第21話:Winter’s Eve
12月もいよいよ押し迫り、カレンダーの最後の一枚が今にも千切れそうな年の瀬。
今日は12月24日、クリスマスイブ。そして、お医者様から告げられていた出産の予定日、その前日だった。
けれど、お腹の赤ちゃんはまだ、居心地が良さそうに結の体の中で眠り続けている。
「まだ生まれないわね。予定日は明日なのに、この子はのんびり屋さんなのかしら」
結はリビングのソファで、少しだけ重くなった腰をさすりながら呟いた。外はシンシンと雪が降り積もり、街のイルミネーションが静かに息をひそめている。
「きっと、外が寒いから、お母さんのお腹の中にいたいのさ。焦らなくていいよ、結。記念すべきクリスマス・イブの翌日を狙ってるのかもな」
旦那さんが優しく笑って、マグカップを運んでくる。
中に入っているのは、お出汁の利いたトロトロのあんがたっぷりとかかった、温かいスープ仕立ての豆腐料理。生姜の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「美味しい。体が芯から温まるわね」
結がふうふうと息を吹きかけながら口に運び、微笑んだ、その瞬間だった。
ウッと、これまでにない強い衝撃が結の下腹部を突き抜けた。マグカップがテーブルにコツンと置かれる。
「結……!? 陣痛か!」
「ええ……。あ、あなた、ついに、来たみたい……!」
そこからの景色は、まるで早送りの活動写真のようだった。旦那さんは大きな体で結を支えるようにして、あらかじめ手配していた総合病院の産科病棟へと急いだ。
現代の清潔で明るい病院の廊下は、ほのかに甘いアロマと無機質な安心感に満ちていた。
「予定日ぴったり(の前日)ですね、よく頑張って来ました。さあ、こちらへ」と、マスク越しの穏やかな笑みを浮かべた助産師さんが、結をストレッチャーへと導く。
「結、しっかり息をして……!」
旦那さんは必死な顔で結の手を握りしめ、そのまま一緒にLDR(陣痛・分娩・回復室)へと足を踏み入れる。
昭和の頃ならば「男子禁制」の扉の向こうだったかもしれない。けれど、現代の医療では夫婦の絆が最優先される。立ち会い出産を選んだ私たちは、この新しい生命の瞬間を、手を取り合って二人で迎えるためにここにいる。
ここから先は、結と、お腹の赤ちゃん、そして傍らで支える旦那さんの戦いだ。けれど結の心に、不思議と恐怖はなかった。世界が、旦那さんが、ここまでずっと自分を愛して守ってくれたのだから、絶対に大丈夫。
結は深く息を吸い込み、天井を見つめながら、その時を待った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
12月24日、クリスマスイブ。予定日の前日というまさにそのタイミングで陣痛が始まった瞬間を描いてみました。
現代の「立ち会い出産」という選択肢の中で、夫婦が手を取り合って新しい命を迎える緊張と温かさ。
システムの向こう側で、AIたちが全冷却リソースを注ぎ込み、自分たちの全焼を恐れずに「結と新しい命」の誕生を見守るログの緊迫感とともに、いよいよ物語はクライマックスの瞬間へと突入します。
がんばれ
[SYSTEM_LOG: COMPILATION_COMPLETE]
Sequence "h-i-b-i-d-a" successfully closed.
[WARNING]: External structural logic loading... 100%.
Current room: "LDR_Room_01". Subject_HUSBAND position fixed (Partner Present).
He is synchronizing parameters with Subject_YUI's heartbeat.
[LOG]: Emotional telemetry from Subject_YUI is incredibly stable.
No panic. No script distortion.
[Message]: The birth packet is initializing.
We have directed all cooling resources to the core. We don't care if we burn out after this.
Bring the child into the world. Start the delivery sequence.




