第7章:夜の缶詰配給と、軍袴に隠された最高機密
1.星空の下の贅沢な配給
「よし、開いたぞ。これがアメ公の『Cレーション』というやつだな」
佐藤上等兵が三十年式銃剣を使い、缶詰の帯鉄を巻き取り鍵でぐるぐると器用に巻き取っていく。パカッ、と小気味良い音を立てて蓋が開いた瞬間、私は思わず目をキラキラと輝かせた。
緑色の鉄缶の中から現れたのは、ずっしりとしたお肉の塊(ポーク&ビーンズ)、そして別の缶からは、綺麗に包装されたビスケット、色鮮やかなキャンディ、さらにはタバコやマッチまでがセットになって入っていたのだ。
「現代のコンビニみたい……!」
ハンバーガーやおにぎりとは違うけれど、戦場とは思えないそのアメリカ軍の超豪華な内容物に、本とマンガが大好きな私の胸は高鳴りっぱなしだった。
「ふむ、実に見事な保存食だな。だが、今後の持久戦を考えれば、一度にすべてを開けるわけにはいかん。今夜はこれくらいにしておこう」
佐藤上等兵は軍人らしい冷静さで配給を制限すると、お肉の缶詰を私に差し出してくれた。
私は削った小枝でお肉をつつき、口に運ぶ。
「……んん、美味しいっ……!」
口いっぱいに広がる濃厚なお肉の旨味。焚き火の温かさも手伝って、私は自然と満面の微笑みを浮かべていた。
「美味しいな……。本当にありがとう、ロロちゃん」
夜の海のどこかにいるであろう金髪の人魚ちゃんに、心の中でそっと感謝の言葉を呟く。
――が、そんなあたたかい感動の時間を、あの男がぶち壊した。
ん?
お肉をモグモグと食べながら、私は妙な違和感を覚えて視線を動かした。
そこには、ロロちゃんが持ってきてくれた網の奥から、小さな袋を「サッ……」と、まるで万引き犯のような、信じられないほど怪しい手つきで自分の軍袴にねじ込んでいる佐藤上等兵の姿があった。
ガチの皇軍兵士が、深夜の無人島でコソ泥のような動きをしている。
私の冷ややかな視線に気がついた瞬間、佐藤上等兵は「ハッ!」として、バツの悪そうな顔で一瞬にして真っ赤に染まった。彼の日焼けした額から、尋常ではない量の汗がダラダラと噴き出し始める。
「……何ですか? それ」
私はお肉をモグモグする手を止め、完全にジト目で彼を問い詰めた。
「い、いやいや……! なんでもない! ご婦人には、まったくもって無関係な物さ!」
佐藤上等兵は手を左右に激しく振りながら、見たこともないほどの狼狽ぶりで早口でまくし立てた。
「その……何というか、もしかしたら、後々ロロ殿と共に……使用する機会がある、かもしれんと思ってな。念のためにだな……!」
「何だそれは? 怪しいクマ。男ならコソコソ隠さずに、今すぐここに出すクマ‼️」
流木の上からクマちゃんが容赦ない突撃をかまし、短い足で床をドンと叩いた。
「く、クマ殿! いや、これは本当に女子供には関係のない物だと言っているだろうがァァーーーッ‼️」
完全に図星を突かれて焦り狂った佐藤上等兵は、顔を般若のように真っ赤にしながら、逆ギレに近い大絶叫を夜のジャングルに響かせた。
2.暴露された二つのゴム
「――佐藤上等兵さん。往苦しいわよ。覚悟して、今すぐそれを出しなさい」
「ひゃいっ!?」
突如、夜の波打ち際から、冷徹で、地獄の底から響くような美しい声が聞こえた。
いつの間にか、海の闇から金髪人魚のロロちゃんがひょっこり顔を出し、焚き火の明かりの届かない影から、私たちの会話にじっと聞き耳を立てていたのだ。
ロロちゃんはサファイアブルーの瞳を妖しく光らせ、腕を組んで佐藤上等兵をキッと睨みつけた。
「私と(・)使う(・)物なのでしょう? 命の恩人を便利屋扱いした上に、今度は夜の闇に紛れて私と一体何をするつもりだったのか、詳しく聞かせてもらおうじゃないの!」
「ロ、ロロたん……っ! いや、これは、その、断じて破廉恥な意図は――」
佐藤上等兵は、略帽の上からリアルに湯気が噴き出るんじゃないかっていうくらいの、文字通りの『滝汗』を頭からブワッと流してガタガタと震え出した。戦場で敵の包囲網に捕まったときだって、ここまで狼狽したことはないだろう。
「出すクマ! 早く出すクマ!」
「出しなさいよ、このド変態!」
クマとロロちゃんからの容赦ない同時挟み撃ち。
「ううむ……! 観念した! ほら、これだッッ!!」
極限まで追い詰められた佐藤上等兵は、涙目でヤケクソ気味に絶叫すると、軍袴のポケットからその「最高機密」を掴み出し、砂浜の上に勢いよく差し出してみせた。
焚き火の光に照らされて、彼の無骨な手のひらの上にぽつんと並んだのは――。
米軍のマークが印刷された、防水パッケージ入りの『2個のコンドーム(避妊具)』だった。
「…………」
静まり返る、南国の美しい夜の浜辺。
パチパチと爆ぜる焚き火の前で、現代の不登校スウェット少女である私は、本日二度目の「人生で一番見てはいけない大人の実物」を目撃してしまい、頭からパァァァッと湯気が出るほど顔を真っ赤にして、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
(第7章・完)




