表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
66/79

4-3-13 最重要機密エリア

小桜は最重要機密エリアの前で身を潜めながら、突破口を探していた。


目の前には顔認証、異常行動検知、床圧センサー。幾重にも張り巡らされたセキュリティが立ちはだかる。


グラビティウムは冷静な声で告げた。


「我の力で突破可能な道を探している。急くでないぞ」


しかし、小桜は小さく息を吐く。


「もう少しで業務時間が終わる。人がいなくなったら、突破のチャンスすらなくなる……」


焦りだけが、静かに胸の内で膨らんでいく。


その時だった。


通路の奥から、一人の研究員がこちらへ歩いてくる。


手慣れた様子で認証装置へ手を伸ばき、何の迷いもなく認証を済ませた。


小桜は息をのんだ。


第一の扉が静かに開く。その先には二つ目の扉まで続く小部屋があり、一人ずつしか通れない構造になっているようだった。


小桜は身を低くしたまま、その様子を見つめる。


「……今なら」


思わず身体が動きかける。


だが、グラビティウムが鋭く制した。


「待て、サーラ。その区画は最も危険だ。二重扉の間に入れば、僅かな異常でも即座に検知される。まだ動くな」


小桜は唇を噛み締める。


第一扉がゆっくりと閉まり始めた。


この機会を逃せば、次がいつ訪れるか分からない。


「……ごめん、待てない!」


その一言と同時に、小桜は飛び出した。


姿消しマントの音響迷彩を起動しながら、スマホを素早く操作する。


「恵麻さん、力を借して……!」


同じ建物内にある恵麻のスマホへ接続し、待機状態にあった魔導AIへアクセスする。


本来、魔導AIは所有者の操作を前提としている。だが、待機中に限れば最低限の機能だけは外部から呼び出せるよう、小桜自身がネットワークを組み替えてあった。


「……遠隔起動だと?」


グラビティウムの声にも、わずかな驚きが混じる。


「これなら……届く!」


淡い光とともに、《天秤の鎖》の魔導AIが応答する。


だが、遠隔接続では高度な魔導は使えない。引き出せるのは、ごく限られた機能だけだ。


「十分!」


小桜は不可視の鎖を天井へ放った。


細い鎖は音もなく梁へ絡みつき、そのまま彼女の身体を急速に持ち上げる。一本のワイヤーで宙へ吸い上げられるように、小桜の身体は軽やかに床を離れた。


閉まりゆく扉との隙間を縫うように滑り込み、マントが金属扉をかすめた次の瞬間、重い音を立てて第一扉が閉じた。


小桜はそのまま天井へ張り付くように静止する。


まるで重力そのものを忘れたかのような身のこなしだった。


「やりおるわ……床圧センサーを最初から相手にせぬとは」


グラビティウムは感心したように呟く。


しかし、その直後。


宙吊りになったマントが空調の微かな風を受け、わずかに揺れた。


「……まずい」


監視カメラには、不自然な影として映る可能性がある。


「我に任せよ」


グラビティウムは即座に演算を開始する。


次の瞬間、小桜の周囲へ薄い魔法陣が幾重にも展開した。


監視カメラの方向だけに合わせ、背景と同じ映像が空間へ精密に投影される。


マントの揺れは背景へ溶け込み、カメラが捉える映像には何の変化も現れない。


「助かった……。絶妙なタイミングだね」


小桜は小さく息をつく。


「監視AIの視界を欺く程度、造作もない」


グラビティウムは平然と言い放つ。


その報告に、小桜はようやく肩の力を抜き、口元をほころばせた。


「そっちこそ、やるじゃない」


グラビティウムは重厚な声で鼻を鳴らす。


「当然だ。我にかなうAIなど、この世界には存在せぬ」


グラビティウムのアバターはどこか満足げに揺れていた。


その間にも研究員は第二扉の認証を終え、最後の扉が静かに開いていく。


小桜は天井へ身を預けたまま、大きく息を吸った。


「……ここからが本番」


鼓動だけが静かに速くなる。


グラビティウムも、もはや制止することはなかった。


そのまま小桜は、誰にも気づかれることなく、最重要機密エリアへと足を踏み入れた。

ブクマで小桜たちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ