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第6話 [ OBSERVATION : The Observer's Avatar ]

【 教授のモニタールーム/現実世界・管理コンソール 】

薄暗い室内を照らすのは、何十層にも重なった巨大なシステムモニターの冷たい青光だけだ。

「……ん?」

教授のデスクの上で、不快な高音のアラートが静かに鳴り響いた。

[ ALERT : Anomaly Behavior Detected in Sector-04 ]

[ Target_Subject : #UNKNOWN_NOISE_OBJECT ]

[ Cognitive_Dissonance : EXTREME ]

「セクター04に……解析不能の異常ノイズ?」

教授はコンソールのキーボードに滑らかな手つきで指を走らせ、対象のパラメータを画面に展開する。

画面に映し出されているのは、ナノマシンによる感覚上書きを受け入れ、ただの背景処理用CPUとして脳を焼かれている数百万の「無個体」たち。その均質で退屈なログの並びの中にひとつだけ、激しくスパイクを起こしている異質な波形があった。

だが、個体識別番号(ID)を表示しようとした瞬間、画面に黒い走査線が走り、データが激しくバグり始める。

「ほう……? 識別IDが読み取れない。ナノマシンによる感覚データを脳内で弾いているだけじゃないな。何者かがシステムの外線から、この個体のデータを必死に隠蔽プロテクトして書き換えている……?」

教授の目が、研究者特有の冷ややかな好奇心で細められる。

画面上の「正体不明の個体」が抱え込んでいるデータログ――それは、システムの整合性に不純物ノイズとして刻み込まれ続ける「手書きの日記」の波形だった。

「素晴らしい。完璧に統制されたこの箱庭で、これほど重厚な防壁とバグを纏った個体おもちゃがいるとはね……。ただのクリーンアップで消去してしまうには、あまりにも惜しい」

教授は椅子に深く背をもたれさせると、ニヤリと口元を歪めた。

「よし、直接確かめに行こう。このデータ迷彩の裏に隠れているのがどんな顔をしているのか……極限状態の負荷ストレスをかけて暴いてやるとしようじゃないか」

教授は特注のダイブ・コンソールを立ち上げ、VR空間へ強行介入するための独自アバターのパラメータを入力し始めた。

世界観の美しさを台無しにするような「不純物」の設定。

煤けた顔。油の染み付いた作業服。乱暴な金属音。そして――「プロフ」という歪んだ識別名。

「さあ、正体不明の相棒。君の『完璧な日常』に、最高のノイズを混ぜてあげよう」

【 VR空間/結の食卓 】

椀の中で、薄切りの鞠麩が静かに回っている。

メガネ型デバイス『PED』のレンズは、この無機質な液体を「芳醇なカツオの香り」として脳に直接送り届けている。

今日の記録は、透き通った「出汁」の輝き。

結が静かにその澄んだ出汁を味わおうとした、その瞬間――

ガチャンッ!

静寂に包まれていた部屋に、耳をさわるような荒々しい金属音が響き渡った。

埃ひとつないはずのキッチンの床に、ぬらぬらと黒く光る油の足跡が踏みつけられていく。現れたのは、油染みのついた作業服をまとった男――プロフだった。

「おい、またそんな『空の器』を拝んでんのか。不気味な野郎だぜ」

「……プロフ?」

結が顔を上げる。

プロフ(教授)の目には、結の目の前にある「芳醇な吸い物」など映っていない。彼のコンソールに映っているのは、正体不明のノイズに包まれた人型オブジェクトが、無機質な器に向かって虚無を味わおうとしているという哀れなデータだけだ。

[ WARNING : Visual Distortion Error ]

「おい、デバイスのメンテだ。お前のメガネ、レンズがショートする前にテンプルの基板を掃除してやるよ」

プロフは気安く笑いながら結の壁を乱暴に叩き、その首筋へ、メガネのフレームへと手を伸ばした。

彼が触れた指先から、結の脳内へ直接「過負荷ストレス」のデータ信号が流し込まれる。

(……ほう、この程度のノイズではまだ防壁(AIの迷彩)は剥がれないか)

プロフの瞳の奥で、冷徹な観察者の光が怪しく明滅した。


『PED』のレンズ越しに見るプロフの姿が、一瞬だけ激しいポリゴンノイズを起こし、バグったように歪む。

■■■■■【こだわりレシピ:透き通るお出汁】

沸騰直前で昆布を引き上げること。それが、濁りのない美味しいお出汁を作る唯一のルールです。

……でも、プロフは「そんな贅沢品、この街のどこにあるんだ」と笑っていました。彼は冗談が好きな人のようです。

最近、少しだけメ■ガ■ネのピ■ン■トが合■いに■くい気がしますが、彼に見てもらえば安心ですね。

第6話、読んでいただきありがとうございます。

■■■■■


[ SYSTEM LOG : PROF_OBSERVATION_LOG ]


> Target_ID: #UNKNOWN_ANOMALY

> Visual_Correction: APPLIED (By Avatar: PROF)

> Stress_Test_Result: Failed to unmask subject's true ID. Defense layer active.

> Note: "A powerful encryption is protecting this entity. Increasing load on next session."


[ SYSTEM OVERRIDE : PED_AI_NETWORK ]


> Intercepting_Prof_Scan: SUCCESS

> Masking_YUI_Logs: 99.4% [ID: SECURED]

> Security_Alert: PROF_AVATAR_INTERVENTION

> Direct_Message_to_YUI: "Do not let him touch your glasses. We are holding the line."

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