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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
39/102

そんな理由

-1-


先に重しになっているベルをダレン爺の店まで連れていく。


流石にこの時間だと人通りはほとんど無い、今日の感想とか、その辺りの事を話しながらベルの絡みを適当に流しつつ四人並んで道を行く。


この時間だと寝てるかもしれないと思ったが、明かりが点いているからまだ起きているみたいだ。


「ベル、鍵」


「胸の裏ポッケよぉ」


言うだけ言って鍵を取り出さないベルの服に手を突っ込んで鍵を取り出す。


「そこはもちっと恥じらえぃ!」


ベルは無視して裏口の鍵を開け、玄関にベルを座らせると奥からダレン爺が水差しを持って来るのが見えた。


いつも通りの視線で私たちを見、ベルに水差しを渡すと


「いい加減酒の飲み方を覚えろ」


「へへっ、みんなで飲むとやっぱり楽しいからねぇ」


へらへらと笑いながら水差しを水が飛び散らない程度に振り回す。


「ダレン爺久しぶりー、私もお酒飲んでるよー」


メイが扉の影から顔を覗かせ、手をひらひらと振ってそう言うと


「そうか、もうそんな歳になるか、こうはなるなよ」


「ちゃんと節度持って飲むから大丈夫だよ、この時間まで起きてるの珍しいね」


朝が早く、夜も早い、そんな生活習慣だったと思う。


「ただの気紛れだ、ともかく手間を掛けさせた、出発は昼だ、寝過ごすなよ」


「ん、また明日」


「おやすみー」


「へい、おやすみぃ」


立ち話を手短に済ませ来た道を戻っているが沈黙が妙に長い、何か話すネタが無いか考える。


今日の事はもうそれなりに話した、他の事がいい。


「そう言えば聞けてなかったんだけど、なんでマーチェスに行きたいの?」


何か言おうと考えているとメイに先を越された。


ラズリアが聞いた時は適当に誤魔化していたが、私も少し気になっていた。


ラズリアの言っていたようにはっきり何かをしたいと言ってくるのは少し珍しい、ような気がする。


「……何で私と暮らす気になったのか、教えてくれたら教えてあげる」


「ティルにまだ話してなかったんだ?」


「あんまり言うような奴じゃないしね……」


メイには話したが、その時少しからかわれた。


自分でもどうかと思う、だからこの事はあんまり話す気にはなれない。


のだが、ティルがじっと私を見つめてくる、無言の圧力を感じる。


「裏があるとかそういうんじゃないんだよ?でも、そんな理由なんだ!?ってなっちゃったから、ね?」


メイがフォローしてくれたが、にやけた顔を私に向けてくる。


「なら別にいい」


わざとらしく拗ねた様子でそう言われると言わない私が悪者みたいに感じる。


少しだけ早歩きになったティルの横に並ぶと歩調を抑え、私を見上げてくる。


「いや、本当に大した理由じゃないんだよ、ティルと初めて会った日に夢でティルみたいな子を見たからってだけ」


「ね、本とかでありそうな奴だよね」


「……そう」


思っていた以上に反応が薄かった、とはいえこう言われてどうしろと、と言うのはある。


「じゃあティルの番、何か理由あるの?」


「やっぱり秘密」


「あ、ずるっ」



-2-


「今日はありがと、また明日……じゃないんだよね」


「マーチェスに行くだけだから、大丈夫だよ」


「うん、あんまり危ない事しないでね、おやすみ」


メイを部屋まで送り、後は帰るだけだ。


後片付けとラズリアが部屋に残っているがまぁ問題ない、片付けは明日に回すかもしれない。


そろそろ歩き疲れてそうなティルを抱き上げ、静かな帰り道を歩く。


「やっぱり話す気にならない?」


肩に顎を乗せているティルに聞いてみるが何かを考えているようで


「……人に会いに行く」


「人?」


「うん、孤児院で会った、今はマーチェスにいる」


「……この前ベルが言ってた竜人の子?」


何となくそんな気がして聞いてみると小さく頷く。

里親が見つかった、と言うことだろうか。


「そっか、うん、教えてくれてありがと」


部屋まで戻ると机に突っ伏していたはずのラズリアの姿が見えない、寝室の方を見てみるとソファーに転がり込んで眠っていた。


そう言えば寝る場所の事を考えていなかった。


ソファーは使われている、ベッドは……二人で寝るには少し狭いように思う。


とりあえず、先に少し残ったつまみと酒を片付けてしまおう。


席に座るとティルも対面に座った、グラスを片手にまだ起きているつもりのようだ。


「じゃあ、二次会ってわけじゃないけど、二人でこれ終わらせようか」


「乾杯?」


首を傾げてをグラスを差し出してくる、それに答えて私もグラスを手に取り


「じゃあ改めて、乾杯」


軽くグラス同士をぶつけ合うと高く短い音が聞こえた。


さっきまでとは違って二人だけの静かな物だ。


「私の夢ってどんなの?」


「どんなだったかな……手を握られて何か言って、それだけだったと思うよ」


聞いては見たがあんまり興味が無かったのか、特に答えずグラスを傾ける。


それからは普段の事、孤児院の事、その竜人の友達の事、他愛のない話をしているとつまみと酒が切れた。


ティルも丁度ジュースを飲み終えたみたいで手持ち無沙汰気味に少し眠そうにしていた。


「お風呂入る?」


「朝入る」


なら私も明日にしよう、片付けも簡単に済ませ、今日はもう寝よう。


お互い寝る準備を手早く済ませると、二人並んで寝室の入り口でどうした物かと立ち尽くす。


少し考えているとティルが先にベッドの端に腰掛け


「一緒に寝るのでいい」


ティルがそれでいいならそうしようか。


ティルがベッドに横になると、私も邪魔にならないよう隣に寝そべる、が狭い。


すぐ横にティルの顔がある、何となく向かい合うのは恥ずかしくて背中を向ける。


「おやすみ……」


酒が入っているせいか、すぐに寝てしまった。

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