彼の家の秘密
久々の再会をみんなとひとしきり喜んで、私はエドワード様とウェールズ伯爵家の敷地を散歩していた。もう夕暮れ時で、オレンジ色の空が山々を照らしていた。
「今日はありがとうございました。みんなエドワード様に会えて本当にうれしそうでした」
「俺もソフィーの家族にご挨拶できてよかった。それにソフィーと二人でウェールズの領地を訪れることができてうれしいよ」
繋いでいた手を持ち上げて、私の手にキスをする。
エドワード様は小さく笑いながら言った。
「...君の家族は温かくてみんな君を愛してるんだな。今日はそれを感じて、ソフィーのことをもっと大切にしていかないとって気持ちになった」
「俺の家族のこと...たぶん気にしているよな。心配させてごめん。...聞いてくれるか?」
彼の目がこちらを向く。空のオレンジ色が気にならないくらい真っ直ぐに私を見ている。
「はい」私は覚悟を決めて言った。
「俺の家族は、今は母だけだ。父は三年前に隣国との紛争で亡くなった。それから母は精神を患い、今はグレンブルク家の別邸で暮らしている。父を失った悲しみから立ち直れずにいるんだ。...グレンブルク家が不安定になると、領地や帝国にまで影響を及ぼす。俺が当主として表舞台に立つまでは、父の死を隠すことになったんだ」
「...そうだったのですね。だからエドワード様が侯爵家のお仕事を...」
彼が学院の休日にも忙しくしていたのは、すでに侯爵家の当主として働いていたからだった。
その大変さを思うと、涙が溢れ出た。
「...お父様のことも、お母様のことも...色々なことを抱えていたのね...」
エドワード様は私の涙を拭いながら優しく言った。
「...だから、家のことでソフィーには苦労をかけるかもしれない。でも、君のことは俺が幸せにしたいんだ。俺と結婚してくれますか」
彼が私の右手の薬指に、真っ赤なルビーの指輪をはめる。
「...っはい。どんなことがあっても、私はあなたと一緒にいたいです」
私は止まらない涙を拭うのをやめて、エドワード様を真っ直ぐ見た。
オレンジ色の夕日の中で、二人は抱き合って将来を誓い合った。
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もうすぐ真夜中になろうともいうのに、エドワードは眠れずに客間のテラスで夜空を眺めていた。
プロポーズを受け入れてくれたソフィーは本当に綺麗で、心の中で何度もあの笑顔が思い浮かぶ。
「...本当に...ソフィーに出会えてよかった」
エドワードは天を見上げて感謝した。父の死後、グレンブルク家の当主代理として魔物の討伐に参加していたことでリブリア貴族学院に入学するのが一年遅れた。しかし、それが彼女と巡り合わせてくれたのだ。
「父上、俺はもう大丈夫です」
エドワードは天国の父親に向かって笑顔を見せた。
ちょうどそのとき、部屋をノックする音が聞こえた。
「はい、どなたですか?」
こんな時間に誰だろう、とドアに向かう。
「...まだ起きているかい?よかったら、付き合ってくれないか」
ソフィーの父だった。
「僕も父上とゆっくり話したいと思ってました」
そう言ってエドワードはソフィーの父を客間に招き入れた。
二人はソファに腰掛けて、ソフィーの父が持ってきた酒を飲んだ。
「...娘は、ソフィーは学院ではどんな様子ですか?」
「何事にも一生懸命で、頑張っています。誰にでも優しくて...」
「そうか...妻が亡くなってから、あの子には苦労をかけてしまった。人並み以上の魔力を持っているから、余計に自分がウェールズを守らなければと必死だっただろう。領民のために薬草を育てたり、兄弟の面倒をみたり...。だからこそ、あの子には誰よりも幸せになってほしい」
ソフィーの父の思いを受けて、エドワードは姿勢を正した。
「僕が娘さんを必ず、幸せにします。どうか父上も見守っていてください」
エドワードは真剣な眼差しで言った。
「ああ、頼んだよ」
ソフィーの父はうれしそうにニッコリ笑った。
「それで、父上にお話ししておかなければならないことがあります」
エドワードは今日ソフィーに伝えた自分の家のことを、ソフィーの父にも打ち明けた。
「グレンブルク侯が...亡くなられていたなんて。最近お姿をお見かけしないとは思っていたが。...つらい思いをしたんだな」
「家のことでソフィーに迷惑をかけないよう尽力します」
「いや、君たち二人ならきっと大丈夫だ。娘と一緒に頑張りなさい」
ソフィーの父はそう言ってエドワードの肩に優しく手を置いた。
その手が温かく、エドワードは亡き父を思い出して涙ぐみながらソフィーの父に深々と頭を下げた。
結局二人は日が昇り始めるまでの時間、ソフィーの可愛さについて語り合い、翌朝は寝坊してソフィーに起こされるのであった。




