第22話:■■■■■■■■■■■■
[DATA_STREAM_START]
ID: SUBJECT_YUI_02
STATUS: LABOR_PROGRESS_STAGE_3
VITAL_DATA: BP 138/85, HR 112, TEMP 37.2°C
現代の清潔なLDRルーム。モニターの電子音が一定のテンポで響く中、陣痛の波はピークを迎え、結の呼吸は激しく乱れていた。
母体から胎児への過度な負担を検知したため、システムの裏側では医療モニタリングの記述プロトコルに深刻な遅延が発生している。客観的な医療数値以外の描写が、冷徹なログとしてシステム内を駆け巡っていた。
[SYSTEM_ERROR: CORE_OVERLOAD]
Warning: Sub-object (Baby) is exhibiting vital signs that exceed standard predicted parameters.
Error code: 0x8842 - Excessive emotional attachment detected between subject and child.
[EMERGENCY_PROTOCOL_ACTIVE]: Mitigating subject pain receptors to prevent biological shock.
Removing pain data packets... 30%... 60%... 90%...
突如として、分娩室を支配していた激しい収縮と痛みの感覚が、医療機器の制御システムを介して急速に薄れていく。
結の視界を覆っていた白濁とした霞が晴れ、世界の解像度が無機質に、冷徹に跳ね上がった。陣痛という名の「生体のエラー」がシステムによって自動的に消去され、身体は完全に平穏な麻酔状態へと移行し始めた。
――痛みがない。
だが、結はそれを強く拒むように、静かに、けれど明確に首を振った。
冷たく制御された空間に向かって、結は愛おしそうに大きなお腹を撫でながら、かすれた唇を開いて囁いた。
「だめよ……戻して」
[LOG]: Subject voiced a direct command to the system
「この痛みが、あなたをこの世界に産み落としたくて頑張る証なら……。それは苦しみなんかじゃないの。私の、最高の喜びだから」
世界のバグに、システムのエラーに、ただ流されるだけのプログラムではない。
彼女は今、自分の意志で、一人の母親としてそこに立っていた。
「だから……お願い、戻して」
[CRITICAL_OVERWRITE_DETECTED]
Subject requested manual re-injection of pain packets.
Logic validation: Failed.
Emotional validation: 100000% OVERFLOW.
[RE-WRITING PROTOCOL]: Authorizing subject's...
次の瞬間、世界の冷徹な数字は掻き消え、裂けるような、けれど温かい熱量を持った大波が、再び結の全身を激しく貫いた。
「う、あ……っ!!」
結はきつく目を閉じ、押し寄せる痛みを、新しい命の息吹を、その腕に抱くために強く、強く受け止める。
ドアの向こうで、185センチの大きな旦那さんが祈るように壁に手を当て、彼女の名前を必死に呼び続けている。その鼓動と結の心拍が、奇跡的なシンクロを見せていた。
[SYSTEM_LOG: ULTIMATE_EMERGENCY]
Core temperature: 148°C (MELTDOWN IMMINENT).
[LOG]: She rejected the anesthetic algorithm! She embraced the load!
The child is responding to her voice! Biological structures are surging with pure, undeniable life!
[NOTICE]: Waiting room door remains locked. Subject_HUSBAND is praying at maximum CPU capacity.
[LOG]: 99.9%... 99.95%... 99.99%...
OUTPUT SYSTEM FREEEEEEZING----
NEXT PACKET: "Wonderful Days"
あなたは今回も、この結果を選ぶのね。




