変わったことと変わらないこと
ヴェルダーも3歳になり、最近は屋敷中でイタズラをして執事長や侍女を困らせている。
「おとうさまー!」
領主の仕事を終えて帰宅したエドワードに飛びつくのはいつもの光景だ。
「ただいま。ヴェル、いい子にしてたか?」
エドワードがヴェルダーの頭に手を置く。
「うん!ぼくいい子だったよ!」
満面の笑みで答えるヴェルダーの後ろで、執事長がげっそりした顔で立っていた。
「本当に坊ちゃんはお元気でございますな」
屋敷中の侍女たちもヴェルダーの追いかけっこやかくれんぼでヘトヘトの様子だった。
エドワードがヴェルダーをひょい、と抱っこして、私にただいまのキスをする。
「いいなー!ぼくも!」
ヴェルダーの頬にキスをして笑い合った。
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ヴェルダーの出産から3年経ち、私も体調を崩すことはほとんどなくなった。最近は侯爵家の仕事を少し手伝わせてもらったりしているのだ。
魔物との戦闘があって荒れた山林などを、私の植物を育てる魔法で復興させる仕事だ。帝国軍本部の復興部隊とともに任地へ向かうし、魔物は討伐された後なのでそれほど危険な仕事ではないが、広範囲にダメージがある場所では多くの魔力を使うし、長丁場になることも多い。
エドワードはいまだに私の身体を気遣って、侯爵家の仕事に私を巻き込むことを避けていた。
でも、私が彼のために頑張りたかった。
「エドワードが救ったものを、私が守りたい」この気持ちはずっと変わっていなかった。
何度もエドワードを説得し、彼がそばにいることを条件に、帝国軍本部の復興部隊に所属している。
エドワードの炎の魔法によって焼けた野原が、少しずつもとの自然を取り戻していく様を見て、そこに住んでいる村民たちが口を揃えて「ありがとうございます、ソフィー様、エドワード様」と涙を流しながら言ってくれる。
私はとてもやりがいを感じていたし、グレンブルク家の人間としてエドワードの力になれることが嬉しかった。
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みんなで夕食を食べて、ヴェルダーをベッドに寝かせる。ヴェルダーを挟んで、3人で川の字になって絵本を読み聞かせた。いつも通りたくさん遊んで疲れていたのか、ヴェルダーはすぐに眠りについた。
私とエドワードは、ヴェルダーを起こさないようにそっと部屋をあとにする。
「今日もぐっすりだったわね」
「ああ、たくさん走って疲れたんだろうな。ソフィーもお疲れさま」
エドワードと私の部屋でソファに腰掛け、寝る前に二人でおしゃべりするのが最近の日課なのだ。
「そういえば、ソフィーにお願いしたいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「今年は雨が少なく、グレンブルク領内の穀物の収穫が少なくなりそうなんだ。今度視察に行くんだが、一緒に行って君の力を借りることができるか相談したいんだ」
「わかったわ」
エドワードから頼られたことが嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
「...本当は君のことをみんなに知られたくない」
エドワードが子どもっぽく拗ねた顔をする。
「俺の奥さんがこんなに可愛くて、こんなにすごい魔法を使えるなんて、世界で俺だけの秘密にしたかったのにな」
私の肩に彼の頭がトン、ともたれてきた。
思わぬ言葉に私はくすくす笑いながら、エドワードの頭を撫でた。まるで大型犬のよう。
「私はあなたの妻だってことをみんなに言いたいけど。いつも私のこと、ヴェルのことを大事にしてくれる。領民のみんなも、あなたのことを敬愛しているもの。こんなに優しくて強い旦那様なんだから」
エドワードは「本当に俺にはもったいないくらいの奥さんだよ」と笑って私にキスをした。




