クリミナの半日常
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ハーリングから数時間、近くに小高い丘のある中規模の村。
クリミナの特徴として村には名前が無い事が多い、呼び名が必要な時はその近くで特徴的な物で呼ぶ、だからこの村は丘の村と呼ばれる事が多い。
街と村の区分は外壁の有無、壁が無ければ村で壁があれば街、ここは他の国と同じ。
後は人口と、それから魔動機の普及率も関係してくるらしい、この辺りは詳しく知らない。
「……この話、前にもしませんでした?」
「そうだっけ?」
目的の村に着くまでの間の移動中、そんな話をしていた、主にクリミナの雑学っぽい事の話、初めてクリミナに来た時にも同じ話をした気がする
「いつも通りで?」
「いつも通りで」
クリミナではよく使っている手段、場所と相手に合わせてどっちかが付き人って事にする。
同席するのにも嫌悪する人がいるけど、それはあくまで対等な立場だった場合、世話係とか付き人とかの上下関係があると嫌悪されにくい。
する方もされる方もいい気分ではないけど、揉め事になるよりはずっといい。
今回は獣人の方が多い村のようだから聞き込みとかそういう人と関わる事はビバさん中心でしてもらう、南部の地域だから大丈夫とは思うけど念のため。
格納機を借りれなかったから村の入り口にあった納屋に魔動機を止めさせてもらった、入り口の衛兵に納屋を借りる際に冒険者である事を説明すると
「あーハーリングにある飯屋の、仕入れだったら村長に聞きなね、この先にある一番大きい家がそうだから」
と、やっぱり飯屋としての認識が強いようだった、エンブレムなんて見せても身分の証明にならないから口頭だけの説明で十分だろう。
「それで目撃した人は?」
「今から探すとこ、すみません、ちょっといいですか?」
ビバさんは聞き込み、私は環境や周囲の状況の確認、とはいえ何か問題があって来た訳じゃないから当たり前だけど村の様子は平和なものだ。
気になったのは村の中を歩いていると視線を向けられる事が多い、外部から人が来ることも珍しいんだろうけどそれが竜人なら尚更。
それから少し村の中の雰囲気が浮わついている印象、昨日言っていたクルクスでの暴動の影響も無さそうだ。
他に気になるのは街灯用の魔動機の施工予定らしい目印が書かれた場所が少し目についたぐらい、インフラの整備中なんだろうか。
ビバさんの方はと言えば、目的の人を探すついでに何か変わった事が無いか聞いている、聞き流しているだけだけど近い内に大掛かりな工事の予定があるらしい、何人かの話を聞く限りでは外壁の設置が決まったようだ。
ティルの事も聞いてくれているみたいだけど、それらしい情報は無し。
「当たり前だけど、特に異変らしい異変はないね」
「ちょっと浮わついてる感じはありますけどね」
そういえば村から街になる所を見るのは初めてだ、街になる時の名前はいつどうやって決めるんだろうか。
しばらく歩いていると村の入り口からほぼ反対側の丘の麓、放牧しているのか、何種類かの家畜の姿が見える。
少し小高い場所に黒い毛並みに白毛が混じった獣人の老人が持ち運びしやすそうな椅子に座っているのが見えた、獣人の外見年齢は若く見られがちだけど、遠目から見ても分かるぐらいには高齢だ。
麓を登り、老人の近くまで向かうと
「この辺に来ても面白いもんはないよ」
暗に早く帰れと言いたげに不機嫌な声音で答えた。
「竜を見たって手紙くれたのおじいちゃんで合ってます?」
ビバさんは構わず、送ってきた手紙を見せながら近付いて
「……あぁ、その、冒険者?って奴なんですかい、まさか竜人様が来るとはおもわなんだ、お付きの人間も一緒でよろしいんですか?」
「んー……まぁ、問題は無いかな、その時の事詳しく聞いていいですか?」
亜人主義の竜種信仰者って所だろうか、口を挟む訳にも行かないから話に聞き耳でも立てながら周りの景色を眺めていよう。
まとめると
・夕暮れ時に北に向かって飛んでいく姿を見た、飛んできた方角までは覚えていない。
・鱗の色は黒かったと思う
……分かっていたけど目撃情報だけだと得られる物はたかが知れてる、話のほとんどはじいさんの身の上話だ、残りの目撃情報と照らし合わせてそれからだろう。
「こんな所で大丈夫かな、何か分かれば連絡しますね」
「いえいえ、私も竜人様と二度もお話しできるとは思いませんでしたので」
「二度?」
「ええ、何か困ったらその、冒険者?に相談するように言ってくれたのも竜人様なもので」
「……どんな人でした?会ったらお礼言いたいんで」
特徴としては大柄の男、髪と鱗は黒、左右非対称の角が印象的だった事。
ここでの仕事はこれで終わり、予定より少し早いか、今から戻れば日が沈むまでには戻れるだろう。
「……竜種信仰って何なんです?」
納屋へ戻る途中、ふと思った疑問をビバさんに投げ掛ける。
「竜人って竜の使いらしいよ、そういう考え方って説明で大体伝わるかな」
「まぁ何となくは」
「とはいえクリミナに竜人はほとんどいないらしいんだけどね、昔はいたらしいけど」
竜が一番上で竜人はその使いだから敬う、そんな所か。
竜種信仰についてはそういうのがある程度の事しか知らない、子供の頃にそういう勉強をした気がする。
村の入り口まで戻ってくると何かあったのか、別の衛兵が門にいた衛兵の人に何かを話している所に出くわした、二人とも険しい顔付きで何か問題があったのは間違いなさそうだ。
「何かあったんです?」
「まさかお前らじゃないだろうな?!」
ビバさんが話を聞こうとするなり、もう一人の衛兵が今にも掴み掛かりそうな勢いで詰め寄るのを門番の人に抑えられた。
「他所者が怪しいのは分かるが捕まえるんならまずは証拠だ、早く他のにも伝えてこい」
そう諭されると渋々といった様子で引き下がり、あまり誠意のこもってない礼をした後離れていった。
「気を悪くせんでくれよ、移設予定の炉心ってのが盗まれたらしくてな、犯人が見つかるまで誰も村から出すなって話だ、悪いがあんたらも中に戻ってくれ、宿の手配はさせてもらうから」
「その話、詳しく聞かせてもらっていい?」
「詳しくって……あんたら飯屋だろ?こんなの聞いてどうすんだ」
「冒険者って飯屋だけじゃないんだよ」
改めて、ここだと本当に飯屋に思われてるんだな、と実感した。
それから付き人設定でやってるとはいえ、ここまで話を振られないと流石に気になる。
-2-
「ここだ、この中に置いてあったんだがさっき確認したら無くなってたらしい」
案内されたのは仮設の倉庫、街になる事が決まった際に作った物らしく、今は工事用の魔動機や資材を置いているそうだ。
街になった後は撤去する予定で、即席だが外装や鍵にはきちんと防犯対策された物を使っている、鍵がこじ開けられた形跡も無し、倉庫の周囲にも怪しい痕跡は見つからなかった。
「目撃者とかはいないんです?」
「あんな目立つのに見たってのはまだ見つかってないんだ」
最近は資材の搬入等で人の出入りが激しい場所だったらしい、人の目を盗んでやるにしても猶予はあまり無い。
一番の問題はどうやって中に入って、どうやって炉心を持ち出したか、
「あーそうだ、一応聞いときたいんだけど、炉心が何なのかって知ってる?」
「魔動機ってのを動かすのに必要なんだったか、あれ、合ってるよな?」
「うん、合ってる、ありがとう」
状況の説明はそのぐらい、後は現場を調べてみないと分からないだろう。
倉庫の中に入ると用途別に魔動機が並べられている、壁の端には資材が並べられていて整然とした印象だ。
その倉庫の奥、不自然に何もない場所があった、本来はそこに四角い何かがあったようでここからでも地面の境目がはっきり見える、大きさから考えても魔法で運べるようにするにはかなりの時間が掛かるか。
倉庫の中には現場を調べてるらしい人が一人、私たちに気が付くと一瞬怪訝な表情を見せ、こっちに近付いてくる。
「ランディさん、そいつらは?」
口調から既に私たちを怪しんでるのが滲み出てる、隠すつもりも無いんだろう。
「調査を手伝ってくれるそうだ、ここは任せて怪しいのがいなかったか聞いてきてくれ」
「……分かりました」
さっきと同じく渋々、といった様子で倉庫から出ていった、このランディって人はそれなりに発言力と立場が強い人のようだ。
「はぁ、そっちの人も誰か来るまでは普段通りでいいよ、俺はそういうの大丈夫だから」
そういう対応に慣れているのか、一度溜め息を吐くと困ったように頭を掻く。
「気付いてたんですね」
「見りゃ分かる、体裁上監視役として一緒にいるが期待せんでくれよ、こういうのは初めてなんだ」
「すぐに終わると思うよ」
気持ちを切り替えるように短く息を吐くと目を閉じた。
そのまま暫く経つと、何もしてないのが落ち着かなくなったのか、ランディさんが私に話し掛けてきた。
「なぁ、あれは何かやってんのか?」
「上手く説明は出来ないんで魔力調べてます、としか言えないですね」
「あれで分かるもんなのかね、さっぱり分からん」
「よしっ、大体分かったかな、ランディさんはもう戻ってて大丈夫、逃げられると面倒だし説明は後で」
「お、おう」
捲し立てるように説明すると急いで倉庫を出ていくビバさんの後を追う、正直さっきの説明だと何も伝わってないと思うけど、そこはまぁいいか。
倉庫から出たところで差し出されたビバさんの手を取ると真っ直ぐ空に向かって体が登っていく。
さっきまでいた村が片手で隠せる程度にまで上がると、ぐるりと周囲を見渡し何かを探す、明確な目的地が決まっていた訳ではないらしい。
「見つけた、すぐに追い掛けるから先行よろしく」
「はいはい」
ビバさんが腕を振ると何も無い平野の目掛けて体が強く押し出された、その先には今のところ何も見えない。




