幸せの再来
今年も田畑の収穫は大丈夫だったようだ。あんなに届いていた嘆願書もほとんど届かなくなっていた。
エドワードと領地の視察に行ってから数ヶ月経った今は、作物の収穫はシーズンを終えて落ち着き始めていた。
あれから私の植物を育てる魔法を頼る人たちのため、ひとつひとつ現地に赴き解決法を相談したのだ。グレンブルク領以外からも嘆願書が寄せられていたので、しばらくはエドワードも私も忙しかった。
魔法を使わずともなんとかなった地もあれば、私の魔法でもどうにもならなかった地もあった。
それでも領主直々に視察に来て相談にのるものだから、私たち夫婦は帝国の民から「慈愛にあふれた最強夫婦」だなんて言われているらしい。
私は一時お休みしていた帝国軍の復興部隊の任務に少しずつ復帰していた。
グレイシア帝国の北側は雪山がそびえたち、冬になると度々雪崩の被害がある。被害を少なくするため、雪崩を食い止める強い樹木の開発を帝国軍本部でしているのだ。
今日も研究を終えて侯爵邸に帰ると、エドワードとヴェルダーが走って玄関までやってきた。
「おかえり、ソフィー」
「おかあさま、おかえりなさい!」
私は二人を抱きしめて「ただいま」と言った。
いつものように夕食を3人でとっていると、エドワードが私を心配そうに見て言った。
「...最近、軍本部の仕事が忙しそうだな。大丈夫か?無理をしないでくれ」
エドワードが私の顔を覗き込む。ヴェルダーもつられて心配そうにした。
確かに最近少し疲れていた。食欲もあまりない。
「大丈夫。ヴェルも心配しないで、ママは元気だから」
ヴェルダーを寝かしつけた後、私はいつものようにエドワードとゆっくりしていた。
ハーブティーを飲もうとしたとき、いつものお茶なのに変な香りがした。
「あれ?なんだか匂いが変ね。エドワード、飲まないで」
エドワードはもうすでに口をつけていたようで、
「別に変な味はしないが...」
そう言ってハッと何かに気づいたかのように一瞬考えて私の顔を見た。
「...ソフィー、もしかしてなんだが、妊娠してないか?」
エドワードに言われて私も思わずお腹に手を当てた。
そういえば、ヴェルダーのときと同じ感覚...、
思わずエドワードに抱きついた。
「もしかしたら、赤ちゃんかも...」
エドワードは声にならない叫びをあげ、私を抱きしめた。
翌日、エドワードが呼んでくれたお医者様に診てもらうと、やはり私は妊娠していた。
「おめでとうございます、奥様。...ただ、前回のご出産がだいぶ危ないものだったため細心の注意を払いましょう」
お医者様が注意すべきことなどを教えてくれた。
正直、ヴェルダーのときの出産が痛くて怖くて死んじゃうかと思ったので、今から怖い。
そんな私の不安を察知したのか、エドワードが私の手を包み込んだ。
「...大丈夫だ。君のことは必ず守る」
きっとエドワードのほうが恐れているに違いない。あれだけ産後もトラウマになってしまっていたのだから。
私はエドワードを見て明るく言った。
「そうね、大丈夫よ。だってあなたがついているし、ヴェルダーだっているんだもの。元気に生まれてくれるって信じてるわ」
私はお腹に手を当てた。エドワードもその上から手を当てて、「無事に生まれてくれ」と言った。
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私のお腹も少し目立つようになり、みんなから祝福してもらった。ヴェルダーも私と赤ちゃんのことを気遣ってくれて、優しくお腹を撫でたり、布団をかけたりしてくれた。
エドワードはいつもハラハラして、私についてくる。私が少しでもよろけようものなら、すかさず飛び出してくるのだ。
そんな彼の様子に執事長や侍女たちはクスクス笑っていた。
「...なつかしいですな。ヴェルダー坊ちゃんをご懐妊されたときも旦那様は奥様から離れたがらず...」
執事長が目を細めて言う。
そうなのだ、ヴェルダーのときもエドワードのソワソワっぷりは異常だった。
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エドワードと結婚して数ヶ月が経とうとしていた頃-
私はいつものように帝国軍本部の復興部隊で、魔物との戦闘があって荒れた大地を再生させていた。少しずつ戻っていく草木を見渡していたとき、視界がぐにゃりと歪んでそのまま倒れてしまったのだ。
それから侯爵邸のベッドで目が覚めると、エドワードが青白い顔で私の手を握っていた。
あとからカイン様に聞いた話では、駆けつけたエドワードが倒れた私をお姫様抱っこで医局まで運んだらしい。そのときのエドワードの必死な顔が、隊員たちの間で噂になっていたそうだ。
結局、侯爵邸でお医者様に診ていただいたらヴェルダーを妊娠していることがわかって、エドワードは喜びのあまり目に涙を溜めて悶絶していた。
お医者様に落ち着いてと宥められて、しばらく別室に連れて行かれていた。
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あのときも仕事の合間に私の顔色を確認しに来て、執事長が仕事にならないと怒っていた。
「...奥様、ご無事の出産をお祈りしておりますぞ」
「ありがとう。エドワードのこともよろしくお願いします」
「かしこまりました」
執事長は優しく笑いながら、なんとか私とヴェルダーとの時間を作ろうと溜まった書類を裁くエドワードに軽食を差し入れに行った。




