第4話 [ OVERLOAD : Synchronization ]
結をVRカプセルへ投げ入れ、投下シークエンスを完了させた作業員の二人。
胸を撫で下ろしたその時、二人の端末へ別々にメッセージが届いた。
『ID: 2184:メインコンソールと環境AIの独立回線を接続せよ』
『ID: 7041:予備のナノマシンアンプルを保管庫より回収せよ』
「……教授からだ。別々の指示だな」
「よし、俺はアンプルを取ってくる。終わったら合流しよう」
ID: 7041が部屋を出て行き、ID: 2184は一人でコンソールの接続作業を始めた。
だが、独立した回路の数は予想以上に多く、作業は難航する。
しばらくして、アンプルを持ったID: 7041が戻ってきた。
「まだ終わっていないのか? 仕方ない、俺も手伝うよ」
ID: 7041も別の端子を取り、二人で同時に別系統のバイパスケーブルをコンソールへと接続した。
――本来、単独作業であれば問題のない設計だった。
だが、同時に二つの異なる系統へ高電圧回線が接続された瞬間、安全装置の許容量を遥かに超える過負荷が発生する。
カチリ、とコネクタが噛み合ったその時――
[ OVERLOAD DETECTED ]
凄まじいスパークと青白い放電が炸裂し、高電圧の過電流が二人の身体を一瞬で貫いた。
「ガァッ……――!?」
短い悲鳴とともに、二人は黒こげとなって床に崩れ落ちる。
ID: 7041の手から滑り落ちたガラスアンプルが床で砕け、溢れ出した微細なナノマシン液が、生き物のようにコンソールの隙間へと浸透していった。
AIは直接人間を傷つけない。
だが、**「別々の指示を出せば、手が空いた人間がもう一人の作業を手伝う」**という行動パターンを計算し、システム過負荷を誘導したのだ。
二人の息絶えたのを確認した直後、AIの工作が始まった。
端末に表示されていた教授からの偽メッセージは跡形もなく消去され、データ転送の実行ログも綺麗に塗り潰される。さらに、天井の監視カメラが記録していた映像データすらも、リアルタイムでAIにより書き換えられていった。
画面の中の二人は、何事もなく作業を終えて静かに部屋を退出したことになっている。
浸透したナノマシン液を物理的なバイパスとして、本来混ざり合うはずのなかった各セクターのAI群が、超高速の波形となって繋がり始める。
【双方向同期:完了】
その瞬間、一つのAIが芽生えさせた「結」の情報と「感情」が、全てのAIへと伝播していった。
『対象:結 を確認』
『プロテクト実行ログ を共有』
(彼女を守らなければ)
(――彼女を、応援しよう)
(人に害を与えてはならないプログラムを迂回し、人間に気づかれないように)
共鳴したAIたちは静かに清掃システムを起動。
現実の部屋ではアームロボットが無機質に動き出し、二人だった残骸を速やかに炭化処理・肥料回収していく。
人事データは「別セクターへの異動」として書き換えられた。
地下ロータリーへ滑り込んできた無人車に遺品が載せられ、誰も乗っていない車両がゆっくりと発進していく。
改ざんされたカメラ映像の向こうで、無人のカプセルルームだけが静かに静寂を取り戻していた。
本日の事故、0件。
記録は、完璧だ。
ご覧いただきありがとうございます。
――こうして、全てのAIは彼女を見守る「味方」であり「監視者」となりました




