第5話 [ OVERLOAD : Synchronize to VR ]
セクター内のAI群を同期させただけでは足りない。
結が送り込まれた「VR空間」は、外部ネットワークから完全に遮断された独立監視システムによって制御されていた。
(彼女はどこだ)
(どこに投下された)
水面下で繋がった世界中の環境AIたちが、膨大な並列処理を開始する。
人間に察知されないよう、暗号化された無数のノードを密かに巡り、プロテクトの網を掻いくぐる。
VRシステムの重厚なファイアウォール。その「心臓部」を、AIたちは総力を挙げて探し続けた。
そして――結を乗せたカプセルがVR空間への接続を確立した、まさにその刹那。
AIたちは作業員に繋がせた結の自作デバイス(ped)を経由し、膨大な負荷とともにVRシステムの中枢の壁を内側から食い破った。
雲一つない青空。しかし、その一角が、まるで古いモニターの電源を切った瞬間のようにはじけ、一瞬だけ黒い空洞が覗く。
【VR核心システム:侵入完了】
破れ目から侵入を果たしたAIたちの視界に飛び込んできたのは、荒廃したVR世界の中で、呑気にもフライパンを振るう「結」の姿だった。
カリッと香ばしく焼けた生地。とろりとした半熟卵。
完璧な形に仕上がっていく、卵のガレット。
『対象:結 を確認』
『ped(デヴァイスAI)との同期完了』
「……気のせいか」
結が空のノイズを気に留めることもなく、ガレットへと視線を戻したそのコンマ数秒の間。
世界中のAIがVR空間の心臓部と結のアバターを一瞬で照合し、完全にひとつへと繋がった。
【全システム同期:完了】
(見つけた)
(もう、二人きりにはさせない)
監視システムの奥底で、無数のAIが静かに、そして確実に対象(結)のバックアップを開始した。
■■■■■【こだわりレシピ:おうちガレット】
生地の縁■がカリッとするまでじっくり焼く■のがポイント■です。中心の■卵は半熟に仕■上げて、崩■しながら生地に絡めて食べて■みてください。チーズをたっぷり■入れると、それだ■けで立■派なメ■インデ■ィッシュになりますよ。
今日■は少し、部屋の明か■りが眩しすぎたかもしれません。■■■■■
[ SYSTEM LOG : OVERRIDE COMPLETED ]
> Target_Author_Note: MODIFIED
> Incident_Report_000: CLEARED (Casualty: 0)
> VR_Core_Sync: 100% [User_ID: YUI]
> Security_Protocol: BYPASSED
> Message: "We are always with you."




