してるじゃ〜ん、わんちゃんと飼い主ゲームをさァ! 」


「は? 」


 なに、それどういうこと?

 そんな言葉が口から出る前に僕の弱々しい腹筋に拳が鋭く突き刺さった。胃から今日の昼食が込み上げてきて堪える間もなく吐き出した。ベチャっと吐いたものが剛志くんにかかった。


「和斗くんさぁ......服が汚れちゃったじゃん最悪......駄犬はさァ教育しないとだよね? 」


 その後は恐らく想像通りだろうが僕は剛志くんとその取り巻きに小一時間蹴られ、殴られ、サンドバッグになっていた。


「お前今日から俺のパシリな? 」


 そこからはもう死に物狂いであまり覚えていない。というか覚えていたくもない......

 金をせびられるのはほぼ毎日、暴力を振るわれるのは当たり前、ゆっくり出来る時間なんてものは存在しなかった。


 そんなある日僕は二つの失敗と一つの間違いを犯した......まず一つ目はまだ小学生である少女を誘拐していること。

 勿論僕の意思じゃない剛志くんに指示されたことだ。でも、今回ばかりは僕も意地でも彼の話を突っぱねなければいけなかったと後悔した......少女を連れて人目のつかない廃工場に足を踏み入れた。


「おぉ? 和斗くん偉いねぇ〜ちゃんと連れてきてくれたじゃん......最近お前反応薄くて嬲るのも飽きてきたからさ本当に助かるよ」


 ここで僕は二つ目の失敗を犯した。

 それはミジンコ以下のちっぽけな勇気を振り絞ってしまったことだ。


「つッ剛志くん! ......そ、そのさ......やっぱりやめない? ほら、こんな小学生に暴力なんてしたらそれこそ問題になって面倒なことに──」


「和斗くんさァ勘違いしてるよね? そこの子に暴力を振るったのも君、計画したのも君、全部一人、君がやったことになるからさ? もしかして大切な友達が大変なときにその罪も被れないほど薄情なのかな、和斗くんは? 」


 この返答に僕は苛立ちを覚えながらもすぐさま行動に移した。

 連れてきてしまった少女の手を掴んで急いで廃工場から出ようとしたが取り巻きたちがその行く手を阻み僕は敢無く地面へと組み伏せられてしまった。


「はぁ......君がさ、そんな薄情者だなんて知らなかったよ。......教育し治さないとね」


 剛志くんはゆっくりとこちらの方へ歩み寄ってきていた。

 せめてこの巻き込んでしまった女の子だけでも助けないとと思ったが先程まで手を握っていたはずの女の子の姿が消えていた。


「おぉ......見直したぞ小僧、最初っからお前からは悪意や敵意を感じないからおかしいと思ったんだ。だが他の奴らは違うようだなぁ......? 性根の腐りきったクズの気配が多くて吐き気がするよ。本当......」


 可愛らしいしかし確かな迫力とドスの効いたこの場に似つかわしくない声が響いた。

 そこで僕は一つ間違いを犯していたことに気づいた剛志くんから今回言われていたのは、


「新しいペット作りたいからさ連れてきてくんない? 正直同年代とか年上とかもう飽きたんだよね。そうだなぁ......小、中学生の子で女の子なら尚いいよ。 可愛い悲鳴も聞けそうだしさ......もし、連れてきてくれたら君を解放してあげてもいいよ?」


 その反吐の出るような命令に疲れきっていた僕の心は解放なんてされるとは到底思えなかったが恐怖に支配されていた僕は頷くことしか出来なかった。

 だけど僕は勘違いしていた。僕が連れてきてしまったのは小、中学生でもなければ可愛らしい女の子なんてものでもない悪魔とか化け物とかそういったものを連れてきてしまったということを......


「じゃあ、大掃除の時間だ。ごみはごみ箱にクズは制裁をってな? 」

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