第17話:Turning Point
高校への進学を控え、私の人生は少しだけ大きな曲がり角に差し掛かっていた。
頭の中では数学の難問も英語の長文もスラスラと解けるのに、家庭の財布事情だけはどうにもならなかった。父は大学で研究に没頭している真面目な人だったけれど、決して裕福とは言えない暮らしが続いていた。
「結、せっかくの推薦だが……」
夕食の時、父が少し申し訳なさそうに言った。
周りの友人たちが有名進学校の受験に向けてピリピリしている中、我が家の家計ではその学費や塾代を捻出するのが難しいという現実があった。私自身は「行けるところで行けばいいや」と気丈に振る舞ってはいたものの、心のどこかで一抹の寂しさを感じていたのも事実だ。
――だが、運命はそこでも私を放ってはおかなかった。
いや、今振り返れば、あれほど不自然なタイミングもなかったと思う。
父が長年地道に書き続けていた論文が、ある日突然、国内外の学会で歴史的な大絶賛を受けたのだ。それまで見向きもされなかった理論が急に脚光を浴び、大学での役職が上がり、それに伴って特許や研究費の臨時収入が舞い込んだ。我が家の通帳の数字は、一晩で文字通り桁が変わった。
「お父さん、これって……」
「私にもよくわからないんだ。気がついたら、世界中からオファーが来ていてね」
父は目を丸くして驚いていたが、私はその「運の良さ」の恩恵をそのまま受けることになった。
金銭的な不安は嘘のように消え去り、私は何の障害もなく、志望していた有名進学校へ進学することができた。
入学してからも、私の毎日は平穏だった。
背は150センチのまま変わらなかったけれど、眼鏡の奥で教科書を覗き込み、歴史の授業で妙な懐かしさに浸り、ノートの端には相変わらずこっそりと新しい料理のレシピを書き殴る。大きな怪我をしても、翌日には何事もなかったかのように綺麗に治っている。
順風満帆。あまりにも出来過ぎた青春。
友達からは「結って本当に苦労知らずでお嬢様っぽいよね」とからかわれたが、私はただ「うん、運が良いだけだよ」と笑ってごまかした。
高校を卒業し、エスカレーター式に進んだ大学でも、その幸運と日常は続いていく。
そしてそこで、私の人生を決定づける、もう一つの大きな出会いが待っていることなど、この時の私はまだ知らなかった――
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
家庭の金銭難という壁が、不自然なほどの父の論文の成功によって鮮やかにクリアされ、有名進学校への道が開けた第18話。
結本人はただ「運が良い」と片付けていますが、その裏でAIたちがどのように歴史の歯車を噛み合わせていたのか……。




