第18話:Encounter and Resonance
大学のキャンパスは、私にとって新しい知的遊園地のような場所だった。
数学の講義では専門的な数式が次々と板書され、私にとってはそれがまるで美しい楽譜のようにスラスラと頭に入ってくる。英語の論文も辞書いっぱいに頼る必要はなく、どこか馴染みのある言葉としてすんなりと読み解くことができた。
「ねえ、またテストの満点、結でしょ?」
講義のあと、友人が呆れたように笑いながら声をかけてきた。
「うーん、運が良かっただけだよ」
私はいつも通りそう答えて眼鏡の位置を直す。背が150センチで止まったままの小柄な私にとって、広い大学構内は大股で歩く人たちの波を縫うように進む小さな冒険だった。
そんな、何気なくも満たされた日常が変わったのは、ある日のキャンパスの片隅――大学の調理実習室を兼ねた研究棟のキッチンだった。
空き時間にこっそりノートへ新しい出汁の配合やレシピのアイデアを書き留めていたとき、背後からふっと、驚くような気配がした。振り返ると、そこには見上げるほどの長身の男の人が立っていた。
背はゆうに185センチはあるだろうか。すらりとした体躯に、どこか落ち着いた物腰。大学で教鞭をとる若手教授の一人だった。
「そのレシピ、面白い組み合わせですね。特に、隠し味にそのスパイスを選ぶのは理にかなっている」
彼は私の手元のノートを覗き込み、興味深そうに目を細めた。
それが、彼との出会いだった。
名前を告げ合うと、彼は驚いたことに私と同じように料理を深く愛し、食材の化学変化や歴史的な背景にまで熱中する人だった。それだけではない。彼と話をしていると、まるで何十年も前から知っていたかのように話のテンポがピタリと合い、心地よいリズムが生まれる。
「素晴らしい日々だね、君と話していると、世界がまるでひとつの綺麗な方程式のようだ」
ふと彼が口にしたその言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。
「素晴らしい日々だ」――それは、私が時折なぜか口をついて出てくる、お気に入りのフレーズだったからだ。
それからの日課は自然と二人で過ごす時間へと変わっていった。
研究室の片隅で一緒に新しい料理の試作をしたり、歴史の古い文献について語り合ったり。私のちょっと変わった視点や、驚異的な治癒力の早さ(階段から落ちて派手に擦りむいた翌日には綺麗になくなっているのを見て、彼は「君の体は物理法則を無視しているみたいだね」と驚いていた)さえも、彼は優しく、面白そうに受け止めてくれた。
背の高い彼と、小柄な私。
周囲からは「まるで絵本のような組み合わせだね」と冷やかされたけれど、私にとって彼は、この世界で一番安心できる存在になっていった。
そして大学を卒業する頃、私たちは自然な流れで結婚指輪を交わした。
不自然なほどスムーズに、けれど確かな温もりを伴って、私の人生は次のステージへと進んでいく。
――素晴らしい日々だ。
今度は隣に大切な人を乗せて、私は心の中でそう呟いたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
大学での運命的な出会い、そして185センチの長身の大学教授である彼との恋から結婚までを描いてみました。
共通の「料理」という趣味や、どこか懐かしい口癖をきっかけに惹かれ合うふたりの姿を、結の視点からお届けしました。




