ヴェルダーの花
二人の婚約は、学院中に知れ渡り祝福された。
一部の女子生徒たちはエドワードのことを諦めきれず、最初はソフィーに嫌味を言ったりしていたが、エドワードが黙らせた。
学院公認のカップルとして月日は流れ、ついに卒業が近づいていた。
ソフィーは最近、エドワードの様子がおかしいことを怪しんでいた。
一緒に昼食をとったり、中庭で話したりしていても、エドワードがどこかぎこちない。
「何かしてしまったのかしら...」
ソフィーがしょぼくれていると、エドワードの友人であるカインが通りかかった。
「おや、ソフィーさん。どうしたの?」
「カイン様、ごきげんよう。最近、エドワード様が何かお悩みなのか様子が変で...」
カインは何かを察したようで、
「あー...まあアイツは問題ないから大丈夫だよ、そのうち戻るから、あんまり気にしないで」
とだけ言って行ってしまった。
カインは歩きながら、最近のエドワードを思い浮かべていた。
昨夜ー
男子寮の談話室で話すエドワードとカイン。
エドワードは両手で顔を押さえながら、
「...っ今日もソフィーが可愛すぎた。早く結婚したいっ...」と悶えていた。
普段あんなに飄々としているエドワードも、未来の奥様には骨抜きか、とカインはニヤニヤしながらエドワードに言った。
「お前、最近毎日それだぞ...あんまり愛が重いと、ソフィーさんも大変だろ。彼女、卒業後はウェールズで薬草を育てて病気の人々の助けになりたいって言ってたし。お前とすぐに結婚、ってわけにもいかないんだろ」
「ああ...2〜3年はウェールズで薬草を育てる仕事がしたいと言っていた。グレンブルクの家の者たちもソフィーを好いていて、はやく若奥様になってほしいと結婚を急かされているんだが...俺はソフィーの意思を尊重したい」
「侯爵家の一人息子だもんなあ...はやく後継ぎもほしいしな」
その言葉にエドワードが赤面する。
「なんだよ、お前まだソフィーさんに手出してないのかよ」
「悪いか。大事にしたいんだ...俺なりに」
「純愛だな〜帝国最強のお前にそんな風に思われるなんて、ソフィーさんも幸せだな」
昨夜、そんな会話をしたことをカインは思い出して吹き出した。
「アイツ結構ピュアだよな」
顔のニヤニヤが止まらないまま歩いているカインを、周りの生徒が驚いた顔で見ていた。
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「......フィー、...ソフィー!!」
名前を呼ばれている。この声は...
ソフィーはゆっくりと目を開けて、今にも泣きそうなエドワードの顔を見た。
「エ...ドワー...ド?」
声が掠れて上手く喋ることができない。
エドワードは目を覚ましたソフィーを抱きしめる。
「私......」
ソフィーはぼんやりした意識のなか、一瞬でハッと顔が変わる。
「赤ちゃん!私たちの赤ちゃんは...大丈夫なの!?」
エドワードの腕にしがみつく。
「ああ、無事だ。今は別室で侍女がみているから心配するな。あとで部屋に連れてきてもらおう。」
エドワードが部屋の外で控えていた執事に医者を呼ぶように伝える。
エドワードが心配そうにソフィーの顔に手を当てる。「君は3日も意識がなくて...本当に生きた心地がしなかった」
「3日?私はそんなに眠っていたのね...」
「出産のあと、ひどい出血でまだ貧血の状態らしいから、無理はするな」
エドワードはソフィーに毛布をかけながら言う。
「本当に目が覚めてよかった...君を失ったら俺は...」
エドワードの手がかすかに震えている。
「大丈夫。愛する旦那様と息子をおいて私はいなくなったりしないわ」
ソフィーは顔色は悪いながらも、笑顔で言った。
「失礼します、お連れしました」
しばらくすると、侍女が大事にゆりかごを運んできた。
「私たちの...」
ソフィーは生まれた我が子の顔を見て涙を浮かべた。指を伸ばしてそっと触れた我が子の手は、小さくて可愛かった。
エドワードもソフィーを抱き抱えて、彼もゆりかごの我が子を愛しそうに見つめる。
「名前は何にしましょうか」
「そうだな...前に君がリブリア学院の時計塔で咲かせていた花。あれはなんという花なんだ?」
「ヴェルダーです。故郷のウェールズに咲く花です」
「では、この子の名前はヴェルダーにしよう。どうかな?」
「ヴェルダー...素敵なお名前ね」
ソフィーは小さなヴェルダーの頬を指でそっと撫でた。ヴェルダーはゆりかごの中でムニャムニャと眠っている。
「ソフィー、ありがとう。俺にこんな幸せをくれて。俺も君を幸せにできるよう努める」
エドワードがソフィーのおでこにキスをしながら言った。
「もう十分に幸せにしていただいてます」
ソフィーは彼の腕の中で笑いながら言った。




