夜勤もいっしょに
ヴェルダーが生まれて3ヶ月が過ぎた。
小さな赤ちゃんも少しムチムチしてきて、毎日眺めていても見飽きない。
出産のあとは酷い貧血でしばらくベッドの上から起き上がれなかったけれど、今ではグレンブルク家の庭園を散策できるくらい体もよくなった。
ただ...エドワードの過保護っぷりがすごい。
ヴェルダーは乳母には任せず自分で育てている。ただでさえ産後3日間も離れ離れだったのだから、自分が出来ることはしてあげたい、とエドワードを説得した。私の体を案じて無理はしないという条件つきで、エドワードも賛成してくれた。
私が夜中に授乳のためベッドから起きあがろうとすると、彼も一緒に起きて手伝ってくれる。
ゲップを出させるのも、おしめを変えるのも彼の役目になっていた。
今夜もエドワードはヴェルダーを抱いてしばらく寝かしつけをしてくれた。
すやすやと眠るヴェルダーをそっとベッドに置き、横になって彼を見つめる私に笑った。
「よく眠ってる。このまま朝まで寝てくれるだろうから、ソフィーはしっかり休んでくれ。体がまだ辛いだろう?」
まだ外は真っ暗だが、もうじき明るくなるだろう。
「エドワードも休まなきゃ。帝国軍との合同演習が近いのだから」
最近、エドワードはグレンブルク家の領主としての仕事の傍ら、帝国軍から鍛錬の指揮官のオファーを受けてしばしば帝国軍本部に行くことがある。
大変な仕事をして、夜はこうして授乳まで付き合って...。身体を壊してしまうのではないかと心配しているのだ。
「俺は大丈夫だ。頑丈さが取り柄だからな」
エドワードはソフィーに口付けをして笑った。
彼女はエドワードの腕の中があったかくて、すぐに眠りについた。
エドワードは、ソフィーの産後から夜も不安で彼女を見ている。もしもソフィーを失うことがあったら、とその不安で眠れない夜が続いていた。
翌朝、ソフィーが目覚めるとエドワードの姿は見当たらなかった。今日は朝早くから領主の仕事があったと言っていたような。
ヴェルダーもちょうどお目覚めで、ソフィーは寝起きで伸びをしているかわいい我が子におはようのキスをした。
「そういえば...執事長が、エドワードが鍛錬の最中に肘を怪我したと言っていたわ。昨日はそんな素振りを見せなかったけど、一応薬草を取っておこうかしら」
ソフィーはヴェルダーを連れてグレンブルク家の広大な庭にある温室へ向かった。ここは彼女が魔法で育てている貴重な薬草や、めずらしい植物を保管するためにエドワードが建てたものだった。
ソフィーは学院を卒業したあと、2年間はウェールズに戻って兄と共に領地の整備に邁進し、ウェールズ伯領はこれまでにないほど豊かな自然と、農作物の輸出で潤った。領民も何かとソフィーを頼りにしていたが、婚約したと噂のエドワードが度々彼女を訪ねてウェールズに来たので、「こりゃはやく結婚しないと!」とみんな口を揃えて言うのだった。
そんなこんなであっという間に卒業から2年が経ち、ソフィーはエドワードとついに結婚したのだ。
結婚式は盛大なもので、帝国中から祝福の声があがった。
「あったわ!これは痛みをすぐになくすもので...」
ソフィーは生い茂った薬草からお目当てのものを取っていく。
ヴェルダーは侍女たちが世話をしてくれているから安心して任せられる。しばらくは薬を作る時間が作れそうだった。
「エドワードは夜中ずっと起きているのかしら...」
ソフィーは彼が不安で眠れていないことに薄々気づいていた。出産時のことであんなに取り乱したエドワードは見たことがなかったので、ずっと心配しているのだ。
「よく眠れるように睡眠の質を良くする薬も作ろうかな」
別の薬草を取ろうとしたそのとき、ソフィーの視界がぐにゃりと歪んだ。めまいがひどい。膝をついて耐えていると、
「ソフィー!!」
エドワードがすぐさま駆けつけてきた。
「エドワード...ごめんなさい、ちょっとめまいが」
「すぐに医者にみせよう」
そう言ってエドワードは軽々とソフィーを抱きかかえた。
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「奥様、無理をされてはいけません。まだ出産時のダメージがお身体に残っているのですから」
グレンブルク家お抱えのお医者様が診察をしてくれて、軽い貧血だとわかった。
「お子様の夜のお世話はせめて乳母に頼まれてはいかがでしょうか。まだお身体が万全の回復とはいえませんし」
お医者様のアドバイスを聞き、エドワードからも懇願された。
「君のことが心配だ。日中もヴェルダーのことを世話しているのだから、夜はゆっくり休んでほしい」
出産時と同様に、エドワードが思い詰めた顔をしている。
「心配かけてごめんなさい。...わかったわ。夜の間は乳母に任せる日を作ります」
...こんなに心配ばかりさせてしまうなんて。ソフィーは彼の様子を見て辛くなった。
「まだ身体が辛いのに、温室に行って何をしてたんだ?君が温室から出てこないと侍女が報告に来て、様子を見に行ったら倒れていて...」
「この薬を作っていたんです。あなたが鍛錬のときに怪我をしたと聞いて...黙って動いてしまってごめんなさい」
ソフィーは自らが作った薬をエドワードに渡した。
「...無理するなと、あれほど...」
エドワードは自分のために彼女が無理をしたことがやるせない思いとなり、顔が歪む。
ソフィーは彼を悲しませてしまったことが悲しく、ただうつむくしかなかった。




