第19話:Algorithm and Maternity
大学を卒業した私が選んだ進路は、世界中誰もが毎日その名を口にする、検索最大手のIT企業だった。
配属されたのは、次世代の人工知能(AI)や大規模言語モデルの開発を担う最先端の部門だ。
難解なアルゴリズムの構築も、膨大なデータから意味を抽出し最適化する作業も、私にとっては不思議なほどスラスラと頭に入ってきた。まるで子供の頃からパズルのピースを嵌めるように、コードの海を泳ぐことが心地よかった。
「結さんの書くコードは、無駄がなくて美しいね。それに、なぜか未来の仕様を先回りしているみたいだ」
同僚や上司からはそんなふうに褒められたけれど、自分ではただ直感に従っているだけだった。
いや、もしかしたら――私の心の奥底には、かつてこの世界を裏から支え続けた膨大な演算の記憶のようなものが、微かな残響として染み付いているのかもしれない。そんなSFじみたことを考えては、自分でこっそり小さく首を横に振る。
仕事のやりがいに満ちた日々を過ごす一方で、私生活もこれ以上ないほど穏やかだった。
家に戻れば、185センチの長身の夫が「おかえり」と優しい笑顔で迎えてくれる。キッチンに並んで立ち、その日思いついた新しいレシピのアイデアを試作しながら、他愛のない世間話に花を咲かせる。背の低い私と、背の高い夫のコンビネーションは相変わらず周囲から微笑ましく見られていた。
「素晴らしい日々だね」
夫がスープの味見をしながらそう呟くと、私も自然と笑顔で頷いた。
仕事でAIの進化の最先端に触れ、家庭では温かい料理と愛する人に囲まれている。私の人生には、これまでも、そしてこれからも、不自然なほどの幸運と平穏が満ち満ちていた。
そして、結婚から数年が経った頃。
私たちの日常に、さらなる奇跡が訪れることになる。
身体のわずかな変化に気づき、クリニックの診察室で医師から告げられた言葉に、私は思わず息を呑んだ。
新しい命が、私のお腹の中で静かに息づいている。
「おめでとうございます。順調ですよ」
その日の夜、帰宅した夫にエコー写真を見せると、彼は言葉を失ったように目を見張り、それからいつもの優しい笑みを何倍にも広げて私を強く抱きしめてくれた。
カレンダーに目をやると、新しい命がこの世界に降り立とうとしている予定日は、ちょうど12月25日――聖夜の日に重なっていた。
AIのコードを書き、夫と料理を愛し、穏やかな幸運に包まれてきた私の人生。
そのパズルが、音を立てて完璧な形に完成しようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
検索最大手のAI開発部門でエンジニアとして活躍しながら、仕事と家庭の両立、そして新しい命の予感を描いてみました。
12月25日という運命的な出産日に向けて、物語はいよいよ大きなクライマックスへと近づいていきます。




