誕生日の記憶
温室で具合が悪くなってからというものー
エドワードの過保護ぶりに拍車がかかった。
執務の時間以外は私の顔を見にわざわざ部屋を訪れる。侯爵家の仕事と帝国軍との鍛錬の日々で休憩時間もほとんどないほど忙しいはずだ。
しかし彼は空き時間が少しできると、私の様子を確認して、ヴェルダーのおしめを変えたり、遊び相手をしたりしてくれる。
今も領地の視察から帰ってきたばかりなのに、ヴェルダーを抱っこしてあやしてくれている。
「旦那様は子煩悩ですねえ」
執事長がほのぼのと言った。後ろにいた侍女たちもうんうんと頷いている。
エドワードが執事長に言う。
「俺よりもソフィーの方が大変だからな。まだ体調がよくない日もあるだろうから、注意してくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「そんなに心配しなくても、私は大丈夫よ。エドワードこそ、毎日お仕事と育児の往復でだいぶ疲れているわ」
私が彼の目の下にあるクマにそっと触れながら言った。なかなか眠れず、私の顔を毎晩見ていることを知っている。とにかく彼にも休んでほしかった。
「昼食後はしばらく休憩よね?少し寝てきて...私もあなたのことが心配なの」
「でも...」エドワードが躊躇いがちに言う。
「私なら大丈夫。執事長も侍女もいるし、何かあったら呼びますから」
「...わかった。じゃあ、頼む」
エドワードはヴェルダーを抱っこしている私を名残惜しそうに見つめながら寝室に向かっていった。
「...まだ旦那様は夜にお休みになれませんか」
執事長が尋ねてきた。
「ええ、私のことが心配みたいで...」
「奥様がご出産の際に意識を失われてから3日間、旦那様は今までにないほどの御乱心でした。片時も奥様のお側を離れず...それは痛々しいほどに」
私が目覚めたときのエドワードの顔は忘れられない。目に涙を浮かべて必死に私の名前を呼ぶ彼。握った手は痛いくらいに強く、震えていた。
私もあんなに取り乱したエドワードを見たことがなかった。きっと彼にはトラウマになってしまったのだろう。
彼を笑顔にしたいのに。
彼を幸せにしたいのに。
暗い気持ちをかき消すように、ヴェルダーが私の髪を引っ張って笑った。
「そうね、ヴェルダー。一緒にパパを元気づけましょう」
そう言って、私は執事長と侍女たちにあるお願いをした。
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「明後日はエドワードの誕生日だから、誕生日パーティーをしたいの。彼に喜んでもらいたくて...みんな仕事が忙しいのに申し訳ないのだけど、協力してもらえるかしら」
「もちろんです!奥様!!」
執事長や侍女たちが声を揃えて言う。
「奥様、我々は何をお手伝いすればよろしいでしょうか」
私はとっておきのアイディアをみんなに共有した。
これはまだ私たちがリブリア学院の生徒だった頃ー
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昼下がりのリブリア学院。明日はエドワード様の18歳の誕生日。私は学院の中庭でとある準備をしていた。
「ソフィー!何をしているの?」
テレサがいつもの明るい笑顔で飛びついてきた。
「これはね、エドワード様に贈るための誕生日プレゼントを作っているの」
私はヴェルダーのブーケをテレサに見せた。
「綺麗ね...」テレサがうっとりと見つめる。
私の故郷であるウェールズ伯領でしか咲かない花。魔法を使って花を咲かせたのだ。
白い花弁がキラキラと光って、まるでエドワードの銀髪みたいだ。
「エドワード様ってお花好きなの?全然そんなイメージなかった」テレサがくすくす笑いながら言った。
「この花は、彼が私のことを好きになってくれたきっかけだから...」
私は時計塔での彼の告白を思い出して笑顔になった。
翌日、彼にヴェルダーのブーケを渡す。
「お誕生日おめでとうございます、エドワード様」
エドワードは目を見開いて、口に手を当てて横を向いた。
あれ?あまりお気に召さなかったのかしら...一瞬不安になったが、すぐに吹き飛んだ。
顔を真っ赤にした彼が、
「...ありがとう。というか可愛すぎないか。なんだその顔」
とボソボソ言った。一目でとても喜んでくれたことがわかる顔だった。
突然「可愛すぎる」と言われて恥ずかしくなって私もつられて赤くなる。
「今までこんなに綺麗なプレゼントはもらったことがない。ましてや無骨な俺が花なんて...うれしいよ。この花...君の故郷の...魔法で咲かせたんだな」
彼は愛おしそうにブーケの花を見つめていた。




