エドワードの悋気
ソフィーとエドワードは、ウェールズ伯爵家の裏山にあるソフィーの母親の墓に、墓参りにきていた。
「ここに私の母が眠っています」
ソフィーは花束を置いてそっと祈りを捧げた。
エドワードもソフィーの隣で静かに目を瞑る。
「お母様、この方はエドワード様です。私、彼と結婚します」
「母上、はじめまして。エドワード・ヴィス・グレンブルクと申します。娘さんは僕が幸せにします」
エドワードが真剣な眼差しで自分の母親に挨拶していることが、うれしくも気恥ずかしくて、ソフィーはエドワードの腕にそっと手を添えた。
エドワードがその手を握る。
「私、幸せになるわ。どうか見守っていてね、お母様」
返事をするかのように風がざあっと吹き抜けた。
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「明日の朝、ここを発つ予定だけど...エドワード様は何かしたいことがありますか?」
庭で走り回ってヘンリーの遊び相手をしているエドワードにソフィーが水の入ったコップを差し出しながら尋ねた。
いつの間にかヘンリーとエドワードはすっかり仲良しになり、暇さえあれば二人で遊んでばかりだ。
水を飲んでエドワードは答えた。
「そうだな...君と町にでかけてみたい。いいか?」
「もちろんです!」
ヘンリーが「いいな!僕も!僕も!」と間に入ってきたが、エマがすかさず「坊ちゃんは家庭教師の先生がいらっしゃる日なのですからお勉強しますよ」とヘンリーを連れていってしまった。
「...かわいそうだが、勉強は大事だしな」
「ええ、今日は二人きりでデートしましょう」
そう言って二人は笑い合った。
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ウェールズ伯爵家から馬車で30分ほど行くと、ウェールズ伯領最大の町、ブランツィアについた。
エドワードとソフィーは商店をめぐり歩いていた。
「あら!ソフィーお嬢様!お戻りになっていたのね」
パン屋さんのおかみさんがソフィーの来店に喜んだ。
「こちらの素敵な殿方は......」
エドワードを上から下へ見て顔を赤らめる。
「ソフィーの婚約者のエドワードです。よろしく」
エドワードが一歩前に出て挨拶をした。
「まぁまぁまぁ!お嬢様、おめでとうございます」
まるで自分の娘の祝い事であるかのように喜ぶ。
町の人々もみんな祝福してくれた。
「ソフィーお嬢様がイケメン婚約者とデートしている!」そんな噂を聞きつけてみんなが二人にお店の品物をサービスでくれて、すぐに両手いっぱいになるほどだった。
二人で噴水の縁に座ってもらったばかりの串焼きをたべていたときー
「ソフィー!?」
突然名前を呼ばれてびっくりしたソフィーが顔を向けると、そこには町で医者をしているクリストファーがいた。
「クリス!?久しぶりね...!お医者さんになれたって聞いてたわ...」
「...ああ、医者になったら君に一番に報告するって言ってたのにな......会いたかった」
クリストファーは喜びのあまりソフィーを抱きしめようと手を伸ばした。
するとエドワードの手がソフィーを引っ張る。
「...失礼。ソフィー、こちらの方は...」
ソフィーが慌てて答える。
「こちらは私の幼馴染のクリストファーです。幼い頃によく遊んで...私が薬草を育てて、クリスがそれを一生懸命勉強して、お医者さんごっこしていたのよね」
ソフィーが幼き頃の思い出を懐かしみ、柔らかく笑った。
「クリス、こちらは私の...婚約者のエドワード様」
「エドワード・ヴィス・グレンブルクだ」
「婚約者......」クリストファーがわかりやすく落ち込んでいることに、エドワードは心の中がモヤモヤした。
「...そうか。おめでとう、ソフィー」
クリストファーは肩を落として去っていった。
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しばらくエドワード様の機嫌が悪い。機嫌が悪くてもいつも通り優しくしてくれるが、私にはわかる。
町からウェールズ伯爵家に帰ってきても、なんだかいつもと違う気がする。
夕食後、テラスでひとり空を見ていたエドワードにソフィーが近寄った。
「エドワード様...お疲れですか?なんだか元気がないような...」
エドワードが何かを我慢したかのように苦い顔をして、「君にはなんでもお見通しだな」と言った。
「...昼間の男...医者の」
「クリスですか?」
「仲が良いんだな」
「はい、幼馴染ですから。彼のお父様が町で薬を売っていて、私の育てた薬草をよく買いに来てくれたんです。クリスもそのときついてきて...たくさん遊んでくれた兄のような存在です」
「...あの男は、君のことを妹とは思っていないようだったぞ」
エドワードがぶっきらぼうに言い放つ。ソフィーはこのとき、エドワードが自分とクリスの仲に嫉妬していることに気づいた。
「クリスとはただの幼馴染です。そんな関係ではありませんよ。...私はエドワード様のことをお慕いしているんですから」
「...あの男のことはクリスって親しげに呼ぶのに、俺は『エドワード様』なのが嫌なんだ。エドワードと呼んでくれないか」
ソフィーは顔を真っ赤にして焦った。
「いきなりは無理です!恥ずかしいもの......」
エドワードは不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「もう!エドワード様のわからずや!クリスは私の大事な幼馴染なんです!勝手に嫉妬しないでください」
エドワードがソフィーの顔を見たときにはもう遅かった。彼女はリスのように頬を膨らませて、ぷんすかと音が聞こえそうなくらい怒っていた。
「い、いや...その.......」
エドワードは必死に弁解しようとしたが、こんなに怒った彼女は見たことがなく、どうしていいかわからないまま目が泳いだ。
そのままソフィーはプンプンしながら部屋に戻ってしまった。
ひとり取り残されたエドワードは
「...参ったな。可愛すぎる......」といつものように彼女への愛しさから悶えていた。
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「結局、あれから一週間ほど口をきいてもらえなかったんだよな」
トルディアからの帰り道、馬車の中でエドワードとソフィーは学院時代を思い出していた。
「エドワードが私とクリスの仲を疑ったことがショックだったんです!それに......あなたから名前を呼び捨てにしてほしいと言われて練習していたの...だから上手く話しかけられなくなって......」
エドワードは話してもらえなかった一週間、ソフィーが自分を呼び捨てにする練習をしていたことに、思わず口に手を当てて横を向いた。
「...可愛すぎるだろ......」
エドワードがぼそっと呟いたが、ソフィーには聞こえていなかった。
ソフィーが「今度はヴェルダーも連れて来ましょうね」と景色を眺めながら言った。




