サプライズの行方は
今日はエドワードの25回目の誕生日。
グレンブルク家は朝から慌ただしかった。
エドワードは朝早くから帝国軍本部へと行かなければならないらしく、朝一番に「お誕生日おめでとう」は言えずにいた。
ソフィーはヴェルダーのおしめを変えながら、「今日はパパのお誕生日だから、一緒にお祝いしましょう」と笑顔で言った。
ソフィーの「お願い」の通りに、執事長と侍女がウェールズ伯領から取り寄せたヴェルダーの花の種を庭園の一角に蒔く。
「奥様、準備ができました」
執事長が呼びにきてくれた。
「では、早速はじめましょう」
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帝国軍本部では、キャルロット伯爵家のカインがエドワードと並んで歩いていた。
彼はリブリア学院を卒業後、帝国軍の本部に勤務している。
キャルロット伯爵家は代々、野生動物を操る魔法を継承していた。カインも野鳥を操る魔法に長けている。しかしカインは次男であるため、伯爵家の跡を継がずに帝国軍本部に入ることになったのだ。
カインがエドワードに尋ねる。
「どうだ?ソフィーさんと息子くんの調子は。大変だったんだろ?」
「ヴェルダーは無事に育っている。ソフィーは一時危なかったが、なんとか回復してきたところだ。俺が家にいない間、体調を崩してないといいが...」
「心配症だな、まあ無理もないか。お前は昔からソフィーさんにベタ惚れだもんな」
カインが呆れた顔で言った。
「あ、そういえば、今日誕生日だったよな?おめっとさん。これやるよ」
カインが小さな小瓶をエドワードに差し出した。
「なんだこれは」エドワードが訝しげな顔で小瓶を受け取る。
「精力剤だよ。お前のことだから、怖くてソフィーさんに触れられないんだろ。これでも飲んで頑張れよ」
意地悪っぽく笑ったカインにエドワードは顔を真っ赤にして言った。
「お、お前...、余計なお世話だ!」
「じゃーな、おつかれさん」
カインはそのまま逃げるように部屋の中に入っていった。
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屋敷に戻ったエドワードはいつもと雰囲気が違うことに気づいた。屋敷中が静まり返っているし、玄関の広間に電気がついていない。
「ソフィー!ヴェルダー!」
まさか二人に何かあったのか...そんな不安から勢いよく大広間の扉を開けると...
「お誕生日おめでとうございます!!」
ソフィーと彼女に抱かれるヴェルダー、執事長や侍女たち、学院時代の懐かしい友人たちが集まっていた。さっき別れたばかりのカインもいる。
唖然としているエドワードに、ソフィーがヴェルダーを抱いて近づいた。
「おめでとう、エドワード。今日を祝うために屋敷のみんなに協力してもらって、パーティーの準備をしたの」
鮮やかに飾られた部屋にはエドワードが好きなソフィーの手料理の数々、手作りのバースデーケーキが並んでいた。
「あ、ありがとう...」
驚いたままのエドワードは辺りを見渡した。
「準備が大変だっただろう...身体は大丈夫か?」
エドワードが優しくソフィーの頬に手を当てる。
「大丈夫よ。みんなあなたのためにたくさん準備してくれたの」
イチャイチャするエドワードとソフィーの間で、ヴェルダーがフンフンと鼻息荒く「うー!」と声を出した。
「あらあら、待ちくたびれちゃったみたい。はやくお誕生日パーティーを始めましょう」
「そうだな、待たせてすまない。みんなもありがとう」
エドワードがそう言ってヴェルダーを抱っこする。
久しぶりの温かい時間に、エドワードが笑っていた。ソフィーもそんな彼を見て、柔らかく笑った。
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パーティーもお開きとなり、屋敷の中は静かになった。夜になりヴェルダーも乳母が世話してくれる時間になったので、ソフィーとエドワードは二人で庭を散策していた。
「夜風が気持ちいいな、今日は俺のためにありがとう」
エドワードがソフィーの手を繋いで言った。
「ヴェルダーが生まれてから、なかなかこんな二人の時間がなかったから...うれしいわ」
照れくさそうに言ったソフィーを見て、エドワードは自分の妻が世界一可愛いことを噛み締めていた。
突然、彼は立ち止まった。
「これは......」
「ふふ、おどろいた?私からのお誕生日プレゼント」
二人の目の前にはヴェルダーの花畑が広がっていた。月の光に白い花弁がキラキラ光って、まるで美しい星空が地面に落ちてきたようだった。
ソフィーは執事長や侍女たちにヴェルダーの種をウェールズから取り寄せてもらい、自らの花を咲かせる魔法を使って花畑を作ったのだ。
「綺麗だ...ありがとう、ソフィー」
エドワードがソフィーをそっと抱き寄せ、二人は静かに花畑を見つめていた。
「ご覧の通り、私はもう大丈夫。こんな魔法も使えるくらい、元気になったのですから。エドワード、私はいなくならないわ」
ソフィーがエドワードの胸に抱きついた。
花畑の真ん中で二人の影が重なる。
抱きついたまま、ソフィーは顔を上げてエドワードを見つめた。
「だから、夜は私を見つめるんじゃなくて寝てください!」
エドワードはおどろいて「知ってたのか」と小さく呟くと、照れくさそうに笑った。
「わかった。君はやっぱり世界一の奥さんだな。俺をこんなにも幸せにしてくれる」
二人は鼻をくっつけて笑い合った。




