中庭の二人
リブリア貴族学院のパーティーが開かれる夜。
年に一度の盛大なパーティーともあって、学院の大広間は着飾った生徒たちで溢れていた。
このパーティーが一年生にとっては社交界デビューとなり、パートナーとなった男女は婚約することになる。女子生徒たちはそれぞれが鮮やかなドレスに身を包み、気合が入っていた。
私はというと...
「ソフィー!せっかくおしゃれしてるのにこんな隅っこにいちゃダメじゃない!」
横からテレサに小突かれながら、引き攣った笑いを浮かべる。
ダンスも苦手だし、人も多いし、ドレスも苦しい。早く寮に帰りたい気持ちを抑えつつ、パーティーが終わる時間をはじっこで待っていた。
「ソフィーのドレス、とっても素敵!ウェールズ伯が送ってくださったの?」
テレサに褒められたこのドレスは、お父様とフィリップ兄様がリブリア学院に入学するときにプレゼントしてくれたものだ。ウェールズの領地を彷彿とさせる薄緑の綺麗なドレス。チュールが重なって花の刺繍が散りばめられている。
「そうなの。お父様と兄様が、学院に入学するときのお祝いに。
テレサもかわいい。淡いオレンジ色があなたのブロンドの髪によく合っているわ。」
テレサは少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった。
二人でしばらく談笑していると、
「テレサ、ちょっと向こうで話さないか?」
別のクラスの男子生徒が話しかけてきた。
「すぐ戻るから!ごめんね、ソフィー」
「私のことは気にしないで。頃合いをみて寮に戻るから、また明日会いましょう」
テレサはお転婆だけど、とても可愛らしい人でみんなに好かれている。クラスでも人気者で、きっと今日のパーティーも沢山お誘いがあったはずだ。
でも、私があまり気乗りしていないからここまで一緒にいてくれた優しい人。せっかくだしテレサに楽しんでほしい。
「そろそろ7時か...、途中で抜けるのは良くないみたいだけど、早く帰って読みたい本もあるし」
こっそりと大広間を抜けて、女子寮を目指して中庭を歩く。
夜風がひんやりして気持ちがいい。さっきまでの熱気が冷やされていく。
月が明るく、芝生も青々として見える。
よく見ると、芝生の上に誰か倒れている。
ソフィーはすぐさま駆け寄って、
「大丈夫ですか!?」と声をかけた。
驚いたことにそこにいたのはエドワードだった。
「具合が悪いわけじゃないんだ。驚かせてすまない」
エドワードはソフィーのことをじっと見た。
「ここでなにを?」
彼の質問にソフィーは少し困った顔をしつつ、「パーティーを抜け出してきたのです」と答えた。
「お休みのところをお邪魔してごめんなさい。それでは...」
ソフィーは軽く会釈をして寮に戻ろうとした。
「...花を咲かせる魔法」
エドワードがため息混じりに呟いた。
「俺は君の魔法が好きなんだ」
突然の言葉に、ソフィーは振り向いて彼の顔を見た。
彼は優しい微笑みを浮かべながら、ソフィーを見ている。
「...ありがとう、ございます」
自分の魔法が魔法が褒められてうれしかった。
「よかったら、少し話さないか。パーティーもお開きの時間までしばらくある。寮に戻ったのがバレたらモリス先生に叱られるぞ」
確かに...。しばらくはここで待つしかなさそうだ。
エドワードが中庭の隅にあるベンチに向かったので、ソフィーは彼のあとについていった。
二人でベンチに腰掛ける。
「あの...ご挨拶をしていませんでしたよね。私、ウェールズ伯爵家の」
「ソフィー。君のことは知ってる。先日ウェールズ領であった兄君の結婚式に参列したから」
「そうだったのですね、失礼しました」
不意打ちに名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。
まさかエドワード様が私のことを知っていたなんて。
「この前、時計塔で君の魔法を見た。花を咲かせていただろう?ウェールズ領は美しい土地だった。君の魔法で守られてきた場所なんだな」
「ウェールズ家は代々、植物を育む魔法を使うんです。草木が豊かな、私の大好きな場所なんです」
「俺はグレンブルク家の人間だから、魔法は戦いのためにしか使ってこなかった。だから君の魔法を見たとき、本当に綺麗な魔法だと思ったんだ」
グレンブルク家は代々、炎の魔法を使って帝国の危機を救ってきた。貴族の家にはそれぞれの家を象徴する魔法が継承され、魔法を使って領地を治める。
水の魔法や光の魔法など、戦いに向く魔法を持つ家は武力を磨くが、私の植物の魔法は武力では劣る。そのため、貴族の中でもウェールズのように武闘派でない魔法を使う家は、見下されがちなのだ。しかし彼は、私の魔法を褒めてくれた。それだけでうれしかった。
ソフィーは真剣な眼差しで言った。
「エドワード様の魔法は、この帝国に必要不可欠なものです。あなたの魔法で、たくさんの国民が救われています」
「俺はこの力でいくつもの土地を焼き払ってきた。魔物の討伐や、敵国との戦いで。君のように誰かを幸せにできる力じゃない」
エドワードは悲しげに笑った。
この人は、どれほどの戦いをくぐり抜けてきたのだろう。こんなに優しい人なのに、背負っているものが大きすぎる。
ソフィーはエドワードの思いに少しだけ触れた気がした。
「...では、エドワード様の炎が焼いた地には、私が草木を生やします。あなたが救ったものを、私が守ります」
エドワードは目を開いてソフィーを見た。
そして彼女らしい答えにふっと笑った。
「ありがとう」
星が輝く空の下、二人はパーティーがお開きになる時間まで他愛のない話をした。
お互いの家のこと、友人のこと、魔法のこと。
エドワードは口数は少ないものの、ソフィーの話を聞いて柔らかく笑ったり、相槌を打った。女子に囲まれるのが苦手で、パーティーもソフィーと同じように抜け出したのだと打ち明けた。
はじめて知るエドワードという人物に、ソフィーは少しずつ惹かれているのを感じていた。




